20話
「大丈夫ですよ。何でしょうか」
真剣な声で返してきてくれた。
だが、別に真面目な話とは言い難い分だけ少しだけ申し訳なく感じてしまう。ううん、今更ながら言うのを躊躇ってしまうな。別に言わなくても良いことではあったし。ただ、言おうとしてしまった以上は止められないか。
「私に対して枷を付けて欲しい。エルの中で私が勝てると思えるくらいのギリギリの枷でいい」
「えっと……シオン様は変態なのですか」
「変態……というよりはそうでもしなければ強くなれないと思っているだけだ。私としては早く強くなって今回のような事が起こらないようにしたいからね」
元々、強くなる気で動いていた。
でも、今回の件でよく分かったんだ。これからの戦いにおいては必ずしも自分より弱い奴が相手とは限らないって。その度にシールドを使えば簡単に倒せるかもしれない。だけど、本当にそれでいいのか。
殺す度に自分の心が壊れていくだろう。
慣れればいいかもしれないけどエルはそうなって欲しいとは思わないんだ。選択肢を増やすためには今回の敵すらも枷アリで倒せないと。ここまでの魔物は確かに強かったけど命の危険を感じるほどではなかったし、エルならばちょうど良い枷を与えてくれる自信があったからな。
「少なくとも命の危険を感じなければ剣以外は使わないつもりでいたんだ。でも、それだけでも甘えに思えてきてしまった。きっと自分よりも強い人に追いつくためには枷としては弱過ぎる」
「……本音を言えば五階層の敵を倒すだけならば今のシオン様でも簡単でしょうね。ですが、そこまで急いで強くなる必要もありませんよ」
「今のままだとエルに守ってもらうだけになってしまうだろ。せめて、自分の身は自分で守れるくらいにはならないとさ。学園に行った時とかに色々な人に心配をかけてしまう」
家を出る事になっても困らないように。
続けたい言葉をグッと飲み込んで笑顔を見せてみた。自分でも自分がシオンとしていられるのかは分からない。今の俺からすればエルやマリアと離れるのはあまり嬉しくないけどさ。だからと言って、シオンとしていられなくなった時に二人が変わらずにいてくれる自信もない。
「枷に関しては一つだけ……ものすごく難しいものですが思い付きました。場合によっては傷だらけになってしまう可能性もあるようなものです。それでもいいのですか」
「別に構わない。自分で自分に枷を課したところで良い塩梅は分からないからね。それなら五階層の敵が分かるエルが判断した方がいい」
「分かりました……それならーー」
少しだけ躊躇ったように一瞬、黙ってしまった。
それでも覚悟を決めたのか、頭部に着けたヘルムだけを外して片膝をつく。まるで幼稚園児に話しかける保母のように目線を合わせて笑顔を見せてきた。
「私を守りきってください。五階層の敵はゴブリン種です。つまり、ヘルムを外した私を重点的に狙ってくるでしょう。その敵から何も出来ない私を守りながら倒してみてください」
「エルを……守りきる……」
「はい、これがギリギリの部分だと感じました。これ以上、難しければ倒しきれないでしょうし、簡単にしてしまえば楽に感じてしまうでしょう」
……ぶっちゃけ、悪くは無いな。
美しい女性を守るために命をかける。その風景自体が俺の心を高鳴らせてくるな。もちろん、それで負けてしまえば何も意味をなさない。エルには何の危害も与えられずに倒しきらなければ。
「それでいい。ただ、それだけ重い枷を与えてくるんだ。成功したら私のお願いも聞いてくれるかな」
「別に良いですよ。ちなみにどのようなお願いをしようとしているのですか」
「五階層の魔物を倒せたら……帰ったらエルに甘えてもいいかい。それくらいの御褒美は許してもらえるだろうか」
言って思ったがすごくフラグっぽいな。
……いや、俺がいる世界は読んでいたアニメや漫画とは違うんだ。だからこそ、こうやってやる気が起きそうなお願いをした。それに例えフラグが立とうが全てを力任せに折っていけばいい。
「許容できる範囲なら大丈夫ですよ。それにカッコイイ姿を見てしまったら私の方から御褒美を貰いに行くかもしれません」
「ああ、エルが離れたく無いと思えるような姿を見せてみせるさ」
「……言葉だけを聞くと告白のようですね」
ボソッと言ってから顔を背けられた。
一瞬だけ見えたエルの頬が、少しだけ赤くなっていたから恥ずかしかったんだろう。自分で言った事で恥ずかしがるなんて本当に可愛いな。日本だったら同じような反応をする女性の方が少ないんじゃないだろうか。
「嫌だったかい」
「ふふ、シオン様が相手なら嬉しいですよ。ただ市民出身の私と一緒になるには重すぎる立場ですね」
「その時はただのシオンにならせてもらうさ。エルと一緒なら私も死ぬまで成長を続けていけそうだからね」
自分が生き残るために強くなり続ける。
それにエルと一緒なら単純に守ってもらえるからな。後、エルが相手なら別に結婚する事になっても困らない。それくらい綺麗で優しいからね。これが顔でも性格でも、何かしらで欠けていたら冗談でも言えなかったかもしれない。
「そうなったらどこまでも着いて行きますよ。私もただのエルとしてシオンの隣にいさせていただきます」
「約束だな」
「ええ、約束です」
指切り……とかの文化は無いらしい。
ただ微笑みかけてくるエルに笑顔で返して腰にかけた剣の柄に手をかける。目の前の扉を抜ければ五階層のボスがいるわけだからな。俺の命を守る物は支給された剣一つなのだからすぐに戦えるようにしないと。
左腕と肩で重厚な扉を押し開ける。
ギギィと嫌な音が響きながら何も無い空間に足を運んだ。奥の方に同じような扉があるから、そのまま進んでいけば次の階層へ行けるんだろう。とはいえ、ボスがいる事は知っているからな。さすがに通れるとは思っていない。
「私がいいと言うまで動かないでいてくれ」
「了解しました」
油断をしないように少しずつ真ん中へと進む。
入口付近にエルを配置しておいたから仮に敵が来たとしても何とかなるはずだ。ボスがいるという話からして今から魔物が現れるはず。まさか、入口付近に魔物が現れるとは思えない。まぁ、出たとしても手はあるから大丈夫。
真ん中まで来て……やはり変化が現れ始めた。
真っ黒いモヤのようなものが出口付近に集結し始め、何かの呻き声が聞こえてくる。エルの言っていた通り確かにゴブリンの声だ。だけど、薄らと見えた姿は今まで戦っていたゴブリンとは比べられない。
少しだけ体躯が大きく全員が武器を持っている。
モヤが晴れ、本格的に姿が見えた。持っているのは全員、鉄のナイフのようだ。顔がゴブリンより少しだけ細長くなっているのか。若干の違いではあるけどゴブリンであってゴブリンでは無いのは確かだろう。……分からないけどゴブリンの進化種とかかな。
まぁ、いい。出口付近なら簡単に倒せる。
敵は合計で五体、まずはローブの力を使って数を減らす。明確に俺の姿を捉える前に動かないといけないからな。すぐに気配遮断を使って距離を詰めるために走る。……その時だった。
「ギィギィギィ!」
五体全てが嫌な笑い声を放ったのは。
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