14話

 さてと、着いてみたが騒がしいな。

 まぁ、来る時に見ていた景色がより活気づいたって感じだけど。人通りが増えたからか、遊ぶ子供の数や通行する大人達が増えたって感じだ。うるさくはあるけど気にするレベルでも無いな。


 一応、場所は取れたから食べれそうだ。

 串焼きだけでも三十はあるから……まずは買ったものを並べてみようか。塩で味付けされた串焼きの袋とタレで味付けされた串焼きの袋、そしてタレで味付けされたケバブだ。


 ふむ、やはり好奇の視線を向けられるか。

 子供達も気にした様子で俺を見てくるが分けるつもりはサラサラ無い。食いたければ自分で買って食えばいいだけの事。今回の購入分はダンジョンで稼いだ金だから実質、俺が稼いだも同然だからな。どうするかを決めるのは俺次第だ。


 って事で……最初は塩の串焼きだな。

 うーん……当然だけど美味しい。肉の種類は聞いていなかったが味は焼き鳥に近いな。もっと詳しく言うと鶏皮とかの食感が一番、近そうだ。個人的には鶏皮は塩しか認めていなかったから丁度いい。


 だが……待てよ。同じ串焼きならば……。

 タレの串を一つとって口に運ぶ。予想通り鶏皮にタレがついた感じだ。……いや、それでも日本で食べたような濃いめのタレとは少し違うな。薄い甘みと強い塩味が絡まっていて……これなら案外と悪くない。


 ただ違う意味で困ってしまうな。

 これは酒が欲しくなってしまう。多少の差はあれど味は焼き鳥そっくりだからな。ビールや日本酒とかを喉に運びたくなってくる。まぁ、この歳でそんな事をするわけにはいかないんだけど。やるにしても外ではなく家で、だ。


 我慢して水を片手にゆっくりと堪能する。

 ……未だに見てくる子供達の親は何をしているんだろうな。人によっては取る機会を伺っているようにしか見えないのだが。子供なんて純粋無垢という皮を被った化け物でしかないからな。何をしでかすか分かったものじゃない。


「こっちを見るな」


 剣を軽く見せてみたら離れてくれた。

 卑しい奴らだな、せめて本気で食べたいのなら物欲しそうな顔をせずに口にすれば良いものを。まぁ、脅しで剣を見せてくるような奴にお願いを出来る子供なんていないか。どちらにせよ、気にされなくなるのならそれでいい。


 ってか、周りの大人達もうるさいな。

 散々、俺の方には意に介していなかったのに剣を見せた途端にざわめき始めた。子供になんてものを向けるんだとか何だとか。そういう事は大声で俺に対して言えばいいものを……本気で恐ろしがっているのか口にするだけだ。


 はぁ、面倒くさいことばかりだな。

 やっぱり、何を聞かれようとも家に戻って静かに食べていればよかったよ。それともわざわざ子供達に分ければよかったか。いやいや、俺の方を見ていた子供達の数なんて馬鹿にできなかったぞ。それこそ買い足さなければ全員に回せないくらい多くいた。


「ぐぅ」

「んん?」


 めちゃくちゃ至近距離で腹のなる音が聞こえた。

 俯きかけた頭をあげたら……なるほど、確かに近くで俺の串焼きを見つめている子供がいる。年齢は八歳くらいか。さっきの子供達の中にいた一人ではあるな。となると、剣を見ても逃げ出さなかったのか。


「……何か用か」

「へ……ううん、何も無いよ」

「そうか」


 ……くっ、何も無いって目じゃねぇだろ。

 ジーッと見つめてきて、お腹もまた鳴らしてきて何も無いわけないだろうに。コイツの親はどこにいるんだよ。今、目の前で剣を見せびらかす男の串焼きを眺めているんだから早く連れて行け。もしかしたら殺されかねないんだぞ。


 ちっ……そんな事をする度胸なんて無いけどな。

 別にこのまま見せつけて食い続けてもいいんだけど。いやいや、さすがにそんな事を続けられるほど心を鬼にはできない。こんな物欲しそうな目は日本では一度たりとも見た事が無かったからな。


