第33話 最悪と停止と

 空中に浮かぶ水晶たち。

 停止した雨の世界を歩くなど、『時間凍結フリーズ』能力を持っている自分にしかできないことだと、将は薄ら笑いを浮かべた。


「雷属性の魔法による加速か」


 停止した時間の中、雷を全身から走らせ肉体も雷とほぼ同化している女がいた。


 彼女も雨と同様、ピタリと静止している。掲げた手には稲妻で作られた槍状のエネルギーの塊。先端は将の眼前まで伸びていた。

 停止した時間の中、固まった雷槍の軌道から、将はゆっくりと移動する。


「この女は速いらしいが……」


 雷と同化しているライカの前に立ち、剣を抜いた。


「止まった時の中では、無力だ」


 ライカの首元を巨剣が一閃した。

悲鳴も上げることなく、ライカの目は見開かれまま空中で停止していた。


「さて……」


 ライカの胴体からほとばしる稲妻を避けながら、空中の雨粒の水晶を弾きながら、紅雄に近づいた。


「さっきはちょっと痛かったからな」


 痛む背中をさすりながら、拳を握った。


「お返しだ!」


 拳を紅雄の頬に叩きつける。

 雨粒を弾き、紅雄は後方へ吹き飛び、ピタリと止まった。


「『時間解凍タイム・メルト』」


 将が能力を解除させると、時間が動き出し、雨が再び地面に落ちていった。


「がっ!」

「――――ッ!」


 時間が進む。

 顔を殴られた紅雄は訳も分からずに地面に倒れ、『疾風迅雷グローム・アクーラ』発動中に首を斬られたライカは目を見開いたまま遠くなっていく雷槍を見つめていた。


「一体何が……ライカ⁉」


 首が切られたライカに気づく。いつの間にか首を切られて、殺されてしまったのかと焦る。

 が、ライカの首元と胴部の傷口から雷が走りはじめ、結びつく、互いを引き寄せるように首と銅は再びつながり傷口など最初からなかったように塞がった。


「な、何がッ⁉ あ、危なかった……『疾風迅雷グローム・アクーラ』を発動してなかったら死んでいた」


 首元を押さえて震えるライカ。


「へぇ、あの状態は無敵状態ってことか、じゃあ高速移動しているときに攻撃しても無駄だな」


 あの状態? 


「将、雷と同化している間のライカの姿を見たのか?」

「ああ、見たよ。俺の能力は時間を停止させるからな」


 時間停止⁉ そんな能力、ラスボスが使うチート級の能力じゃないか。


「嘘だろ、そんなの。少し考えなくても絶対勝てねぇ能力じゃねぇか」

「だから言っただろ。俺は『異能騎士団アルタクルセイダーズ』最強なんだってな」


 将の手が再び紅雄へ向けて伸びる。


「諦めろ、紅雄。どんなに考えたところで、お前たちは俺に勝てない。俺と一緒に来い。紅雄」

「…………」


 何通り、何十通りと勝ち筋を探し、思案する。だが、いくら思案しても確実に勝てる方法が見つからない。

 紅雄の手が上がっていく。


「くそ、仕方がねぇ」


 だから……、


「ライカ。三回目だ!」


 跳びあがり、将の横を通り抜け、ライカの腕を掴んだ。


「承知!」


 バチッとライカと紅雄の体から閃光が走り、


「紅雄!」


 その場から二人の姿は消えた。

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