49話
「私も貴方もお忙しい身、できれば速い回答を求めますが難しいでしょうか」
「い、いえ……ただ私からしても知り得ない話でしてなんとも言えないというのが結論です。調査自体はしておりましたが闇ギルドが蔓延っていたとは思いもしませんでした」
はい、ダウト。
そう言うって事は俺が闇ギルドとの関わりについて知らないという方にベットしたんだ。まぁ、トールの首だけだと知らない可能性だって十二分にあるか。だとしても、もっと良い回答があった気がするけど。
だが、個人的にはありがたいな。
こうやって知らない振りをしてくれたおかげで俺としては手札を出す順番を気にしなくて済む。少しずつ詰めていく予定が一気に省けたおかげで大分、気が楽になった。
「知らない、ですか。その割には闇ギルドの名前は多くの住民に周知されており、尚且つ書類要項に書かれないはずがない内容のように感じますが」
「申し訳ありません。それは私の力不足でございます。兵士の声のみならず、市民の声を聞けば解決できた話でした」
次からは気を付けますって言いたいのか。
貴族のくせに……返す言葉は小学生と大して変わらないんだな。何なら小学生の方が良い返答をしてくれるんじゃないか。そう思えてしまうくらいにはトーマスの表情がどこか勝ち誇ったものに見えてしまう。
アレかな、質問を口にしたからかな。
俺としては素人質問で恐縮ですが、と同じくらい怖い返しなんだけどね。その後に何を繋げてくるのか分からない返答だから……本当にトーマスって頭悪いんじゃないか。それか楽観的に考える癖でもあるのかな。
「はぁ」
「溜め息など吐かれましていかが致しましたか」
「猫を被る理由が分からなくなっただけですよ。貴族という事もあってもっと高い能力を持っていると思っていたのですが……買い被り過ぎていたようです」
はは、分かりやすく顔に怒りが見え始めた。
やっぱり、こういう時にバカを相手していて楽しいと思えてくるよ。ルール家は良くも悪くも優秀な人しかいなかったからなぁ。トーマスのような優秀(笑)の人を相手にしていなかったから忘れかけていたよ。
散々、俺をバカにしていた癖に、そいつからいいように扱われて消えていく。バカほど侮辱に敏感だからなぁ。……まぁ、俺の言った内容は侮辱じゃなくて事実なんだけど。こんな人が貴族として王国の上位にいる時点でどうかしているよ。
「ここまで来たんです。何も確証無く来るわけが無いでしょう。私は貴方の立場を揺るがせるだけの証拠を持っている。とはいえ、貴方の前に出すつもりもありませんが」
「それはどのような」
「貴方に話す理由は無いですよ。ただ証拠を父上に提出し罪にあった罰を与えるのみです」
証拠を破壊されたりとか、そういう簡単な相手の行動くらいは予測しておくよね。それにあると言われた時点でトーマスの心境は穏やかとはいかないはずだし。それだけで俺からしたら十分過ぎる。
「そ、そんな……きっとそれは私ではなく」
「では、聞こう」
「な、何でしょうか」
「なぜ、私を暗殺しようとした」
ああ、分からなさそうな顔をしているな。
どうせ、分からない振りをすれば何とかなるとでも思っているのだろう。だけどな、俺は闇ギルドを潰したんだぞ。そこにあった契約書全てに目を通している。速読はこう見えて得意だからな。大して時間もかからずに見付けられたよ。……シラを切るのなら敢えて言わせてもらうか。
「答えられないのならば聞き方を変えよう。
トーマスは口元を大きく歪め黙った。
いや、何も言えなかったのかもしれない。そうだよな、この話がバレるわけにはいなかったはずだ。なぜなら、俺の体の元となっているシオンを暗殺したのは闇ギルドに属していたものだった。そして依頼人は目の前のトーマス本人。
なんというか、酷い因果だと思うよ。
シンはこれを理解していて俺に行くように依頼したのか。本物のシオンの敵討ちをさせるためにトーマスのもとへ向かわせた……だとしたら、お粗末な話だな。シンはそんなに愚かでは無い。
まぁ、いいさ。これが運命なら従うだけだ。
「わ、私はそのような事をしていません!」
「なら、なぜ狼狽える。その酷い脂汗はなんだ。真実のみを口にしているのであれば私の目を見て言うがいい」
目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。確かに今のトーマスを見るとその言葉の意味がよく分かるよ。証拠を出す前から俺の言葉が間違っていないと周知させられるのだからな。
