5話
行きの時には混んでいた門だが。
意外と帰りに関しては混んでいないようだ。見た感じ馬車とかよりも冒険者や旅人みたいな人達の方が多い。俺達のように仕事を終えた人達と、そして新たに街に来た人達で賑わっている。
とはいえ、目的で進む方向が分かれるからな。
旅人は手続きで時間を食っているが街で活動している人達は、冒険者カードを見せるだけで済んでいる。若干、女三人と少年一人という事で訝しんだ目をされたけど何も言われなかった。
人の流れに沿って冒険者ギルドまで向かう。
街の中も今の時間帯なら賑わっているようだ。そもそもの話、シンが治める街は王国の中でも二番目に大きな街。そんな場所だからこそ、陽が暮れそうな時であっても人通りが多いのだろう。
「それではお先に戻らせて頂きます」
「ああ、二人の事を頼む」
エル達を見送ってギルドの壁に背を付ける。
本当は四人で依頼を終えた報告をしたかったのだが、疲れて眠ってしまった子がいるからな。アンジェが背負ってくれているとはいえ、冒険者ギルドに入って絡まれでもしたら面倒この上ない。
かと言って、二人で帰らせるのも酷だ。
たたでさえ、オークで少し余裕がある程度のアンジェがアンナを背負いながら戦えるとは思えない。もちろん、誰かに襲われた場合の話だけどね。でも、俺の立場上、それが無いとは言い切れないのも事実だ。
だから、少し怖いけどエルを付けた。
実際、周りに赤印の存在はかなりいるし、冒険者ギルドの中にもいるからな。だとしても、俺一人なら変に絡まれても逃げられるだろうし、最悪はエルから聞いた決闘とかで解決するつもりだ。
とはいえ、気持ちが軽くなる事は無い。
足だってすごく重いし、依頼の達成金とかを受け取らないって選択もありかと思えてきた。まぁ、七十体分の達成金だからな。数万にも上るだろうから安い金とは言えないだろう。それに冒険者のランクとかいうシステムにも関わるだろうからなぁ。
「はぁ、行くか」
一応、シールドをすぐ出せるようにして入る。
若干、気配遮断を使って悟られにくいようにして今朝のお姉さんの所へ向かう。別に他の人でもいいが、あの仏頂面をどうにかしてデレさせたいからな。そのためにも他の人の場所へはいかない。
「あら、帰ってきたの」
「ええ、キチンと四人で討伐してきましたよ」
少し驚いた顔をして俺の顔を見てくる。
今朝とは違ってどこか嬉しそうだ。まぁ、それでも表情は変えないでいるから、生きて帰ってきて良かったとか思っているだけかもしれない。
それこそ、二ヶ月、一切の冒険者カードの使用が見られなかった場合、その所有者は死んだ者として考えられるようになる。それの書類処理をするのは登録を担当した受付嬢になるらしいから、それで喜んでいるのかもね。
「それじゃあ、討伐証明を出して」
「はい、少し多いですが……」
内心、笑みを浮かべながら袋を出す。
手を突っ込んで……一気に机の上に置いた。
「……へ?」
「それでは計算、よろしくお願いします」
オークの討伐証明は両耳だ。
討伐証明さえ提出出来れば後はギルドが計算して賞金を出してくれる。もちろん、肉とかも高く買い取ってくれるらしいけど、ぶっちゃけて言えばスキルの方で売った方が高いからな。
一応、袋から出したのも正解だった。
周りでザワつく声が聞こえるけど全員が空間魔法が付与された袋を持っていると、勘違いしてくれたからな。実際はただの皮袋でスキルのカモフラージュをしているだけなんだけど。……とりあえず、一緒に四人分の冒険者カードも渡しておいた。
「本当に貴方が倒してきたの」
「いえいえ、私の仲間が強いだけですよ。私はただ指示を出すだけですから」
「……ふーん、そういう事にしておくわ」
おっと、信じてくれていないみたいだ。
だが、討伐賞金は出してくれるようだし、その手際も見蕩れるくらいには早く良い。仕事を出されるのは嫌なようだけど、他の人よりも上手にこなせる才能を持っているみたいだ。なら、尚更、この人以外に担当して欲しくないな。
「……はい、計七十三体の討伐を確認しました。依頼書通りで考えると……銀貨三枚と小銀貨六枚、それに大銅貨五枚かしら」
となると、一体で五百円くらいか。
