4話
「ごめんなさい……眠っちゃった」
「いや、いいんだよ。眠い中で外へ出した俺の方が悪いからな」
目をゴシゴシと擦りながら笑うアンナ。
頭を軽く撫でてやったら嬉しそうに目を細めている。怒られるとか考えてしまっていたのかな。別に幼い子が眠くなるのは当たり前の事だ。これが中学生とかの年齢になると自覚があるのかって言っていただろうけどさ。
「体調、悪そうだったけど動けそうか」
「うん、少し寝たら元気になった」
「それなら寝て正解だったな」
ニコニコしながら抱きついてきた。
それに対して抱き締め返して頭をポンポンと叩いておく。何か、まるであるかのようにアンナの尻にシッポが見えるな。左右に動かして喜んでいるような幻覚が見えてきてしまった。
「なら、行こうか。今回の依頼は二人の成長を見るためのものでもあるからさ。元気になったのなら本来のアンナの強さを見せて欲しい」
「ふっふっふ、見ていて」
離れて腰から短剣を抜き始めた。
シュッシュッと左右に振っているのを見ると癒されるなぁ。これが本物の短剣じゃなかったら、より癒されていたのかもしれない。申し訳ないけど本当に人を殺せる分、危なくて恐ろしいや。
そう思っていたらアンジェが怒ってくれた。
それでシュンとしていたけど、頑張れって言ったらまた張り切り始めた。ある意味、扱いやすくていいかもしれない。こういう一言で本気になれない人が伸びていくとは思えないし、俺が何かを言ってやる気になってくれるのなら嬉しいからな。
そのまま三人を連れて森へと向かう。
門兵に止められたが冒険者カードを見せながら依頼の説明をしたら通してくれた。思っているよりも出入り自体は簡単のようだ。とはいえ、入る時は多くの馬車がいたから出る時よりも時間がかかりそうだけど。
一応、オークのいる場所は先に見てある。
訓練でダンジョン攻略をしているけど、その時の索敵はいつも俺だからな。エルも出来るのにいつも任せてくるし慣れた。今だって何も言わずに俺の後ろに付いてきているし。きっと、やってって言っても私には難しくてとか言われるのが目に見えている。
周りに人がいなくて、尚且つ効率の良いルート。
そう考えると……まぁ、これか。若干、森の奥まで行くルートだけどエルがいるから大きな問題にはならない。それにオークの進化種であるオークナイト程度なら俺でも倒せるし。
という事で、一回目の接敵だ。
オークの数は五体、ゴブリンよりは圧倒的に強いけど速度は遅いし……まぁ、アンナとアンジェの二人でやらせれば勝てるか。さすがに五体は多いから二体だけ潰しておいて……。
「ふっ!」
「ブルゥァァァ!」
一気に距離を詰めて二体だけ首を落とす。
俺が軽く走った速度よりも遅い兵士達以下だからな。太い首を落とせるだけの力があるのなら瞬殺も難しくは無いだろう。と、これでお膳立ては完了したという事で二人の方へ戻る。
「じゃあ、二人で三体を倒してみて。危なそうだったら助けるから安心して、本気で戦ってくれ」
そう言ってアンナとアンジェの背中を押す。
返答は聞いていない、だが、その押した速度のまま二人は敵に突っ込んで行った。ふむ、アンナの足は早いな。俺の詰めよりも早く全てのオークの首に一筋の斬撃を与えてしまった。……とはいえ、一撃で殺し切れてはいない。
勢いのままで奥まで向かっているが……。
そのままでは後ろにいるアンジェに三体のヘイトが向かうだけだ。アンジェと言えど三体を一気に相手出来るだけの力は無いだろう。まぁ、ヘイトを取れるのならアンナが自由に動けるからな。そこは任せているとか、か。
いや、違うな。アンジェも走り始めた。
片手剣でオークの殴りを流したかとおもったら、裾から刃の長いナイフを取り出して刺し殺す。オークの位置や最初のアンナの一撃のおかげで安全に一体を倒せているのか。なるほど、だけど、二体を相手取れるだけの技術や力はあるのかな。
って、それは言うまでもないか。
一番、後ろにいるオークに近寄って傷を負わせてヘイトを取っていた。片方は勢いのままでアンジェに向かっているし……もう見ずとも簡単に倒せるだろう。こんな事なら五体のままにしておくべきだったかな。数を減らしていなかったとしてもたおせていたようなきがするよ。
「お疲れ様」
「ふふ、案外と余裕でした」
「らくしょー! オーク弱かった!」
アンジェは速度が遅い分、力が強い。
アンナは速度が早い分、力が弱い。
そういう関係だからこそ、相性がいいんだろう。
それにアンナも力が弱いとはいえ、一撃でオークを倒せないだけで何度か切れば倒せるくらいの力は持ち合わせている。その点で言えば平均的な七歳児の力よりは強いんじゃないかな。
「私は満点を上げたいけどエルから何か言う事はあるかな」
「うーん……二人とも臆せずに進み過ぎなところが微妙ですかね。技術に関しては習った期間が短いので仕方が無いですが、前に突っ込みすぎているところは敵の強さが分からない以上、するべきでは無いです」
「はは……だってさ」
こういう時のエルは真面目だからな。
それに二人も思うところがあったのか、驚いた顔をして俯いてしまった。確かに相手がオークだから良かったけど、格上相手だったらアンナの突っ込みは悪手だよなぁ。速度で負けていたら追い付かれて殺されていた。
「まあまあ、オーク程度なら簡単に倒せる事が分かっただけ良いじゃないか。リリーの指導も行き届いているみたいだしね」
「私からすればまだまだ足りませんけどね。もしかしたら私が教えた方が良かったのかもしれません」
「いや、それは無い」
エルの剣の才能は疑う余地もないレベルだ。
だけど、教え方に関しては何を言いたいのか分からない事が多いし、戦わせる時だってスパルタ気味だからな。今朝のリリーの指導で倒れそうになるのなら耐えられないと思う。時間があれば一日五十回は打ち合いをさせられるからね。
「エルの指導についていけるのは私くらいだよ。色々な意味でね」
「それはエッチな意味で、でしょうか」
「うーん、そういう事はアンナのいない時に言ってくれるかな!?」
なぁにがエッチな意味で、だよ。
エッチな指導はさせられた記憶が……って、まさかだけど肌を近づけてきたりとかは最初から狙ってやっていたのか。それならエルへの警戒レベルが一段階、上がるんだけど。
ってか、本当にアンジェに申し訳ないな。
エッチな指導って何とか言っているアンナの対処に勤しんでいる。申し訳ないと思うけど恨むならエルにしてくれ。ここまで脳内ピンク色の子だとは思っていなかったんだ。最初にあった時はクール系の女性かと思っていたのに……。
「それでは二人っきりの時にエッチな指導をさせていただきますね」
「くっ……それに関してはして欲しい……」
「ふふふ、正直でとても良いです」
ムカつくからオークの回収を済ませた。
その後はマップを駆使しながらエルを除いた三人でオーク討伐に勤しんだ。計七十体程度を倒したところで陽が傾き始めたので、四人で街へと戻り始めた。
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