第24話 勧誘と接吻と

「俺を? 王都に?」

「そう、君は他の『異能騎士団アルタクルセイダーズ』とは違う。簡単にこの世界の人間を殺そうとしない。それはとても特別なことだと私は思うね」

「それは能力がしょぼいから……待て、その言い方だと『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の奴らは人を、人間を殺しているみたいに聞こえるけど、そんなことはないだろ? あいつら元はただの学生だぜ?」


 半笑いで尋ねる。紅雄としてはそこから先の言葉は聞きたくなかった。だから、紅雄の問いをライカが否定してくれることを期待した。

 ライカはクスリとも笑わず、紅雄の目を真っすぐ見て答えた。



「殺しているよ。何人も。私のような軍人だけじゃない。ただそこに暮らしていただけの街や村の民間人も、たくさん。一夜で一つの街の人間を一人残らず殺したっていう事件もあった」



「………ッ、嘘を付くな」


 信じたく、なかった。同じ教室で笑いあったクラスメイト達が、人を殺しているなんて。それも、一人二人じゃない、何人も何人も殺しているなんて。


「ピアーギッシという街があった。他国にあった大きな商業都市だった。ある日突然、その街と連絡が取れなくなった。後日調査に向かうと、街中に死体が溢れていた。店にも宿にも民家にも市場にも、死体がない場所がないというほど溢れかえっていた」

「それを、二年一組が『異能騎士団アルタクルセイダーズ』がやったって⁉ 証拠は?」

「確証が持てるだけのファクターはない。だが、あんなことができるのは『異能騎士団アルタクルセイダーズ』が使用する超常の能力しか私には心当たりがない」

「あんなこと?」

「一万人近くいたんだ、その街には。その一万人全員が、互いに殺し合って死んでいた」


 背筋が凍った。

 ライカの目は嘘は言っていない。ただ、淡々とその時に起きた事実を言っている。


「包丁を互いに刺し合っている親子の死体。恋人の頭を石にぶつけ、自分も親に首を斬られ殺された死体。恐らくは友人だろう、男同士が壮絶に腕の肉が削げ落ちるまで殴り合って互いに果てていた死体もあった」

「………うぇ」


 吐き気がこみ上げる。


「恐らく、巨大な壁を作り、街を封鎖していたのだろう、一番死体が多かったのは街の境界線で、逃げようと外へ手を伸ばして果てている死体が多数あった。それらも背中を刺され、何者かに殺されていたがな」

「うそ、だろ、とは……もう言えないな……やったんだ、な? 俺の仲間がそれだけのことを」

 頭が白くなり、顔が青くなりつつも、何とかその虐殺の事実を受け止める。


「二年一組の人間がピアーギッシっていう街で虐殺を行ったんだな⁉」

自分のクラスメイトが、意味もなく、娯楽のために命を奪ったと認める。

ライカは頷いた。

「私は『空間遮断』の能力者と『洗脳』の能力者が協力して行った事件だと思っている。街を能力の壁で遮断し、中の人間を洗脳し殺し合わせた。と、考えている。そのような魔法はイノセンティアには存在しないし、少なくとも一夜でできるのは、『異能騎士団アルタクルセイダーズ』けだ」

「…………」


 拳が震える。

 本音を言えば、認めたくなかった。ライカの言葉を全て嘘だと断じて、何も聞かずに耳を塞いでそこから逃げ出したかった。

 だが、ライカがここで嘘をついて何のメリットがある。そんな冗談を今までいったことはないし、言うタイプではない。

 『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の虐殺は、あったのだ。


「皆そうなのか? 『異能騎士団アルタクルセイダーズ』は行く先々でそんなひどい光景を創り上げているのか?」

「行く先々で悲劇を生んでいる。それは肯定しよう」


 ライカがゆっくりと近づいてくる。そして、紅雄の肩を掴んだ。


「皆がそうなのかという言葉は、否定しよう。君が、違う」


 力強く、その手に力を込めた。


「姫田紅雄。私の元に来い。私が君を力がないと判断しつつも殺そうとした理由が分かっただろう? 『異能騎士団アルタクルセイダーズ』は絶大的な力がある上に、残虐なんだ。人々は自分がいつ死ぬかどうか、正しく苦しまずに死ねるのかどうかすら危ういんだ。そんな彼らに『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の一人が討ち取られたと、希望を与えたかった。それはもうできない。だが、一緒に来てくれるのなら、討ち取るよりも、大きな希望を与えられる。一緒に『異能騎士団』を倒してくれ、報酬は弾む。そして……」


 ライカの顔が間近に迫り、


「これは、報酬の前金だ」


 そのまま唇が重ねられた。


「………ッ!」

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