33話☆

「えっと……それで竜に乗って来たのですか」

「ああ、屋敷に戻ったら体験出来ない事だったからな。それにエルから許可も取っているから問題は無いはずだよ」


 若干、呆れ顔をしながらアンジェに言われた。

 確かに言われるのは分かっていた事だけど別にいいじゃないか。エルに竜に乗ってみたいって言ったら許可を貰えたし、乗ってみたら何故か言う事を聞いてくれたしで乗らない理由が無かった。


 まぁ、移動の時に俺に興味を示してくれた子だったから、言う事を聞いてくれるとは直感的に思っていたけどね。でも、乗っている俺に気を使って走ってくれているから想像以上に良い子で優秀な子なんだと思う。


 というか、帰ったら確実にこの子はシンに頼んで貰い受けるつもりだ。それくらい良い竜だと踏んでいる。竜を見る目なんて無いから何とも言えないけど。


 それにアンジェからは呆れられているけど何も対策をしていないわけではない。三人が訓練のために森に来ていた事は分かっていたからね。


 ローブの力を使って気配も消していたし、ここに来るまでに話をしたのは門兵くらいだ。だから、リオンが乗っているとは大概の人は分からないだろう。門兵に関しても仕事柄か特に詳しく聞いてこなかったし。


「……会談はどうなさったのですか」

「なーんにも情報は得られませんでした。それで話を切り上げて条件を付けて帰ってきたよ。あんな無駄な時間を使う理由なんて無いからね」

「何と言いますか……シオン様らしいですね」


 苦笑しながら言われたせいで少しだけ胸に来るものがある。絶対に良い意味で言っていないだろ。俺だって好き好んで会談に出たわけじゃないんだぞ。しかも、出たら出たで相手方の都合のゴリ押しだし話すメリットが無いだろ。


 ってか、内心、トーマスを見ていたらバイト時代を思い出したしな。レジに出たら「お前じゃなくてアッチの可愛い子にしろ」とか、「温めますか」って聞いたら無視されたからレジを進めたら「温めろよ」って怒られたり……うん、嫌な思い出だ。


「うーん、なら、帰ろうか?」

「いえ、来て頂けたのはとても嬉しいです。こう見えて自分でも分かるくらい強くなりましたから。やはりシオン様に見てもらいたいです」

「そこまで言うのなら見ようかな」


 言うて、来た理由はそれだしね。

 二人の成長を実践を見て測りたいし、午前中の糞貴族のせいで溜まったイライラを発散したいからな。そのために来る最中に色々と調査をしていたからさ。


 それに残って欲しいと言うのは分かっていたから皮肉を言われた仕返しみたいなものだ。元より帰れと言われても帰る気は少しも無い。


「そう言えばアンナとリリーは近くにいないの」

「アンナの戦闘が終わり次第、戻ってくるのでもうすぐかと」

「ふーん、そっか」


 なるほどなるほど、少しの間は二人っきりか。

 こういう場所で無ければ腰を下ろして、たわいの無い話をしていたんだけど。でも、こういう機会だからこそ、違った事をしてみたいよね。屋敷なら出来る機会なんて少ないだろうし。


「そこで待っていて」

「グルゥ……」

「大丈夫、少しだけだからさ」


 竜の頭を軽く撫でて木の近くまで移動させる。

 長い首を腹に巻き付けて行かないでって示してくれているけど、そんなに触れ合ってはいられないからね。それに別に置いておくわけじゃない。


 軽く首元を掻いて機嫌を取ってみる。

 十秒ちょっとしてあげたら納得してくれたみたいだ。こういうところで長引かせないあたり本当に聞き分けの良い子だな。


「さてと、待っていてもつまらないだろ。……言いたい事は分かるよね」

「はい、御自身の力で確かめるという意味ですね」

「ああ、こう見えて俺もエルに鍛えられているからな。胸を貸せるだけの力があるとは思えないけど手を抜かなくていい。本気で来てくれ」


 剣を抜いて構えてみせる。

 本音を言うと本物の剣でやるのは怖い部分はあるけど、そこは俺次第だろう。初撃である程度の強さは分かるだろうし、それに合わせて手を抜いたり本気を出したり、変えていけばいい。




 ____________________

 名前 シオン・ルール

 職業 見習い剣士LV23

 年齢 11歳

 レベル 35

 HP 890

 MP 560

 物攻 575

 物防 575

 魔攻 345

 魔防 195

 速度 485

 幸運 100

 固有スキル

 ・異次元流通LV1

 スキル

 ・マップLV1

 ・剣術LV3

 ____________________




 うん、こう見てみると成長したものだ。

 前なんて百後半が一番、高かった。でも、今となってはそれが一番、低いからね。エル曰く、成長の速さが著しいって言っていたからアンジェに負けるとは到底、思っていない。


 まぁ、油断は少したりともしないけど。

 アンジェから少しだけ距離を取って笑いかける。


「来い、受け止めてやる」

「……行きます!」


 特攻とばかりに走って向かってきた。

 このままだと切り上げで終わってしまうが……無策ってわけが無いよな。横振りの構えを取った瞬間に思いっ切り飛び上がって左手を伸ばす。空中は自由が利きにくい分だけアンジェの取る一手も限られてくるから予想しやすいし。