ふむ、やっぱり、来ない意味は無かったな。これだけあればアンジェの一月分の稼ぎとして渡せる。この世界だと銀貨一枚でさえ、手に入れるのに手間と時間がかかるからな。
「ありがとうございます」
「仕事が出来る人が増える分には助かるからいいわ。貴方は他の人みたく口だけでは無いようだし」
そう言って欠伸をしてみせてきた。
そのまま麻袋に賞金を入れて手渡してくる。さてさて、この報酬をどう使おうか。まぁ、アンジェとアンナにも分けるのは間違いないだろう。エルならどうせ、何かしらの道具を貰える方が嬉しいって言うのが目に見えているからな。
「なら、また依頼を受けに来ますね」
「雑用を押し付けてあげるわ」
面倒くさそうにそう言ってカードを返してきた。
特に何かが変わったようには見えないが、これで依頼を成功させた事になるらしい。時間もかかっていないから無駄話をしてみるのもアリだけど嫌な予感もするし帰るか。……ただ、一つだけ聞いておこう。
「その雑用、受けるかもしれないのでお姉さんの名前を聞いておいてもいいですか」
「……本当に変わり者ね」
「はは、よく言われます」
キョトンとした顔、悪くない。
やっぱり、こういう時にイケメンだと得をする。どんな返しをしても嫌がられないんだ。常識とかけ離れた行動をしなければ嫌がられないのだからズルすぎる。
「エルザよ。覚えたかしら、リオン君」
「ええ、覚えておきます」
エルザ、名前に見合うだけの美しさだ。
まぁ、そう思っても口にはしないんだけど。事実だとしても言ってしまったら調子に乗られてしまう可能性もある。そこにつけこんで変な依頼を受けさせようとされても困るし。
「それでは時間も時間ですので」
「なら、俺達に付き合ってくれよ」
エルザに一礼をして出ようとした。
だと言うのに、変な男に絡まれてしまったな。髭面で明らかに不細工な顔、元の俺を五十回は殴ったくらい見ていられない。それも酔っているのが余計に面倒くさい。マップを見たら赤いマークだし色々な意味で後悔してしまうよ。
「貴方達に付き合う理由はありませんよ」
「おいおい、つれねぇな。そんだけ稼げるような奴なんだ。痛い目にはあいたくないだろ」
なるほど、金目当てって事ですかい。
いやいや、それなら稼げば良くないか。稼ぐのに時間がかかるとはいえ、同じだけのオークを倒せばいいだけなのにさ。それとも今朝の赤印の中にコイツがいたか。……まぁ、どちらにせよ、だ。
「それはお互い様でしょう。この程度の成果も出せずに人から金を集ろうとする存在が言えた事ではありませんよ」
「チッ……俺が雑魚だとでも」
「いえいえ、そんな事は言っていません。ただ、そう言っているように感じたという事は自分でも理解しているのではないでしょうか」
思いっ切り嘲笑ってローブに魔力を流す。
アイツは俺達と言っていた。つまり、俺から金を奪うために何人かの冒険者と一緒に戦おうとしているんだ。ヤバいな、そう考えると赤印が多過ぎてどれが仲間か分かったものじゃない。数人は近くにいるから分かるが他はてんで見当がつかん。
とはいえ、何もしないという選択肢も無い。
何もしないという事は金を取られる、そして俺の命もまた危ういという事だからな。どうして、転生してからというもの、こんなにも嫌な出来事が多く続くんだ。一月で面倒事が二個……それも両方とも現在進行形で続いているし。
殺す事は出来ないから……半殺しにするか。
もう二度と人を馬鹿にした事が出来ないように手足を折るくらいで済ませよう。そして……一緒に俺に敵対視を向けている人も全員、同罪だ。軽く飛んで剣に手を添える。一撃で……二人は持っていけるな。
最悪は逃げればいいんだ。
だからこそ……安心して戦え。
「おっと、そこまでですよ」
「……へ?」
いきなり肩を強く掴まれた。
それも……ものすごい力だ。前に出ようとしたのに掴まれただけで動けなくなった。体感ではエルよりは少し弱い程度だけど、戦っても勝てない事を悟れるくらいの力だ。……ああ、分かる。俺はこの威圧感を何度もぶつけられた。
「この場は私、白百合騎士団団長のリリー・アルヴァスの名の元に、刃を収めて頂けないでしょうか」
そこにいたのは俺の二人目の師匠だった。
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