第1話 騎士がやってきた
これは10日くらい前の話。
『聞け、ヒルザ王国の国民よ。我らは国王直轄軍第一部隊である!!』
「ん?」
本を読んでいると、突如外から大きな声が聞こえた。
国王直轄軍とか聞こえて、ちょっとだけ気になったから、カーテンの隙間から外を覗いてみる。
全身を鎧で包んだ騎士達が1、2、3、4、5……。
騎士たちが大人数で村の広場に整列していた。
「一体何事……」
わたしの村はヒルザ王国の森の中にある、名もない小さな村だ。
王都からも馬で2週間ほどかかる距離にあって、外から人がやってくることなんて滅多にない。
それも、国王直轄軍ともなれば猶更だ。
『これは王からの命令である!!至急、至急広場へ集まるのだ!!』
王からの命令と聞き、村の人が慌てて広場へと駆けてゆく。
「これ。わたしも行かなきゃダメなやつかな」
初めてみる異用な光景に、わたしは怖じけづいて動くことができない。
わたしは世間で言うところの【ひきこもり】だ。
10歳の頃から親戚のおじさん家の屋根裏部屋で生活してきた。
今年で6年目になると思う。
出来るだけ外には出たくはないし、人にも会いたくない。
知らない人なんてもっと嫌だ。
「まぁ、わたし1人くらい居なくても大丈夫……だよね」
恐らくわたし以外はみんな集まったところで、軍の人からの話が始まった。
『集まっていただき感謝する。一刻を争う事態の為、前置きや詳細は割愛させていただくが……【魔王】が復活した。我々は魔王に対抗すべく、新たな【勇者】を探している』
「魔王が……復活?新たな勇者?」
昔話でしか聞いたことのないようなワードが、騎士の口から当たり前のように飛び出す。
村の人たちも動揺しているようで、ざわつき始めていた。
『これを見て欲しい!!この岩に突き刺さっている剣。これは300年前の勇者が封印された伝説の剣である。かつての勇者が使っていたものだ。これを抜くことのできた者には、新たな勇者として、魔王討伐に向かって欲しい』
広場の真ん中に運ばれてきたのは、大きな岩とそこに突き刺さる一本の剣。
どうやって突き刺したのかは分からないけど、突き刺した人は、相当な力の持ち主なんだろうね。
『今から1人ずつ前に出てきていただきたい。まずはそこの者!!』
最初に呼ばれたのは1人の大男。
彼は大工の仕事もしているし、この村では多分一番の力持ちだと思う。
大男は剣を抜こうと全身に力を入れて『ふんっ!!』と引っ張った。
……。
剣は全く動いていない。
大男は『オォオオオオオオオオ!!!!!』と雄たけびを上げながら、再び引っ張った。
大男の全身からは大粒の汗が噴き出す。
……。
それでも剣は微動だにしない。
地に根を生やしたかのように、全く動く気配がない。
『もうよい。下がれ』
大男は剣から離れると、肩を落としながら下がっていった。
力には自信があっただろうから、相当なショックだったと思う。
『では次は……』
その後も1人、また1人と挑戦するも、抜ける気配は一切ない。
村一番の力持ちでも抜くことのできない剣なんて、もう誰にも抜くことはできないと思うけど……。
いつの間にか、挑戦していないのはわたしだけになっていた。
『これで全員か……他に、他に挑戦していない者はいないか!!』
『……』
村の人たちは静まり返る中、1人だけ見知った顔が手を上げていた。
親戚のおじさんだ。
『どうした?お前は挑戦しただろ?』
『いえ、私は挑戦させていただきました。ですが、私の家の屋根裏部屋にまだ1人おります』
「何で言っちゃうの?!」
突然のカミングアウト。
傍観に興じていた私に衝撃が走る。
『ほう、その者はどこにいる』
『その家の屋根裏部屋です』
おじさんはわたしの方を指差す。
すると、広場にいる人全員がこちらの方を見てきた。
「あっ……」
そして騎士と目が合った。
『そこの白い髪の者!!聞いていなかったのか!!早くこちらへ来るのだ!!』
わたしはすぐにカーテンを閉めると、急いで扉の鍵を閉める。
『おい!!白い髪の者!!』
そして布団に潜る。
おやすみ!!!!
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2話は20時に公開予定です!!
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