11話
「はい、夕方までダンジョンでシオン様のレベルを上げて来いと言った命令をシン様は出されました。その際に使うようにコチラを渡されました」
そう言ってリリーは小袋に手を突っ込んだ。
そこから出したのは一つの指輪と真っ黒いローブだった。見た感じだと何かは分からないけど指輪に関しては何となく予想がつく。恐らくレベル上げの手伝いに関わる何かだ。ローブに関しては鎧代わりの物かな。
「指輪は経験値分配と経験値上昇が付いたものです。それを付けている人は近くにいる人が魔物を倒した際に半分の経験値を得る事が出来ます。ローブの方は認識阻害が付いたものです」
「ふむ、私の姿を見られるわけにはいかないだろうからな」
「いえ、そのような意図は……」
若干、顔を渋くさせたな。
意地悪で聞いてみたが……なるほど、気分としては悪くは無い。相手がエルのように青色だったら言いはしなかっただろうが、こうやって表だけ良い顔をする輩は貴族という立場以前に俺が好めないからな。
「醜い豚のような私を見られては市民に馬鹿にされるのが関の山だろう。なるほど、お父様はよく理解されている」
「それは勘違いでございます!」
「君の中ではそうだろう。だが、私としてはそのように感じられて仕方が無い。ましてや、私はお父様を尊敬しているのだ。これ以上、ルール家に泥を塗るわけにはいかぬからな」
無理やり話を区切って窓の外を眺めた。
少し卑屈が過ぎたか。だが、後悔は少しも無い。あんなに嫌な笑顔を見せてくるような奴とお近付きにはなりたくないからな。きっと優秀な人ならこんな時に気の利いた返事をしていたんだろうが……そんなの俺には無理だ。
それでもリリーは説明を続けた。
もちろん、どんなに嫌な気持ちになろうとも無視をする事は出来ない。適当に返事だけしてあまりリリーを意識しないようにした。せめてもの救いはリリーの色が変わらず白い点のままだったことくらいか。これが赤くなっていたのなら両者にとって良い結果になっていたのにな。
指輪をはめて、ローブを羽織った。
少しだけ表情が緩和したようだが未だに不安な様子が垣間見えている。まぁ、下手をすれば不敬罪とかになりかねないからな。リリーからしたら首が飛ぶかもしれないと考えてしまうっているのだろう。ああ……さすがに我儘が過ぎたな。
「説明感謝するよ。とても分かりやすい説明だった」
「い、いえ……私などまだまだです」
「それだけ出来れば十分だ。この短時間で分かったがお父様が褒めるだけの事はある」
雑かもしれないけど褒めておく。
こうしておけば身の危険は無いと分かるはずだ。それに考えてみれば初めて接する存在が白い点なのは当たり前か。嫌な記憶が思い出されただけで同じような存在とは限らない。
「済まなかったな。暗殺者の話を聞いてからというもの、例え家族であろうと簡単に信用するわけにはいかなかったのだ。気分を悪くさせてしまったのなら申し訳ない」
「そんな……気にしなくても結構ですよ。私も聞いただけですので返す言葉が見つかりませんが、それでもシオン様の気持ちは痛いほど分かります」
「そう言って貰えると助かるよ」
笑顔だけ見せて再度、外を眺めた。
誤りはしたが信頼するつもりは無い。裏切らないと呼べる相手がマリアか、色の変化はあれど青い時が多いエルくらいだ。当のエルは若干、俺との距離を近付けてきたような気がするが……まぁ、本当だとしても話す理由も無いから別にいいか。
「どうか今日はよろしく頼む。私の信頼するエルはかなりの腕だからな。そこにリリーもいれば向かうところ敵無しだろう」
「お任せ下さい、その言葉に見合うだけの活躍をしましょう」
リリーは満面の笑みを浮かべて手を取ってきた。
篭手の硬さが無ければ美しい女性の柔らかいだろう手の感触を味わえたというのに。とはいえ、リリーの点の色が本当に薄くだけど青くなったからな。こうやって返すのは正解だったんだろう。
「ーーと、止まったみたいだな」
「ええ、ようやく着いたようです」
エルの手を借りて高い馬車から降りる。
