第32話 変貌と最悪と
雨が降ってきた。ポツポツ降りからザーザーと叩きつけるような雨に加速度的にひどくなっていく。
「ああ、それもいいかもな」
紅雄は俯き、足元にあった小石を拾った。
将は当然という感じで微笑んだ。
「おう、お前、あの村で付き合ってる女キャラがいるんだろ? 名前はミント・ライトであってるか? そいつがいるから、俺たちに歯向かったんだろ? 安心しろ、そいつは俺が保護した。ほかに大切なキャラクターはあの村にはいないな? じゃあ、一緒に村を滅ぼそう」
紅雄の手がゆっくりと将の手へと伸びる。
「ミントはお前のところにいるのか?」
「気を効かせてやったぜ。これからゴブリンたちが攻めるからそれに巻き込まれないようにな。大切な女なんだろ?」
「ああ、一応礼は言っておくよ。ありがとう。そして一つ質問に答えよう」
紅雄が右手で将の手をしっかりと握りしめた。
「大切な人間はあの村の「人」‼ 全員だッッッ‼ 『
将の手のひらに「R」の紋章が刻まれ、
「お前何やってる?」
驚く将に応えずに、「L」の紋章が刻まれた小石を上空へ投げ放った。
「『
「何ッ⁉」
上空の小石と、将の位置が入れ替わる。
ドンッという音が響き、地上三、四メートルほどの高さから将はなすすべもなく落下した。
「イッテェ……鎧を着てなかったら怪我してたぞ」
地面にめり込んだまま、将が首を振る。結構な高さから落ちて骨でも折っていればと思ったが、手足を振り立ち上がろうとしている所を見ると全くの無傷のようだ。
紅雄は倒れる将に指を突き立てる。
「お前らは間違っている! この世界に生きている人も大切な命だ! 別の世界から来たからって軽んじていいものじゃない! お前ら『
宣戦布告した。
将はジッと紅雄を見つめ、立ち上がった。
「今の言葉と、能力が、お前の意思と判断していいんだな? 俺たちに刃を向けた、と受け取っていいんだな?」
「もう一度やってやろうか?」
紅雄が小石を手に取る。
「いや、いい。お前をメイデン村に残してきたのは本当に間違いだったようだ。お前は狂っている。この世界のキャラクターなんてちっぽけなもののために戦いを挑むなんて」
「あの人たちをちっぽけなんて、もう一度言ってみろ‼ 『
右手で拳を握り締め、左手の小石にだけ「L」の紋章を刻む。
それを再び頭上高らかに投げようとした時だった。
「これがお前の能力か、二つの対象の物体を入れ替える能力……」
左手にしっかと握っていたはずの小石が消えた。
そして、それはいつの間にか将の黒い手甲のはめられた手に握られていた。
「何⁉」
「お前の能力、随分としょっぺぇな。俺とは大違いだ」
グッと力を込めるとあっけなく小石は砕け、
「お前は、俺に喧嘩を売る意味が分かっているのか?」
砕けた破片が地面に落ちる前に、将は紅雄の真横へ移動していた。
背中の巨剣を抜き、紅雄の首筋に刃を押し当てる。
全く感知できなかった。これと似たような体験を数週間前にしている。
「その、大口をたたくお前の能力は高速移動みたいだな、将!」
「…………」
図星を突かれたのか、将が沈黙する。
「お前の上位互換の能力を持っている奴と先日戦って勝ったばかりだよ。そいつはすげぇぞ! ただの高速移動だけじゃなく、雷を纏っている」
「へぇ、雷を……そいつに勝ったのなら俺にも同じように勝てると?」
「同じようには無理だが、そいつは俺の仲間になった。だから、お前の相手をしてもらう。
背後の森を振り返る。
「ライカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」
大声で呼ぶと、森の方から雷鳴が轟いた。
「こいつは高速移動能力だ! お前が倒してくれ‼」
「……承、知ッッ!」
遠くからライカの声が近づき、閃光が走る。
光る稲妻が走り抜け、ほとばしる稲妻が雨を伝う。
ライカの稲妻が紅雄と将の周囲をぐるぐると回っている間、将は落ち着きを払っていた。
「紅雄、実はな、俺は『
「最強、お前が?」
ライカがさらに加速し、周囲にほとばしる稲妻の量が増し、
「俺の能力が高速移動じゃないからだ」
「サンダーラッ……!」
ピークに達すると将へ向けて雷撃を放った。
「『
将が能力を発動させると、雨粒が空中に玉となって留まった。
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