「食うか」

「え、いいの」


 うげぇ……すごく晴れやかな笑顔を見せてきた。

 今更、渡さないなんて言えねぇよな。ってか、ここまで腹を空かせている子供だって見た事がないし仕方が無い。それに……どうせ、買い過ぎたことには変わりないんだ。


「本当は良くねぇよ。だけど、剣を見ても行動を変えない、その冷えた肝を評価してやる」

「うーん、分からないけどくれるんだよね! ありがとう!」


 まぁ、そう捉えるのならそれでいい。

 勝手に隣に座ってきたし二本だけ串焼きを渡してみる。がっつきはしないけど美味しそうに頬張ってくれたから……ふむ、悪い気はしないな。ただ肉が大きいせいで喉に詰まらせてかけているみたいだ。


「これでも飲みながら、ゆっくり食え。集中して食べられやしない」

「う、うん」


 適当な日本にあったジュースを買って渡した。

 痛い出費だな。だが、所詮は百円だ。これで安心して静かに食事が取れるのならそれでいい。そのジュースも美味しそうに飲んでいる。……ああ、やっぱり、悪い気はしないな。足をパタパタさせて嬉しそうにしている。


 さっきの子供達は……俺の方を見ているか。

 若干、睨みつけておいた。仕方ないから、これでも尚、話しかけられる子供がいるのなら分けてやろう。そこまで出来る奴なんて滅多にはいないだろうからね。ただし、二番煎じは嫌いだし最初の一人だけだ。


 結論、腹が膨れるまでの間、誰も来なかった。

 一人のいやしん坊以外は俺に近づく勇気すら持てなかったらしい。とはいえ、串焼きは残り三本ずつ、ケバブも一つだけ余っているからな。どっちも美味しいが量が量だけにタッパーとかにしまうのも面倒だ。それなら……。


「残りは好きに食いな」

「……いいの」

「持って帰るのも手間だからな」


 押し付けてやったらピョンピョン跳ね始めた。

 それだけ嬉しかったんだろうな。「お母さんに分けてくる」とか言ってどっかへ走っていった。少しだけ寂しくなったが……気にしないように余った水を喉に流しながらボーッと噴水を眺める。


 本当に子供というのは突然、現れて消えるな。

 他の子供達に分けていたとしても同じ気持ちになっていたのだろうか。……こういう思いをするのなら次からは家の中で食べた方がいいな。子供に見られるのも面倒だし、美味しいものを食えないのも嫌だ。


 ……気分が悪くなってきたし帰ろうか。

 少し天気も悪くなってきたから丁度いい。今から帰れば抜け出したことすらバレずに済む可能性もあるからね。いや、それはさすがに楽観的過ぎるか。マリアとかにはほぼ間違いなくバレているような気がする。


 立ち上がって背伸びをした。

 その時だ。すごく嫌な予感がした。何回か経験した事のある予感、もっと詳しく言えば……あの子の時と一緒。大きな悲鳴、何かがいきなり止まるような音……そのどれもが俺の死ぬ前の光景を思い出させてくる。


 馬車に子供が轢かれた、ざわめく大人達。

 誰かが泣き叫んでいる、その人に気持ちの悪いデブが怒鳴り散らしていた。泣いている人が抱えられているのは……さっきのいやしん坊か。明らかに死にかけていて……いや、死んでいると言われても不思議に思わない顔をしていた。


 となると、泣いている人は母親だろうか。

 薄らと聞こえるのはデブの声くらい。それも聞き触りの悪いクソみたいな言葉の羅列だけだ。やれ「子供が突然、現れたせいで時間を食われた」だの、やれ「その罪を償え」だの……その顔は女を襲おうとする獣そのものだ。


 はは……この世界でも変わらないか。

 誰かが助けを求めても救わない。……ふん、悪いが俺は助ける気なんて無いぞ。あの子供を助けようとしたせいで俺は死んだんだ。転生して早々、こんなにいい家庭に生まれたのに死ぬのなんて真っ平ゴメンだからな。だけど……。


 クソっ、あの子の笑顔が浮かんでしまう。

 抱き締め続けているって事は生きている可能性があるんだよな。もしかしたら助けられる可能性だってあるんだよな。……ムカつくな、本当にムカついてくる。何でこうも周りの奴らは俺に何かを求めてくるんだ。


 ……ああ、本当にうぜぇな。




「その子を助けられるかもしれないがどうする」

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