第34話 停止と距離と

 稲妻が走り谷間の道の上で『疾風迅雷グローム・アクーラ』が解除される。

 村人たちが驚いて見ている中、紅雄とライカの姿が現れる。


「どうするんだ、ベニオ。時間を停止させる能力があるのなら」

「ここにいてもすぐに来る。だから、ここにいちゃだめだ。村の人たちを巻き込む。森の中に逃げ込むんだ!」

「逃げるだけか?」

「いや、お前に何とかしてもらう。ライカ。作戦を立てる。お前の最大火力を教えろ」


 村人たちが見守る中、紅雄とライカは作戦を話し合い、ある程度算段が付くと、『疾風迅雷グローム・アクーラ』を発動させ、森の中へと移動した。


 稲妻が森の木々を縫うようにして走り、森の中心当たりで『疾風迅雷グローム・アクーラ』を解除した。


「大丈夫か、ベニオあいつは追ってくるのか? 私たちを放っておいて、村の人たちを殺す心配はないか?」

「その可能性はある。俺たちを追ってこない可能性は。だけど、俺の能力なら、そもそも追わせる必要はない」


 紅雄は小石を拾う。

 それで、何をするのかライカは瞬時に理解した。


「なるほど、やはり便利だな。お前の力は」

「ああ、だからライカ。お前は準備を、後は頼んだ」


 ライカは頷き 体を雷と化した。稲妻は近くにあった木の幹を走り、空へと昇っていく。


「さて、『エンブレ……』」

「その必要はないぜ」


 もうすでに将は来ていた。悠々とした風体で木に寄りかかりながら、ガシャッと鎧を鳴らして身じろぎする。


「逃げて何をするつもりだ? 俺に勝てるわけがないだろ?」

「………」


 紅雄は手を挙げて首を振った。小石を投げ捨てる。


「そうだな、単純で実力では勝てない。それは確実。断言していい」

「諦めたか、そりゃそうだよな。本当にありきたりなことを言うが、時間を支配すると言うことは世界を支配すると言うことだ。お前の能力どころか、どんな力だって俺の『タイム・フリーズ』の前には屈服するしかない」


 うんうんと満足げに頷く将。

 紅雄は広げた手を上に持っていき、空を指さす。


「ああ、勝てない、認め……あ、UFO!」

「え⁉」


 バッと紅雄が指した方向を振り返る将。


「どこ、どこ⁉ こんなファンタジー世界にUFOなんてすげえ!」


 空には何も飛行物体はない。ただ暗雲が立ち込め、ゴロゴロと激しく稲光を走らせているだけだ。

 後ろからダンッと地面を踏み鳴らす音が聞こえた。

「俺も見たい! どこだよど……『時間凍結フリィィィィィズ』!」


 将は能力を発動させ、時間が停止する。

 紅雄はドロップキックをかまそうとしていたのか、両足をそろえて将に飛び蹴りをくらわせようとしていた。

 呆れて頭を掻く将。


「不意打ちをさせるにしても、もっと何か手があるだろう。ばかじゃねえのか」


 ドロップキックの軌道から逃げ、


「攻撃するのも馬鹿馬鹿しいわ。『時間解凍タイム・メルト』」


 時間を進める。

 キックが躱されて、紅雄はそのまま川へと突っ込んだ。


「だぁ! くそっ! やっぱりダメか!」

「ダメに決まってんだろ。ったく、もっと考えろ……そういや、前にお前と別れる前に行ったような気がするな。もっと考え、あれ?」


 首を傾げて思いだそうとする将。

 違う、あの時だ。俺が頭を打ちづける直前に将は能力の啓示が来ない俺にアドバイスをしたんだ。


「将、逆だ。お前は考えすぎるから、考えるなって言ったんだよ」


 川に大の字で浮かんで将の間違いを訂正する。


「ああ! そうだ、懐かしいな。あれから三ヵ月も経ってるんだもんなぁ」


 手を叩いたり、全身を使って頷いたりして、鎧を鳴らして懐かしさにふける。


「お前にとっては三ヵ月前かもしれないけど、俺にとっては数週間前なんだよな。そして、つい最近、全く逆のことを言われたよ。俺は考えて考え抜いた方がいいって。どっちが正しいんだろうな?」


 空を見つめる紅雄。雲の中で轟く雷光は異常に光り、雲の色を黒から金へと変えていた。


「俺は後者だと思ってる」


 雷雲が爆発した。


雷ノ放流サンダー・ストリュウム!」


 森中にライカの声が響き、一筋の稲妻が大地を走る。

 稲妻は紅雄の体を攫い、森の奥へと連れ去っていく。


「紅雄?」


 紅雄がいなくなったことに気が付き、周囲を探す。


「ん?」


 ふと気が付けば、暗雲立ち込めているというのに、周囲が異常に明るかった。昼間でもここまで明るくない。野球場のライトを全て当てられた時と同じぐらいの光が将を照らす。

 空を見上げる。


「へぇ、こう来る」


 空いっぱいに広がる雷のエネルギーが落ちてきた。

 一つの街より大きな雷雲が直接地上に落ち、爆発した。

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