12話

「今日はこのくらいにしましょう」


 階段前にある空間でリリーはそう言った。

 今、いるのは五階層へと繋がる階段の手前だ。二階層へ降りる時に教えられたのだが五階層ではボスとなる魔物が出てくるらしい。ここまで来てよく知ったが二人は馬鹿みたいに強いからな。恐らく降りても一瞬で倒してしまうだろう。


 だけど、そうしない理由も分かる。

 このダンジョンでは五の倍数毎にボスとなる敵が出てくるのだが、その階層にはポータルと呼ばれる一瞬で外へ出られる道具が無いらしい。つまりは五階層の魔物を倒したら六階層の終わりまで行かなければいけないということになる。


「そうだね、確かにもう十分だろう」


 レベルは既に十五まで上がった。

 とはいえ、ステータスは微妙でレベルの割には物攻が百六十五とあまり伸びていなさそうだけど。職業が貴族っていう時点で非戦闘員っぽい気がしてしまう。ただステータスの増加は軽く体を動かすだけで実感出来る。


 体の重みを感じなくなってきた。

 それと少し足が早くなった感じかな。まぁ、全部が体感でしか無いから必ずしも正しいとは限らないけど。後、軽く感じるってだけで体型は未だに変わらずデブのまま。本当に基礎能力だけが伸びたってところだろうな。


 そのまま二人と一緒に外へと出た。

 今日の収穫はレベルアップとゴブリンとウルフの死体が百近くかな。一応、二階層へ入ってからウルフと呼ばれる狼そっくりの魔物が現れるようになったからね。この二つが果たして幾らで売れるのか、それ次第では俺の今後にも関わってくるだろう。


「また今度、よろしく頼む」


 リリーにそう告げてエルと共に部屋へ戻った。

 幾らかリリーと馬車内で話た気がするけど思い出せない。それくらい数が数だけに売った時の金額が気になってしまっている。サッサと部屋へ戻ってすぐにトイレへ引き篭った。


 どこへ行ってもトイレは本当に安心するな。

 座りながらステータスを開いてショップを開く。前に調べたからどうすればいいかは何となくだけど分かる。今、開いているのは購入画面だからログイン画面みたいな場所から売却画面へと変えなければいけない。


 そこから倉庫も開けるけど……それはいいか。

 とりあえず、まずはゴブリンから売ってみよう。えーと総数は……百二体か。それらが合計五万千円で売れた。となると、一体につき五百円で売れたって感じかな。まぁ、こっちはそこまで期待はしていなかったからいい。


 見た時から何を利用するのか分からなかったし。

 だから、個人的には毛皮とか肉とかで使い道が多そうなウルフの方が期待していた。そっちの総数は九十二と思ったよりも少ないが……合計で十三万八千円で売れたみたいだ。つまり一体につき千五百円で売れたという事だから……。


 ふむ、ゴブリンを狩るのはやめておこう。

 労力からしてウルフの三分の一なんてやっていられないからな。まぁ、戦ったわけではないからウルフの方が強くて倒せないって可能性もある。ただゴブリン三体分の労力にはならないだろうから効率も考えてウルフでいい。


 収支としては十八万九千円だから……。

 ふふ、少しだけ良い考えが思い浮かんでしまった。忘れかけていたけど渡されたローブと指輪があるからな。これを利用すればきっと……おしおし、後はバレないように動くだけだ。バレたらこの二つを没収される可能性すらある。


 笑顔を無理やり押し込んでトイレから出る。

 特に何も言われなかったけど何も不審がられていないだろうか。いや、不審がられたとしても俺は止まる気なんてない。最悪はエルごと共犯にしてしまえば俺としても安泰だしな。後々に味方へ引き込んでしまえばいいか。


 そのまま昨日と同じように食事をして……。

 適切に返せているかは分からない。もしかしたら口角が知らないうちに上がっているかもしれないが、気にしても仕方が無いだろう。食事を終えてすぐにマリアとエルに疲れているとだけ伝えて先に寝かせてもらった。


 早めに寝たからか、目が覚めた時間も早い。

 シンは既に終えていたらしいけど二番目に食事を終えて、エルの前で五十回の素振りだけして一人にしてもらった。言い訳とかは特に付けなかったけど「内緒にしてね」って言ったら分かってくれたみたいだ。


 まぁ、一応は年頃の男の子ですし。

 それで変な意味で察してしまったのかもしれないな。別にそういう事を考えないわけでもないからどうでもいいけど。そんな事を考えるような人間だと思われたところで特にダメージを受けるわけじゃない。


 って事で、ローブに魔力を通して二階へ向かう。

 魔力の通し方はダンジョンで散々、教えられたから問題は無いはず。少しドキドキしているけど何とか落ち着かせて、換気のために半開きの大きな窓から飛び降りた。割と高かったけど足の痛みは無い。


 門は空いているみたいだから……行けるな。

 見張りの兵士の隣を無言で通って初めて一人で街の中へと足を運んだ。エルがいない分だけ心細さを感じる。こういう時に本当の自分を知っている人がいない事を理解させられるな。まぁ、知っている人なんていないに超した事は無いけど。


 どこへ行こうか、実はもう決めてある。

 マップで検索をかけられるからそれを使って行きたい場所にピンを付けておく。十軒くらい出てきたが評価を表す星が多い場所の方が良いよな。街の真ん中にあるのと少し廃れた場所にある二軒のどちらがいいか……となると、廃れた場所にするべきだろう。


 真ん中にある場所は人目に付きやすい。

 売り買いの時に身分の提示を求められたり、太っているせいでバレて報告されても困る。そこら辺を考えたら人が少なさそうな方が良い。その分だけ絡まれたりとか、そういう危険性はあるけどローブがあるから逃げれるだろ。


 その店までの最短距離を示してから歩く。

 色々と見慣れない景色が続くが、これもそのうち慣れていくんだろうな。明るい陽の光を浴びながら街の真ん中にある公園らしき場所を通って進んでいく。若干、死ぬ前の記憶が蘇ってしまうけど朝早い分だけ子供がいないから気分は楽だ。


 割と早い時間だというのに辺り一面、人だらけ。

 馬車が通るようの道と歩道の二つがあるが、そこをひっきりなしに人や車が走っている。朝っぱらでこんなにいるのなら昼前とかはもっといるんだろうな。本当は冒険者ギルドとか商人ギルドとかがあるらしいから見たかったが……それはやめておこう。


 一人で行くと面倒な事に巻き込まれそうだ。

 母数が多ければ多いほどに変な奴だって多くいるだろうし。そういう人に絡まれて何とか出来るだけの力が俺にあるとは思えない。今日だって目的の場所へ行って、適当に時間を潰したら帰るつもりだ。


「……って、思ったよりもボロっちいな」


 歩いて十分弱だろうか。

 ようやく目的の場所に着いた。とはいえ、看板があるにはあるけどそれらしくも無いし、知っていなかったら行く人も少ないんじゃないかってくらい店が大きくない。少し緊張するけど大きく深呼吸をしてからボロボロの扉を開けて中に入った。

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