第12話 水族館
「やばい! 吉村! ペンギン可愛い過ぎっ!!」
「そうだな」
フードコートでの食事を終えた俺たちは生き物たちを観ていた。
中でもペンギンを楽しみにしていた高橋が真っ先にペンギンコーナーではしゃいでいる。
「人間があんな歩き方しても全然可愛くないのに、なんでペンギンだと可愛いのかなぁ」
「……高橋もやってみれば? ペンギン歩き」
「無理……罰ゲーム過ぎて死ねる」
高橋は感情の起伏が激しく、観ていて飽きない。
分厚いガラスに張り付いてペンギンを見ている高橋は後ろ姿でも楽しそうだ。
「吉村! あっちで触れる生き物居るって!! 行こっ!」
手を引っ張られてふれあいコーナーに連れてこられた。
何気に、初めて手を握ったなぁと内心ドギマギしながらも高橋はヒトデを触り始めて変な顔をした。
「なんかざらざらしてる〜」
「……そうか」
思ってた感じと違うらしい。
「吉村も触ってみてよ! ほら!!」
「いや俺は」
「いいじゃ〜ん」
そう言って有無を言わざず俺の手を掴んでヒトデを触らせた。
……感覚は違うのだが、小学生の頃にやらされた魚のエラを取る時のあのゾワッとする何かに似ている。
「どう?! どう?! 吉村」
「……俺の語彙力では表現できない……」
「語彙力迷子だね!!」
俺の変な顔を見て無邪気に笑う高橋。
横でふれあいコーナーの生き物たちの解説をしている飼育員さんの話が全く入ってこない。
「吉村! サメ! サメのコーナーあるんだって!!」
「お、サメか。いいな」
再び引っ張られてサメコーナーへと向かう。
サメは男のロマンを感じされてくれるから好きだ。
眼とか怖いけど。
「高橋はサメ好きなのか?」
「うーん普通? かな。でもカッコよくない?! 海の王者です!! って感じで」
「あの尻尾とかな」
「そうそう!」
このサメ可愛い!と騒ぎながらふたりで水槽を見て回る。
「サメって第六感があるらしいぞ」
「なにそれ超能力?!」
「いや俺もよくは知らん」
「あ、なんか聞いた事ある気がする〜。あ、バレンチノ瓶!」
「ロレンチーニ器官、らしいな」
「全然違っててウケる!」
まあ、ロレンチーニ瓶とも言うらしいから微妙に合ってる。
「大喜利なら良かったな」
「笑ってよ吉村……滑ってて恥ずかしい……死ねる」
その顔が面白かったので思わず写真を1枚撮った。
「あ! ちょと吉村?!」
「今日1番の写真を激写してしまった」
「恥ずかしいから消してぇ」
「……ちょっと何言ってるかわかんないっすね」
「芸人さんのネタしてもダメ!!」
「はい……すんません」
「もう〜」
仕方ないので消した。
まあ、逆の立場なら絶対に消してほしい案件だからな。
「せっかくだからふたりで写真撮れるとこ探そ!」
そう言ってパンフレットを見出した高橋。
そんな高橋をよそ目に時間を見た。
あちこち回っていた間にもう少しで日が暮れ始める。
写真を撮ってお土産コーナー見てそろそろ帰る頃合だ。
「あ、ここにしよ吉村!」
「おう」
巨大な水槽の前に来た。
大きなサメもウロウロしているような水槽で、フロア全体も明るい。
俺らの他にも水槽をバックに写真を撮っている人達がいる。
「明るさ良い感じ! 背景ばっちし!」
高橋が俺の横に来て自撮りを始めた。
角度を何度も変えて撮り始めて高橋に腕を掴まれた。
やんわりと当たる高橋の胸を意識してしまい笑顔が歪む。
「……あの、高橋さん、当たってるんですが」
「……当ててるんです」
「……さいですか」
密着されているし、密着させている事に対してさらに意識してしまう。
不意に姉ちゃんが抱き着いてきた時の事を思い出した。
高橋もそれを意識しているのだろう。
……俺は複雑な思いを抱きながらも姉ちゃんに初めて感謝した気がした。
「写真撮りましょうか?」
「あ、いいんですか?! ありがとうございます!」
通りすがりのお姉さんが写真を撮ってくれるとの事で甘える事にした。
思春期男子としては今の状況は大変嬉しい事であるが、やはり恥ずかしいもので早くこの場を離れたい。
お姉さんが撮ってくれるならその方が早く終わる気がするし助かる。
「彼氏さーん、笑ってください」
笑ってます。笑ってるんですこれでも。
「みぃくぅん〜」
「ふっ!」
不意に高橋が姉ちゃんのマネをしたので笑ってしまった。
その隙を逃さず写真を撮ったお姉さんが確認のために撮れた写真を見せてくれた。
「ありがとうございます!」
ふたりでお礼を言ってお土産コーナーへ向かって歩いた。
「……姉ちゃんの真似はずるいな」
「似てた?!」
「妹が見たら腹を抱えて笑うな。間違いなく」
胸が当たっている事も忘れて笑ってしまったからな。
まあ、不意打ちということもあるが。
「吉村、お姉さんには言わないでね?!」
「……ちょっと何言ってるかわかんないっすね」
「吉村〜。絶っ対言わないでねっ!」
チクられたらお嫁に行けない!とかしれっと言わないでもらっていいですかね。小っ恥ずかしい。
とりあえずお土産コーナーを見ながら何を買うか考える。
主に妹に。
無難なクッキー辺りを家の分とママさんの分を手に取った。
「吉村! これお揃で買わない?!」
高橋が見ているのはペンギンのキーホルダーだった。
よくあるカップル向けのやつで、2つで1つのパターンだ。
「ああ。買うか」
「うん!」
お会計を済ませて水族館を出て電車に乗って揺られた。
平日の夕暮れ時という事もあり帰宅ラッシュ気味の電車内。
高橋と喋るのは人目的に控えたが、撮った写真を高橋が送ってきたので時間はすぐに過ぎた。
そうこうしていると自宅の最寄り駅に着いて電車を降りてふたりで歩く。
「今日は楽しかったぁ!」
「そうだな」
デートというよりは、ふたりで遊びに行ったという感覚だが、楽しかったなら良かった。
「デート」と聞くと、どうしても男がエスコートしてどうのこうのなイメージだったが、秒で俺には無理だと思った。
「吉村」
「ん? どうした?」
「そのぉ……手、繋いでい?」
「お、おう……」
水族館では散々手を繋いでいたが、今になって恥ずかしそうに言う高橋を見て俺も恥ずかしくなりながら手を握った。
高橋が指を絡めてきて恋人繋ぎをしてきた。
目が合って、照れ笑いをした。
陽がほとんど落ちて自分の顔色が見られていないのが救いだった。
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