12話

 次は……リリーのいる場所かな。

 マップを確認したらルフレが俺の部屋にいるのが分かるし、出たばかりのアンジェの部屋に入るのも幅かられる。というか、昼寝中のアンナを起こすわけにはいかないからなぁ。


 外へ出たいとは思うがそれも今はできない。

 今は街を出て森の中を走っているみたいだから魔物が出てもおかしくは無いだろう。それこそ、恐らくエルが外に出ているのも馬車の警護のためだからな。馬車の近くにいた魔物の気配が少しづつ消えているのも確認できるから十中八九それだ。


 って事で、避難避難っと。

 リリーと話している間にルフレも部屋から出ていくはずだ。ルフレの目的は俺だろうからアンジェやリリーのところへ行くとも思えない。後は適当にいなしておけば面倒事に巻き込まれずに済みそうだからな。


 とはいえ、どうやって中に入ろうかな。

 入口付近まで来たけど話をする理由が特にないからなぁ。まさか、ルフレから逃げるために来ましたとは言えないし。暇だから来たとかもリリーがマイナスに捉えかねない。


 うーん、考え過ぎたらルフレに見つかるか。

 まぁ、適当に理由とかは話さないで依頼に関して聞こう。今回の依頼は先にリリーが詳しく聞いているはずだからな。そこら辺で聞きたい事は山ほどある。……後、今日はどこまで馬車を走らせるのかとかも聞いておきたいね。


「集中しているね」

「ええ、少しでも雑な操作をしてしまえば命令を無視されかねませんから」

「そっか」

 

 なんと言うか、説明がしづらい場所だな。

数人だけ座れそうな長椅子が入ってすぐに置かれてあって、その真ん前に走らせる馬がいる。それを椅子に座ったリリーが指示を出しているって感じかな。まぁ、今回に関しては馬では無いようだけど。


「これは竜かい」

「馬よりも疲れにくいですし速いですからね」

「後はルール家としての見栄みたいなものか」


 後ろから聞いてみたら「そうです」と返された。

 馬の上位互換とも言える存在だろうから間違いなく高いはずだ。だが、竜というよりは見た目からしてラプトルだな。図鑑で見た事があるヴェロキラプトルの復元像そっくりだ。……アニメで見ていた竜よりも好きだな。


「隣に座りますか」

「邪魔じゃないならそうさせてもらうよ。リリーと話したい事もあったからさ」

「はは、そこまで言われて拒否できるわけがありませんよ。どうぞ、大人数で無ければそこまで操縦に問題は起こりませんので安心してください」


 やっぱり、あの時から態度は軟化している。

 薄れつつあったチクチクした態度が一気に消え去ったような気がするな。個人的にはものすごく有り難い事だから素直に嬉しい。軽く頭を下げてから真横に座ってみる。


「思ったよりも近いですね」

「あまり大声で話すわけにはいかないからね。竜がザワついてしまうだろう」

「その時には私が抑えるので安心してください」


 座ってみて分かったが竜は三体いる。

 見た目通りヴェロキラプトルみたいな行動を取るのなら三体で連携して戦うのだろう。果たして、リリーは戦って何とか出来るのだろうか。……いや、出来ないわけが無いか。


 一応、細かな指導は受けていたから分かる。

 この人、相手が何人いようと関係がないんだよ。前も白百合騎士団の部隊長五人を相手にあっさり倒していたし。それくらい出来ないと騎士団長として指南出来ないんだろう。ってか、逆にラプトルに指導を始めそうだよな。


「まぁ、私が動かずともシオン様が何とかしてくれるでしょうね」

「それはさずかに私の力を過信し過ぎているよ」

「いえ、明らかに竜の一体がシオン様に興味を持っています。きっと、シオン様なら手懐けられるでしょう」


 ふーん、どの竜の話をしているんだろうなぁ。

 って、マップを見れば簡単に分かるんだけどね。手前にいる二体は警戒心があるからか薄赤い色、奥の最前列にいるのが薄青い色だ。ここまでしないと分からないのにリリーはよく察したな。そこら辺も騎士団長として必要な素養なのか。


