34話

「なぜ竜を……それにシオン様は会談中のはずでは……」


 やはりと言うか、顔を見てそうそうリリーから質問攻めにあった。淡々と説明をすると納得してくれたみたいだが……まぁ、胃を痛めてはいそうだな。


 それもこれもトーマスのせいだな。

 さっさと情報をまとめて渡せばよかったものをダラダラと、俺だって人間だから素直にイライラしてしまうぞ。ってか、日本にいた時なんか常にストレスで気が狂いそうだったし。


「ちょうど森にオークのコロニーがあるって噂を聞いたからさ。そこを潰して二人がどれだけ成長したか見ようかなって」

「噂……そんな話は聞きませんでしたけどね。それに二人の成長を、と言いますが」

「うん、リリーとのデートって意味もあるよ」


 冗談だけどねー、とは既に言えなかった。

 そこまで嬉しそうな顔をされたら否定できないよなぁ。戦うだけなのにデートって少しだけ変に感じるけど……喜んでいるのなら別にいいや。エルも一緒にいられればいいって言っていたから似たようなものだろ。


 それにスキルを説明するのも面倒だしね。

 これでリリーが納得してくれて俺のやりたい事をさせてくれるのなら楽でいい。こんな事でここまで喜んでくれるのならもっと進んだ事をしたらどうなってしまうんだろ。


 まぁ、リリーもエルも似た所があるし、あまり遊び過ぎたら火傷しそうだ。次のお酒を飲んだ時とかに悪戯でもしてみようか。


「って事で、あっちに行こう。小さな山付近にあるらしいんだ。そこでアンジェとアンナに戦ってもらう」

「オーク、ですか……」

「うん、ちなみに数が多いから常時、二対十くらいだから覚悟してね。気を抜いたら簡単に死ねるよ」


 明らかに唾を飲み込んだ音がした。

 本音を言えばリリーがいるから問題は無いし、レベルも低いのが多いから簡単に倒せるはずだ。それでも脅しのように言ったのは本気で戦って欲しいから。オークをまとめるオークナイトもいるようだし、手加減をして戦ったら大怪我は間違いないからね。


 まぁ、オークナイトだけは確実に俺が倒させてもらうけど。


 ちょっとだけ震えているアンナを抱えて背中を摩ってあげる。最後の戦闘だけ見れたから言うけどアレなら勝てるはずだ。それにアンジェとの共闘だからね。より楽にはなるだろう。


 最悪は俺も一緒に……いや、それは駄目か。

 それだと練習にならないから、二体四くらいにできるよう調整してあげるのがベストかな。俺でも勝てない相手だとキツイ部分はあるが、何とかなるでしょ。少なくともエルやリリーに比べれば雑魚だ。


 十分弱、歩いてようやく着いた。

 途中で魔物もいたけどリリーの一撃で死んでいたし戦闘する機会は無い。とはいえ、遺体を回収出来たから高く売れるものもあるかもしれないね。高く売れたら美味しい酒をリリーにあげよう。


「ここは廃村ですか」

「そうだね、元々いた人達は一人もいないみたいだし」

「……二人には早い気がしますがシオン様が望むのなら仕方がありませんね」


 確かに視界が開けた森の中と、死角が多い村の中なら確実に前者の方が楽だ。それにリリーとアンナがいた場所は視界が開けていたし、あまり死角の多い場所での戦闘は経験が無いかもしれない。リリーが配慮して戦闘訓練させていたのかもね。


「総勢三百ちょっと、廃村もかなり広いから大繁殖しているみたいだ。まぁ、コロニーが生まれて少ししか経っていないから幼体やレベルが低いのが大半みたいだけど」

「三百……」

「大丈夫、こっちにはリリーがいるよ」


 危なくなったらリリーに任せる。

 そうなる前に俺は俺で敵の数を減らす。リリーなら瞬殺だろうけど全部、任せてしまうのはやっぱり違う。それに今までの俺への好印象を消し去るのは嫌だし。


「って事で、リリーは二人に着いて欲しい。俺は俺で反対方向から攻めて数を減らしてみる」

「……二人の成長を見るのでは?」

「安心安全に見るためにも数を減らさないといけないだろう。それに俺は俺でどこに敵がいるか分かるからさ。ローブと併用すれば大して問題は無いよ」


 問題があるのは周囲の探知ができない二人。

 リリーは今までの経験から簡単な探知ができるだろうし、俺はマップがあるから何の問題もない。もっと言うとローブが強過ぎてオークに囲まれてもダメージ一つ負わないんじゃないかな。


