第3話 チョコミン党
「お兄ちゃん〜アイス食べた〜い」
高橋と付き合う事になったその夜。
なぜか俺の部屋のベッドでくつろぎながらアイスを所望していらっしゃる御妹様。
中2の妹は本当にふてぶてしい。
「買ってきたらいいだろ」
「こんなに可愛い妹が夜に出歩いたら大変じゃな〜い」
「そうだな。羽虫が寄ってきそうだもんッぐはっ!!」
寝っ転がっている状態の妹が器用に俺の腹を蹴ってきた。
「チョコミントアイスね〜よろ〜」
「お前なぁ……はぁぁ……買ってきたら自分の部屋戻れよ」
「うぃー」
全く可愛くない奴だ。
俺の知っている「妹」はもっと可愛げがあるはずだったのだが、
そうか、血が繋がってないとかそういう類いだ。
じゃないとこんな奴隷のような扱いなんて受けないだろう。
学校ではひっそりと過ごし、家では妹に虐待を受けている。
俺に居場所はないらしい。
コンビニまでは歩いて3分。
夏が近付いているからか、夜でも少し暑い。
「……考えてみれば、歩いて3分で
カップ麺を作る並のお手軽さ。
「いらっしゃいませー。あ、吉村」
俺を見るなり微笑む高橋。
ちくしょ……可愛いなおい。
「……おう」
時刻は21時手前。
高校生である高橋が働ける時間はせいぜい21時。
補導されるのは22時以降だから、まだ居てもおかしくないか。
「……もしかして、会いに来てくれた?」
後ろ手で前傾姿勢で俺の顔を覗き込むように見つめてくる高橋。
「単に妹にパシられただけ」
「さいですかっ」
「さいですよ」
ぷいっとそっぽ向いて、それから笑う高橋。
「吉村は何買いに来たの?」
「チョコミントアイス」
「わたしも好きだよ! 同じチョコミン党!」
「妹も俺もチョコミン党でな」
人はチョコミントアイスを「歯磨き粉じゃん!」とバカにするが、チョコミントアイスは断じて歯磨き粉ではない。
パリッとしたビターチョコの食感とミントの甘さと透き通る清涼感。
甘いのにスッキリとした味わいが続く神秘の食べ物にして至高のデザートと言えるだろう。
「吉村がチョコミントアイスの話したからわたしも食べたくなった〜」
「なら買うといい。チョコミン党なら食べたいと思った時はいつでもどこでも食べるものだ」
「吉村が饒舌!」
嬉しそうに笑う高橋。
どうしてこいつはこうも楽しそうに笑うのか。
チョコミントアイスを2つ手に取り高橋の待つレジへと品を置いた。
「ねぇ吉村、わたしこの後上がりだから少しだけ話せない?」
事務所の冷蔵庫に使い捨ての保冷剤もあるから少しだけ! と懇願される。
チョコミントアイスが溶けるからという逃げ道を早々に潰された。策士だな。
仕方なく店の外で待っていると直ぐに来た。
同じチョコミントアイスを持って駆け寄ってきた高橋。
そんなに揺らして近寄ってこないでもらっていいですか。見ちゃうので……
「ありがとね! 吉村」
「……おう」
近くの公園のベンチに座り2人でチョコミントアイスを食べ始める。
少しだけ間隔は空いているが、それでも近い。
「んん〜♪ 仕事終わりのアイスは罪だね」
「働かないで食べるアイスはもっと美味いんだぞ。知らないのか」
「それはずるいね」
静かで暗い公園で2人きり。
隣で笑う高橋は明るい。
「ありがとね。吉村」
「なにが?」
「お付き合い、了承してくれて」
チョコミントアイスを
「そういう契約だ」
「ビジネスマンみたいな会話〜」
ロマンチックな返しが出来なくてすみませんね。
「今日ね、吉村にオッケー貰えて嬉しくて、仕事中ずっとにへにへしてて、先輩にからかわれちゃった」
「仕事しろ仕事」
「今日は許してよ〜」
なんで俺は堂々と惚気られているんだ……
「約束は忘れるなよ」
「うん。吉村のそばに居たいから守るよ」
ストレート過ぎて辛い。
俺はまだ、高橋の事を好きにはなれてない。
こんなに素直に言われると、どうしていいか分からなくなる。
「たまにでいいから、こうして2人でまたアイス食べたいな」
「……気が向いたら」
「うん」
2人とも食べ終えて、ゴミを片付けて帰る事にした。
本当に他愛もない会話と時間。
ただ2人でベンチに座ってチョコミントアイスを食べただけ。
「じゃあね! 吉村」
「おう」
笑顔で手を振る高橋。
バイト終わりで疲れてるだろうに、どうして高橋はこんなにも笑顔なのか。
お互いに背を向けて歩いて、なんとなしに振り返ると高橋も振り向いててまた手を振ってきた。
俺も手を軽く上げて歩き出した。
「お兄ちゃん、あの可愛い子ちゃんは誰?!」
家に帰ると、妹による尋問を受けました……
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