第35話 距離と無力と
谷間の道にいた村人を暴風が襲った。
「なんだ⁉」「この風、スカートが捲れちゃう!」「紅雄たちはどうなったんだ⁉」
森の方で轟音が聞こえた。
メイデン村の住人たちは紅雄のことが心配だったが、付いて行っては足手まといになると谷間の道を動かなかった。だが、ここまでの規模の爆発が起きると流石に何があったのか気になってたまらない。
「村長、ベニオは大丈夫でしょうか?」
「わからん……む、も、森にはミントがいると紅雄が言っていたぞ! ミ、ミント!」
ビオ村長が杖を突き森へ向かおうとする。
「安心しろ、ミントは森にはいない。癪だけど、将が助けてる」
「紅雄⁉」
それを紅雄が押し留めた。
隣にはライカが立ち、ほのかに全身から稲妻が走っている。彼女の『
グラントが前に出て尋ねる。
「紅雄、一体何があったんだ? 爆発したように凄い音がしたぞ」
「まさにその通り、森の半径五キロメートルほどを雷で焼いてもらった。ライカの技でな。将を倒すにはこれしかなかった」
「どういうことだ?」
疲れたように紅雄がへたり込む。
「将の能力は時間停止、それだけ強い能力にはたいてい弱点がある。止められる時間が短いとか、次に発動させるには時間がかかるとか。だから、短時間で逃げられない範囲攻撃で将の逃げ場をなくした。多分だけど、時間を止められても十秒から三十秒ぐらいだろ。それ以上止めれるほど力は強くないと思う、そんなに長く止めてなかったから。これで将を、『
「全部お前の憶測だな、紅雄。そんなんじゃ足元すくわれるぞ」
将の声が聞こえた。
「うわああ!」
男衆に混じって将が立っていた。驚いて男衆が逃げ惑う。
全くの無傷で鎧には傷一つ見受けられない。
「俺の止められる時間が数秒だってあたりを付けての作戦何だろうが、爪が……いや、考えが甘かったな。俺の時間停止の制限時間は——————ない。無制限だ」
将の姿が消える。
「こんなこともできる」
そして再び現れる。何かが起きたのかと周囲を見渡す。
何も変わったものがないように見える……が、
「スースーするんだけど、何か嫌な……キャアアアアアアア!」
ライカが全裸になっていた。
下着も全て取られ、生まれたままの姿になり、体を押さえてへたり込む。
「な、このスケベ野郎!」
顔を真っ赤にしながら、紅雄は怒った。
「お前も見たかっただろう?」
将はひらひらと見せつけるように手に持った
「またこんな……人前で辱められて、死にたい」
暗い顔になり、沈み込むライカ。だが、この状況は非常にまずい。
ライカの『
「返せ!」
将に挑みかかり、を握る。そして、将の背中に収まっている大剣に逆の手で触れ、
「『
「お?」
将の手に大剣が握られ、彼の真後ろにサンダークロスが落ちる。
「言われなくても返してやるよ。ちょっとしたジョークだって、怒るなよ」
将はにやけながら下着を紅雄に放り投げる。
「変わったな、将。お前はそんな奴じゃなかった。もっといい奴だった。人に優しくできるやつだった」
「人には優しいさ。だから、お前を殺してない。だけどよ。この世界のキャラクターには別に好き放題やってもいいだろ。ハハッ!」
笑いとばし、剣を振り上げ、将はメイデン村の人々の方を向いた。
「そんなに俺たちに付いて行きたくないのはこいつらがいるからか? こいつらに洗脳されたから、お前はこの世界の住民にこだわっているんだろ?」
村人たちに一歩ずつ歩み寄る将。
「まずい!」
殺す気だ。
紅雄はさせまいと、小石を拾う。
「だったら、そのこだわりをなくしてやるよ!」
将が村人へ向けて剣を振り下ろそうとして、
「『
剣が小石に変わった。
「……あん?」
小石を見つめる。
「メイデン村の人たちは傷つけさせない!」
剣を握り締めて紅緒は将を睨みつけた。
「……そっか」
バキッと骨が砕ける音が鳴り響いた。
「ぐわっ……」
「グラント!」
小石をもった手を近くにいたグラントに叩きつけたのだ。殴った衝撃で手に収まっていた小石は砕け散る。
「痛めつけるだけなら、剣がなくてもできる」
将は手当たり次第に村の男衆を痛めつけ始めた。男衆も反撃するが、時間を停止させ、躱され、逃げようとしても、元の位置に戻されるので、なすすべなく将の暴行を受け続ける。
「ぐわあああああああ!」
「やめろ!」
将を止めようと走り寄る紅雄だったが、
「そこを動くなよ。紅雄。こいつらが殴り殺されるのを黙ってみてるんだ」
元の位置に戻された。
「なっ⁉」
何度も、何度も、将へ向けて走るが、元の位置に戻される。
「将やめろ!」
「やめる必要がどこにある? お前は俺を倒せない。ハッハッ!」
将がグラントの腹を踏みつけても、自分には見ていることしかできない。
諦めたくないが、もう手はない、考えつくした。打てる手はすべて打った。なのにダメだった。
悔しくて、拳を震わせ、俯く。
「!」
髪に溜まった雨の水がダラダラと流れ、紅雄が握っている巨剣に落ちる。そこに描かれている「R」の紋章に。
勝機は、まだある。
「将! お前の言う通りかもな」
「あん? 仲間になる気になったかよ!」
将がグラントを踏みつける足を止める。
「こと、閃きってものが欲しいときには、何も考えない方がいいらしい。それも考え抜いた末にようやくわかったよ!」
「? 何が言いたいんだ?」
「お前に勝つ方法が思いついた。それも絶対勝つ方法だ」
ポカンと口を開けたまま、将が固まった。
「そうか、なら、やってみろ」
「ぐわああああ!」
待つ気はないとグラントの顔をギリギリと踏みつけ、締めあげる。
「やってみるさ。ライカ、着替えは終わった?」
「もう服を脱がせられるのは勘弁」
「ライカ、またお願いする」
「何度もやってるけど、気持ち悪いのはどうなったんだい?」
「耐えてる、すっと」
少し気を抜けば吐きそうになる。
ライカは手を握り、『
紅雄とライカの姿が消え、将はグラントを締め付ける足の力を緩めた。
「また逃げるのか?」
「逃げるけど、ちょっとおててを拝借」
「⁉」
いつの間にか真横に出現し、手を握ってきた紅雄に驚く。
「『
将の手に「L」の紋章を刻み込んだ後、再び閃光と共に消えてしまった。刻まれた「L」の紋章を見つめる。
「今度はどこに連れてってくれるのかな?」
どうせ何もできないと、将は鼻で笑った。
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