降りてすぐに見えたのはエルのような甲冑を着た兵士五人、その奥には洞窟のような大穴がぽっかりと空いた空間がある。洞窟の手前は鎖のようなもので塞がれているから兵士が侵入を阻止しているんだろう。
「何用だ」
「私はリリー、シン・ルール様の命令を受け御子息であるシオン様と付き人の三人を連れ、現れた次第です」
リリーと聞いて明らかに動揺したな。
知識が無いとはいえ、こういう細かなところでリリーという存在の大きさが分かる。まぁ、その後に続いたシンとシオンの二つでも焦った様子を見せていたし小心者なだけの可能性もあるけど。
「こ、これは大変失礼な事を」
「謝罪は受け入れましょう。なので、早く鎖を解いていただけませんか」
こんなところで時間を食うわけにはいかない。
兵士に指示だけ出して鎖の先へと向かう。当たり前だけどリリーとエルに先行してもらって、その後ろをゆっくりと追わせてもらった。やっぱり、マップというのは買っておいて正解だった。敵の位置もそうだけど、今いる階層の全体像も一発で分かる。
このまま歩いていたら……四体かな。
それは二人も分かっているみたいだ。俺とは違って素で分かるのだから本当にすごい。だが、遠くない未来に俺はリリーやエルくらい、いや、二人以上の力を手に入れる。夢や目標は高くないとやる気は湧かないよな。
さてと、もう目の前に敵が現れるぞ。
名前はファンタジーでは定番のゴブリン、醜いとはよく聞くが果たして。軽く腰の剣に手をかけて前方を注視した。……だが、それは少しも必要無い行動だったらしい。
「やりますね」
「シオン様の付き人ですから」
チラッと見えた瞬間に全ての首が飛んだ。
瞬きとかもしていない、そんな一秒にも満たない時間の間に二人が殲滅させたのだろう。例えゴブリンが俺でも倒せるくらい弱かったとしても、今の速度で動き殺しきるなんて……日本にいたならば信じていないな。今だって心臓が強く跳ねていて痛い。
絶対にこの二人を敵に回してはいけないな。
ましてや……遠くない未来と言ったが出来そうにない。だが、これだけの強さを身近に、肌で感じられたのは紛れも無く良い経験だ。どんなに強い敵が現れようと二人へ抱いた恐怖に比べればきっと大した事が無いだろう。
「さすがはエルだ」
「この程度ならシオン様でも出来ますよ」
「やめてくれ、今は出来ないよ」
エルの世辞に適当に返しておいた。
ただエルはエルで「確かに今は無理かもしれませんね」と言っている当たり本当に勘が鋭いな。微かに笑ったように感じたが……兜のせいで合っているのか分からないや。一応、エルに笑顔を見せてからリリーの方を向く。
「リリーも騎士団長という名は伊達ではないな」
「お褒めに預かり光栄です」
「この後もよろしく頼むよ」
わざわざ頭を下げてくるなんてね。
褒めただけでそんな仰々しい対応をされるとは思ってもみなかった。まぁ、そういうところも含めて感謝するというパフォーマンスの一つなんだろう。何と言うか、貴族としての行動を好きになれないな。一々、こんなことをするなんて面倒くさ過ぎる。
「このゴブリン達は貰ってもいいか」
「……大した価値もありませんので私は構いませんが」
エルも首を縦に振っている。
それなら有難く頂こう。大した価値も無いとは言っていたが売れるのなら全然、貰いたい。一体につき五百円だとしても二千円になるからな。ただ問題があるとしたら……いや、それは些細な事か。
「これは頂いた礼だ」
「それは……」
「物を回収して溜め込む事が出来る能力だ。本当は人に見せたくは無いのだがな」
別にこれくらいならバレても構わない。
というか、多少の秘密はバラしておいた方が制限されなくていいからな。本来の能力である物を売って買うって部分は仕入れたと言えば済むし。ここだけならバラしたところで便利屋さん程度で目を付けられることも無いだろう。
「さてと、奥へと行こう。このような事で時間を食ってしまっていてはシンお父様の命も果たせないだろうからね」
「そうですね、お任せ下さい」
笑ったリリーに微笑み返しておく。
再度、歩き始めた二人の後を追った。
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