「リリー、二人を任せたよ。なるべくリリーは手を出さないように戦ってくれ」

「……それだけの事をさせるのですから褒美くらいは頂けますよね」

「もちろん、変な願いじゃなければね」


 リリーに笑いかけてローブに魔力を通す。

 そのまま森の中を駆けて反対方向に回った。廃村の入口はこっちとリリー達のいる場所だけだ。だから、こっちで注意を引けば自ずと……。


「悪いけど遊んでもらうよ」


 入口付近にいたオークの首を狩る。

 近くに六体、少し離れた家屋のところに十体程いるみたいだ。まぁ、一番にオークのいる場所は大きな家にいるオークナイトの傍だからね。易々と囲まれはしないはずだ。


 一瞬だけ気配を出して、すぐに消す。

 三体に飛びかかられたけど横に飛べば何の問題も無し。何なら集まってくれたおかげで一気に斬撃を加えられるから楽でいい。良い武器、そしてレベルが低い敵のおかげで簡単に斬り殺せる。


 このまま近くの三体を倒してーー。




「って、こっちに来ちゃったのか」

「グルゥ!」


 目の前で一瞬のうちに首を落とされていた。

 それも俺が乗ってきた竜の力によって。


 確かにラプトルみたいな見た目だったからさ、素早くて、ある程度は強いんだろうなって思ったよ。でもさ、風魔法で一気に三体を倒しきっていた。そこまでの強さがあるとは思ってもみなかったな。


 すごく嬉しそうに、褒めて褒めてって体を擦り付けてくるから可愛いとは思うよ。だけど、少しだけ怖くもあるかなぁ。明らかに強過ぎて敵に回した時に倒せる気がしない。


 って、そうじゃないよね。

 命令をしなかったから着いてきちゃったんだ。それなら俺に落ち度があるし、ここまで戦えるのに逃げてもらうのもおかしな話だ。


 この子にも頑張ってもらわないといけないよな。この子の事は元より気に入っていたし一緒にいる時間も増えるだろう。だったら、息を合わせて戦えるようにしておかないと。これも良い機会だ。


「乗せて、その後は一気に敵を倒しに行こう」

「グルァ」

「信頼している。ただ俺にも獲物を残してくれよ」


 竜の背中に乗って軽く頭を撫でる。

 そのまま剣を構えて両足を腹に当てた。これが走らせる合図なのは知っているからね。後は竜に合わせて剣を振るうだけ。とりあえずは少し離れたところにいる十体ちょっとだ。


 火の魔石を手元で砕いてから家へと投げる。

 少し早く投げてしまったかなって思ったけど良い感じに風に乗って家を燃やしてくれた。


 って、違うな。この風は竜が魔法で作り出してくれたものだ。一瞬だけだったし方向からして都合が良すぎる。そう考えた方が自然だろう。


「絶対に女の子だったら美少女で誰もがお嫁さんにしたがるくらい察しの利く子だろ」

「グルゥ?」

「いや、お前はいい子だなって」


 頬辺りを左手で撫でて剣を構えた。

 熱さに耐えかねて家から出てきたオーク目掛けて突撃を開始したから、すぐに剣を横に寝かせる。予想通り、そこに合わせて動いてくれたから勝手に斬られて死んでいった。


 なるほど、この子は俺を第一に考えて動いてくれているらしい。離れたところから援軍で来そうなのは魔法で殺して、近くは俺の意図を汲んで剣で殺していく。合理的だし、戦い方が上手いしで本当に何で俺の言う事を聞いてくれているのだか分からなくなってくるよ。


「リリー達のいる場所に近付かなければ好きなところに行っていい。気配も遮断させているから何も気にしなくていいよ」


 何か返答があったわけではない。

 それでも何となく、この子には伝わっている感覚がした。後は俺がこの子に合わせて動いてあげるだけ。さながら、地を駆けるドラゴンライダーだね。まぁ、空を飛んでこそのドラゴンのような気はするけど。


「行け、次は俺が合わせる」

「ガルゥ!」


 さっきよりも速度が一段階、速くなった。

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