「あの子か」

「やはり分かりますか。引く力が強くなりましたし、少しだけ笑って見せていますから分かりやすかったかもしれませんね」

「いや、リリーに言われるまで気が付かなかったよ」


 もっと言えばマップが無いと分からなかった。

 ふむ、触れ合える機会があれば近付いてみるのもアリか。手懐けさえすればシンから貰う事もできるだろう。後、これだけ重い馬車、もとい竜車を引けるのだから力は間違い無く強いはずだ。教え方次第では戦闘でも助けてもらえるかもしれない。


「って、そんな事を話に来たわけじゃない」

「竜には興味が無い、と」

「意地悪な事を言わないでくれ。単純に聞きたい事があったから来たんだ。それを聞けなければ来た意味が薄まってしまうだろう」


 来た意味が無いわけではないからな。

 こうやって話をするだけでもリリーを仲間に引き入れようとした時に、リリーが悩む理由になってくれる可能性がある。それと話が出来なかった分だけ分からなかった事も多かったけど、特に前のように敵対視が強いわけではないって分かっただけで十分だ。


「意地悪な事をすれば男性が喜ぶと教えられましたから」

「それに関しては同感だ。そうやって見せてくれる笑顔だけで普通の男なら簡単に手玉に取れるだろうな」

「確かにシオン様は普通ではありませんものね」


 普通では無いというか、エルがいるからだ。

 一緒にいる時間が長いからか、どうしてもエル以上に良いと思える女性がいないんだよ。マリアは異性とはいえ血の繋がっている姉だし、アンナは幼過ぎるし、アンジェは母親のように思えるし。


 強いて言うと確かにリリーは悪くない。

 ただ最初の雰囲気が先行してしまうせいでエルが一番に思えてしまうのは仕方ないと思う。未だに心のどこかで敵意があるんじゃないかって思えてしまうし。まぁ、今の顔を見たらすごく穏やかそうだから本当に敵意はゼロっぽいな。


「って、また話が脱線しかけてしまった」

「私と大人の会話をするのは嫌ですか」

「だから……はぁ、否定しても堂々巡りになるだけなのが目に見えているからな。もう否定も肯定もしないぞ」


 可愛かろうが何だろうが限度はある。

 いや、聞きたい事を聞けてさえいれば付き合うのも悪くは無いだろうね。単純に元々、聞きたかった事を一切、聞けていないから話を途中で止めたのであって……ってか、さっきの会話もカップルみたいだったよなぁ。


「拗ねているところも可愛いですよ」

「はいはい、そうですか」

「可愛いは嫌でしたか。なら、カッコよかったですよ」


 何だそれ……雑な回答をしてくるなぁ。

 エルとは違った意味で正直に対応するべき相手では無い事はよく分かったよ。今度からは話半分で関わる事にしよう。……まぁ、可愛いもカッコイイも言われて嫌な気はしなかったけどな。ただ言われっぱなしも癪だ。


「私からすればリリーの方が綺麗で可愛いよ。今の意地悪な事を言いながら見せる笑顔は特にね。普段の凛々しい表情のリリーとは違って美しさ以上に愛らしさをおぼえてしまう」

「それは……ありがとうございます……」

「おや、どうしてこちらを見てくれないんだい。さっきまではニヤニヤして私を見ていたでは無いか」


 意地悪には意地悪で返す、俺の中での常識だ。

 こうして見てみると意外と純粋なところがあるな。いや、男性に慣れていたら既に結婚しているはずか。貴族とはいえ、結婚していないのだから男慣れは間違い無くしていないよな。……ふむ、これは使えそうだ。


 普段は見せないアワアワとした姿を見ると……。

 やっぱり、この体は良いな。ただただ太っていたのと性格が俺以上に悪かったから最悪な存在として扱われていたが、痩せて少しだけ常識的に動けば日本なら絶対に手が届かなかった女性とも仲良くなれる。


「もう! いいじゃないですか!」

「そうだね、これ以上はさすがに操縦に支障をきたしそうだ」

「ええ! それにシオン様も聞きたい事があって来たのでしょう!」


 顔は合わせてくれないけど頬は赤い。

 うん、これだけ虐めれば悪戯してくる事も無いだろう。可愛いところも見れたから今度また虐めてみればいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る