第4話 クラスの内政事情

 俺と高橋の席はわりと近い。

 席替えで俺は前と対して変わらず窓際の席だが、高橋は俺の席の2つ前の右の席。


 なるべく意識しないように大概は窓の外を見ているか教科書を眺めて授業を受ける。


 それでも視界の隅に高橋の顔は写る。


「みなもん、髪染めたばっかりなのに艶があっていいなぁ」

「陸上部だとやっぱり髪って痛みやすいの?」

「そうなのよね〜」


 高橋の後ろの席の生徒は高橋と仲が良く、同じくスクールカースト上位の辻川彩芽が居るからだ。


 辻川は亜麻色に焼けた髪をポニーテールにしていて、陸上部所属の1年であり期待の星らしい。


 スレンダーでやや褐色肌、まだ幼げな顔付きは残っているが明るく高橋と似て無自覚にカースト上位にいる人種。


「みなもっちゃん家のお母さん美容師だもんね。あたしもまた染めてもらおっかな」

「えななん、また染めるの?」

「バイト代入ったらしよっかなぁと思って」


 川崎恵那。

 こいつはこのクラスのトップカーストであり最も俺と高橋の関係をバレたくない相手。


 ロック好きらしくバンドマンっぽいオーラをガンガン放っている。

 1ヶ月単位で髪型やら髪色が変わっている。

 DQN認定の特級危険人物。


 ギターケースを背負って登校してくるものの軽音部には所属していないが、どうやら学校外での活動をしているらしい。


 顔も広いらしく、下手に高橋とデートでもしてしまい川崎の息のかかった他校の生徒にでも目撃されたら俺の人生は詰むだろう。


「みんなは夏休み、どうするのかしら? 予定とかあります?」

「私は部活三昧。合宿もあるっぽいんだよね」

「あたしはバイトとLIVEかなー。みなもっちゃんは?」

「わたしもバイトかな」

「みんな忙しそうね。良かったら別荘にでも招待しようと思っていたのだけど」

「夏休み、別荘、バカンス……私、グラウンドじゃなくて砂浜走りたい……」


 もう1人の特級危険人物、一条叶葉いちじょうかなは


 地元ではそれなりに有名な企業の社長の娘でわかりやすく金髪。

 普段は落ち着いてい上品な振る舞いだが、絶対性格悪い(俺調べ)。


 高橋たちグループをやんわりと言葉巧みに誘導する口の上手さや手腕は認めるが、敵にすると危険だ。


 ましてや金と権力を持っている父親がいる。

 目をつけられたら何をされるかわからん。


 高橋が仲良くしているグループは学校全体で見てもわりと派手だ。見た目が主に。


 生徒の自主性を重んじるというていのいい校風と卒業後の選択肢の異常な幅の広さ故にこの学校の生徒は髪型も色も自由。


 もちろん法律に触れない範囲だが。


「そろそろ授業始まるぞ野郎ども〜席つけ〜」


 先生が教室に入ってきてみんなは自分の席へと戻っていった。


「……はぁ……」


 俺は静かに小さくため息を付いた。


 高橋の事は嫌いじゃない。

 だが、リスクが高い。高すぎる。


 あんな派手な奴らと下手に関われば高校生活3年間は終わる。


 高橋には約束事として学校でなるべく関わらないようにさせたのはこのためだ。


「……はぁ……」


 俺はもう一度小さくため息をついて教科書を眺めた。



 ☆☆☆



「ほほぉう。それでそれで」

「なんかめっさ可愛い感じだったよ」

「やるじゃないか美緑〜お姉ちゃんは嬉しいぞ〜」

「……」


 家族で晩御飯を食べている時、妹である美香は姉の美奈に高橋の事をばらしやがった。


「美緑、どこまでいったんだよ? さぁ、全部洗いざらい吐いちまいな」

「……」


 姉と妹というのは全家庭がこうなのだろうか?

 父親は海外へ単身赴任で居ないため、俺は非常に肩身が狭い。


 俺が美香に雑な扱いをされているのも全部この美奈のせいである。


「……とくに何も」

「私が見たのは公園のベンチで一緒にアイス食べてるのを窓から見ただけだしね」


 チョコミントアイス事件の後、美香に尋問をされたがほとんど何も話していない。

 というか話す事があまり無かった。


 助けた→告られた→フッた→黒髪ロング→妥協。

 今ここ。

 という説明のみ。


「美緑、今度家に連れてきなよ! 晩御飯一緒に食べたい」

「おい外堀埋めようとするな」

「お姉ちゃん、私も夕飯の買い物付き合うよ!」

「そもそも姉ちゃんは夜の仕事だろ」

「そこはなんとかするし〜」


 長女である美奈は22歳でスナックで働いている。

 そのためほとんど夜は家に居ない。

 今日はスナックのママさんが休みのため3人での食事だ。災難な事に。


 今住んでいる家もママさんのツテで紹介された所だし、色々と世話になっている人でもあるから余計な事をする為に無駄に休まないでほしい……


「お姉ちゃん、この作戦は吉村家の一世一代のチャンスだから絶対成功させなきゃね!」

「そうね。美緑は全然女っ気なかったから、これを逃すと今後美緑の結婚相手を探すのが苦労するのは目に見えてるものね!」

「私、お兄ちゃんがおじさんになっても独り身で寂しそうにしてるのとか見るの嫌だし!」

「彼女ちゃんにはしっかり結婚までいってもらわないとね!」

「……ご馳走様」


 モテなくてすみませんね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る