 とはいえ、大きく横に振ったから咄嗟に守りに姿勢を変えられないはずだ。このまま行けば首元を掴んで完全にアンジェの詰みになる。……だが、何となく嫌な予感がする。一応、腰を軽く捻って剣を持つ右手を左へ引いた。


 一種のガードの姿勢だが突っ込めば大ダメージも与えられる攻めと守りを兼ね備えた攻撃になる。その分、他の一手に繋げにくいデメリットもあるが果たして……。


 うん、やはり、ガードは正解だった。

 すぐに剣へと炎がぶつかってきた。もしも剣でガードをしなければダメージは無くとも炎が直撃していただろう。なるほど、多少の違和感は魔法を作るために魔力を練っていたからか。確かに見違えるほどに成長しているな。


 短時間で魔法を使えるだけの才能。

 天才とまでは行かなくとも戦闘の才は充分にあるだろう。


 俺としてもエルやリリーは魔法を使ってこなかったし良い練習になりそうだ。こういう時に俺も魔法を使えれば相殺させられるけど……現実的でも無いし剣で戦おう。


「初見で躱すとは御見事です」

「悪いけどエルのせいで咄嗟の判断には慣れているんだ。……今のは奥の手かい」

「ええ、確実に仕留める一手です」


 距離を詰めさせての一撃。

 うーん、悪くは無いけどただの火魔法だからな。言っては何だがあまり良い手とも言えない。大してダメージを与えられず、それでいて追撃も難しそうだし。


「そう、なら」


 一気に距離を詰める。

 さっきの速度なら少しだけ手を抜いた方がアンジェを傷付けずに済むだろう。アンジェが手を抜いていなかったらって前提ではあるけどね。


 右、左、右、右……振りは全て細かく行う。

 大振りは誘いだとしても大きな隙になってしまう事には変わらない。やるのなら安全に敵を追い詰めて行く戦い方の方が安牌だろう。


 守り、守り、守り……振り返してはこないか。

 それでもいい、これだけの連撃を対処出来るのなら確かに強くなっている。ソロで冒険者として生活も出来るんじゃないかってくらいには強い。とはいえ、反撃してこないあたり俺のステータスよりは一回り低いんだろう。


 なるほど、ある程度の癖とかは掴んだ。

 これ以上、長引かせるのもアンジェを疲れさせるだけだからな。最後くらいは俺らしい一手を見せて終わりにしてやろう。


 あからさまに大振りの構えを取って上半身を落として間合いに入る。こうなったら剣を使える手前、攻めの姿勢か守りの姿勢を見せるはずだ。カウンターがしやすいのを考えると下がりはしない。


 取った行動は鍔迫り合い。

 ここまでは予想の範囲内。そして……俺に対して取るには最悪な一手だ。


 一気に力を込めて剣を横へ飛ばす。

 驚いているようだが、それも大きな隙だ。


 首元に左手を回してゼロ距離まで詰めた。

 より驚いているようだが表情が変わったり対応ができる暇も与えずに……左足でアンジェの足を引っ掛けて押し倒す。


 最後に剣をアンジェの横に刺して終わりだ。

 うん、今のは実践でも使えるくらい良い動きだったんじゃないかな。それにアンジェの体の柔らかさも感じれたし良い事づくめだった。


「これで主としての威厳は保てたかな」

「そう、ですね……」


 少しだけ頬を赤らめていて可愛いな。

 体を起こしてアンジェに手を貸す。未だに恥ずかしそうにしながら体重をかけてくれた。


 体を起こしたけど目を合わせてくれない。

 そんなに恥ずかしい事をしただろうか。……いや、思い返してみれば恥ずかしい事はしているな。なんだよ、押し倒して威厳は保てたかなとか。絶対に終わりに(キリッ)とか付いているよ。


 あー……うん、二人っきりはキツイかも。

 剣を戻して、アンジェの剣も返す。そのまま竜を近付けてマップを開いた。


「二人とも遅いからこっちから行こう」

「分かるんですか」

「ああ、アンジェの主だからな」


 目を合わせてくれないからわざとカッコつけたセリフを言ってみた。……うん、やっぱり、目を合わせてくれなかったおかげだな。これで目が合っていたら竜に乗って帰るくらい恥ずかしかったと思う。

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