第22話 作戦と協力と
ゴブリンの軍団が谷間の道に迫る。
先遣隊で百体ほどの数だが、小さな村を踏みつぶすには数が多すぎるくらいだ。
「ガ?」
先遣隊を率いる角つき兜を付けた隊長は隊を止まらせた。
森へと続く道に柵がつけられ砦と化していた。
人間たちの些細な抵抗か。その程度で勝とうなどと片腹がいたい。
「ガウ」
気にすることもないと、進軍を再開させた。
「お~い、醜い緑豚ども!」
柵の手前に少年が立っていた。
「ここまで来てみろよ! や~い、クソ雑魚ども!」
姫田紅雄だ。低俗な言葉で挑発し、坂を駆けあがっていく。
そんな単調な挑発に、普通は訝しんで警戒するものだが、
「ガウアアアアアアア‼」
角つき兜の隊長は突撃を指示した。
ゴブリンの頭には罠かといぶかしむような知能はない。それに、谷間の道には紅雄以外の人の姿はなかったので、敵もあの少年一人だと、隊長は侮った。
「ガウガウガアアアアアウ!」
村人たちが作った柵や、槍を壊しながらゴブリンの軍勢が突き進んでいく。
谷間の道一杯にゴブリンたちが敷き詰め、もう登れなくなるほど、谷間にゴブリンが満たされた瞬間、その瞬間を紅雄は待っていた。
「お・ば・かッ!」
ゴブリンの軍勢の真上に小石を投げた。
放物線を描き、上空を飛ぶ小石を目で追うゴブリンたち。
一体あれが何だというのだ。そんな疑問が頭をよぎる。
「『
紅雄の声が谷間の道に響き渡り、
「ガウ?」
ゴブリンたちに丸い影が落ちる。
「ガウウアアアアアアッ⁉」
突如として、小石が巨石に変わった。巨石はゴブリンたちを踏みつぶし、坂道を転がっていく。
隊長は先頭にいたため何とか巨石の攻撃は免れたが、坂道を登っていたゴブリンがほぼ全滅し、愕然とする。
「げ、全員巻き込めなかったか」
紅緒は坂道の上の方にいた隊長の他数体を倒せていなかったことに気が付く。
「ガアアアア!」
こん棒を振り上げ、紅雄に突撃する隊長たち。
「まぁ、いいけど、『
紅雄は次の小石を隊長に向けて投げた。
迫る小石、その程度とこん棒で振り払おうとした。
「『
「ガ?」
こん棒がへし折れた。
小石だったものが巨石に変わり、まっすぐ隊長へ向かって飛来した。
「ガアアアアアアアアアア!」
隊長を潰した巨石は、そのままボーリングのように後方にいたゴブリン兵士を巻き込み、蹴散らしていく。
「よっし! この調子!」
作戦が上手く言ったことに、思わずガッツポーズをする紅雄。
「凄いな、こういことだったのか……」
蹴散らされるゴブリンたちを見て、グラントが驚く。村人たちは先ほどから、紅雄が小石を投げて巨石に変えていくのを見ていることしかできない。
紅雄はライカとの対戦で『
それは、一度『
ライカの
それを応用し、巨石に「L」の紋章を刻み、右手に握った小石に「R」の紋章を刻み続ける。そうすれば、小石を次々と巨石に変える魔法のような現象が発言できる。というわけだ。
紅雄はその方法で小石を投げては巨石に変え、ゴブリンたちを蹴散らしていく。
「ギャアアアアアアアア!」
ゴブリンの悲鳴が木霊する。奴らにとってみれば次々と何トンもある巨大な石ころを次々と投げつけられるようなものだ。たまったものではないだろう。
身に着けている鎧はひしゃげて、全く身を守ってくれずに体がつぶされる。
気が付けば、ゴブリンの兵士ももうあと十数体しかいなくなっていた。
「よし、ラスト!」
坂道を登ってくるゴブリンの群れに小石を投げ、
「『
巨石と入れ替える。巨石はずっと使いまわしていたので、ヒビが全体に入っていたがまだ持つだろう。
巨石はゴブリンたちに向かって転がっていき、
「ギャアアアアア!」
踏みつぶした。
ようやく全滅させたと、紅雄はほっと一息ついた。
「あれ?」
巨石が坂の一番下まで行かずにピタリと止まっている。そして、ゆっくりと持ち上がっていく。
「が、ガアアアアアアア‼」
巨石が砕かれる。
一回り大きな大柄なゴブリンが巨石を受け止め、砕いたのだ。
「嘘だろ……」
紅雄唯一の武器であった巨石が砕かれた。
大柄なゴブリンは大地を踏み鳴らし、紅雄の胴体ほどはあろうかというサイズのこん棒を振り回す。
「ガアアアアアアア!」
―――やられる。
紅雄が死を予感した瞬間だった。
「
バチィッ!
雷光が走る。
「ガ、アアアアァァァ……!」
大柄なゴブリンの声が裏返り、ドンと音を立てて倒れる。
「え?」
ゴブリンの全身に稲妻が走っていた。
雷撃を飛ばしたのは、紅雄から少し離れた場所に立つ、ライカだった。
「大丈夫?」
「ま、魔法使えたのか?」
手から雷撃を放ち続けているライカ。
「当然だろ? 私の魔法は『
手から雷を放ち相手を攻撃する魔法、
「大丈夫か、ベニオ」
「あ、ああ……一人で立てるよ」
伸びるライカの手を取らず、一人で立ち上がる紅雄。
「終わったか」
谷間の道を見下ろす。
つぶれたゴブリンの死体の山が築かれている。ピクリと動くものはいない。
「やったな」
「ああ……」
百体のゴブリンを全滅させた。村を守りきることができて、嬉しさがこみ上げる。
だが、そのために築かれたこの死体で溢れる谷間を忘れないようにしようと、紅雄は目に焼き付けた。
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