「し、証拠を見せてください! そこまで言うのであれば私が暗殺させたと言える証拠があるはずですよ!」
「見せるつもりは無いが私の手の中にトーマスとトールとの契約書がある。一月程度前に私を暗殺したとされる書類と数日前に契約された書類の計二つだ。これ以上、伝えるべき事があるか?」
沈黙、いいんだな。
沈黙は肯定と取るぞ。それとも扉の先にいる仲間に来てもらうつもりでいるのか。だが、どちらでもいい。何をしたとしてもトーマスはほとんど詰みに近い状況に陥っている。
「貴方の失敗はただ一つだけだ」
「何を……」
「俺の大切な女を殺しかけた事だ」
そう、それが無ければどうでもよかった。
元の体のシオンを殺した存在だから、そんなの俺からしたらどうでもいい。だって、シオンが死んだから俺はこうして新しいシオンとして生きていられる。どちらかと言うと感謝すべき相手なのかもしれない。
アンジェリカ達に被害を与えなければ、な。
「……ふん、やはり変わらず女好きのようだ」
「それで構わない。俺の事は幾らでも悪く言えばいいさ。俺からしたらお前は敵で、お前からしたら俺は敵だ。それ以上に何も要らないだろ」
トーマスはフッと笑みを浮かべた。
最初からそういう考えを持っていた事は誰だって分かるからな。もう少し罠にかけるつもりで対応をすれば良いものを……本当に頭の一つも使えない男らしい。いや、だからこそ、トーマスの息子もあれだけ愚かだったのだろう。
「望みとあらばやめてやろう。もとより、女のために命を賭けるような馬鹿に敬意を評したくもなかったからな。本当に吐き気がするほどに気持ちの悪い男だ。女など、ただの道具では無いか」
「はっ、小悪党がよく言ったものだな。力も無く、考える頭も無い。挙句の果てには全てを見すかされてとなると救えもしないな」
「好きに言え、従者を一人しか連れてこずに敵地に来た馬鹿が。お前の言葉を信じるのであればお前を消せば証拠は消せそうだからな。さっさと潰してやろう」
部屋の入口から兵士が入り込んできた。
全員、目がギラついていて俺への殺意が詰まっているな。いや、そのうちの何人かはエルを見て反吐が出るような色慾のこもった目線を向けている。残念ながらその恋心は叶う事がないというのに本当に愚かな人達だ。
「私に刃を向けるという事はどういう事か理解しているのだろうな。トーマスは処刑するのだから当然だが、貴様達はまだ引き返せる状態ではあるぞ」
「ふん、殺した方が貰える金は多いからな。忠告などどうでもいい」
「そうか……もとから全員、処刑するつもりだったから手間が省けてよかったよ」
剣を構えて魔力を注ぐ。
はぁ……大丈夫、少しだけ不安ではあるけど大きな問題は無い。敵の能力はそれなりに分かっているし、仮に想定外の強さであったとしてもトール程の強さでは無いからな。もしも、それだけの強さがある兵士がいたのなら闇ギルドに依頼はしないはずだからな。
「エルは自衛に徹しろ。もしも、俺の身に危機が迫っていた場合のみ、援護を許可する」
「ふふ、あの者達相手に不足があるとは少しも思っていませんよ。しっかりと隣でシオン様の成長を見させて頂きます」
「ああ、終わったら御褒美をくれよ」
どんな褒美を貰おうかな。
さてと、まずは突撃から始めよう。トーマスに向かうのは後回しでいい。親玉を狙うよりは兵士を各個撃破していくべきだろう。数だけで言えば扉の奥にもっといるみたいだから四十はいるんじゃないかな。
というか、トーマスは少し失敗したね。
入口が一つしか無いせいで逃がさない代わりに、トーマス自身も逃げられないし、兵士の物量で押し潰す作戦も取れなくなっている。それなら尚更、早い段階で数を減らしておこう。
「な……」
「おー、すごい切れ味だな」
軽い横振りで兵士の胴体を切り落とせた。
いや、確かに価格が凄かったから並大抵の武器では無いと思っていたけどさ。兵士が剣でガードをしていたのに全てを切り落とせるとか……うん、本当にトールは規格外の強さを持っていたんだな。
悪いがもう殺す事に抵抗は無い。
俺の大切な人を道具だと……ふざけるなよ。エルもリリーもマリアもアンジェリカもアンナも……全員、感情を持った可愛らしい大切な人なんだ。道具などという無機質なものだとは少しも思えない。どちらかと言えばシンにいいように扱われ、トーマスにいいように扱われるコイツらの方が道具でしか無いだろ。
「さぁ、覚悟しろよ。お前ら全員、有罪だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます