6話
「ようやく戻ってきたわね」
「すまない、屋敷の見学も共に終えてきたんだ」
部屋に戻るとマリアがいた。
それも何かをしていたのだろう。ベットの上にある布団に包まりながら何食わぬ顔で返答してきたし。恐らく変態と思われてもおかしくは無い行動をしていたんだろうな。
「ほら、ここに座りなさい」
「あ、うん。ありがとう」
何かが違う気がするけど気にした負けか。
エルに近くの椅子を渡してマリアの指示通り隣に座る。寝ていたせいでマリアのドレスが若干、着崩れしているのが目に入って毒だ。その状態で身を委ねようとしてきていたから申し訳ないけど少し距離を取らせてもらった。
「はしたないよ。一人の公爵家の子女なのですから家族に対してとはいえ、ベタベタと体を寄せるものではないかな」
「むぅ……分かっているけど……」
「今の私はシオンでありシオンじゃない存在です。マリア姉からすれば弟と戯れているだけかもしれませんが私も同じように感じるわけではありません」
それくらいは言っても問題は無いだろう。
事実、ガワはシオンで間違いないんだ。違うとすれば中に入っている魂が別物ってだけ。見た目が変わらないからって、前と同じスキンシップを取られても俺からしたら変な感情を抱くだけだからやめて欲しい。
悲しそうな、それでいて嬉しそうな顔をされた。
ちょっと複雑そうな表情だったせいで俺もどういう対応をすればいいのか分からない。ただ何も言わないで隣同士、座りっぱなしよりは早めに用事を済ませるべきだよな。夕食とかだってもうすぐだろうし。
「それで何か用事でもあるの」
「あ、そうそう、忘れるところだった。お父様から小遣いを渡しておいてくれって頼まれたから来たの。はい、これ」
そう言ってマリアから小袋を渡された。
見た感じ大して入っていなさそうだが今いるのは魔法がある世界だ。さすがに銅貨一枚みたいな事は有り得ないだろう。……いやいや、マリアは小遣いだと言っていたし割と可能性はあるのか。どちらにせよ、出してみないと意味が無い。
中に手を突っ込んで適当な道具を出す。
何か剣の様なものと……金貨のような形の何かが入っている。全部、出して見たいけど今は小遣いと呼ばれたものから先だ。右手で金貨を掴んで外へ出してみる。……色は金というよりも白くて薄透明。少なからず金貨と呼べるものでは無いだろう。
「何これ……」
「シオン、それはミスリル貨っていうものでね。王国で一番、価値のある貨幣なのよ」
「となると……それだけシンお父様は期待してくれているのかな」
俺を幾らで買うかと聞いてこれだ。
もしくは本当に小遣い感覚で渡してきただけか。お金を多く貰える分には嬉しいけど恐ろしくもある。これで俺がシオンでは無いとバレた時にシンは許してくれるだろうか。認めたからと俺を家に置き続けてくれるのかな。
「小貴族の一年間の収益くらいの価値はあるからね。公爵家であってもおいそれと渡せる金額では無いと思う」
それを聞くと……余計に頑張るしかないか。
シンに自身の価値を見せつけるためには努力して強くなるしかない。俺が提示した条件はシンが俺の才能を幾らで買うか、って話だしな。言わば、俺に幾ら投資出来ると聞いてこれだけの金額を渡してきたとなると……。
とりあえず、これで固有スキルは使える。
色々な事を考える事にはなったけど、お金さえあれば最強クラスに強いスキルを使用可能になった事を喜ぼう。シンに対してもスキルを活用して恩を返していけばいいしな。そこら辺は一人になった時を見計らってやるとしよう。
「マリア姉、届けてくれてありがとう。今度、何かお礼をするね」
「この程度、お易い御用よ」
ニコッと笑って抱き着かれた。
引き離してもいいが……まぁ、気分良いし助けてくれた手前、少しくらいならいいだろう。俺も抱き締め返して一頻り久しぶりの女の子の感触を楽しんでから離す。ちょっとだけ力を込めて抵抗されたけど引き離そうとしたらすぐにやめてくれた。
さてと、マリアの喜ぶ物も考えておかないとね。
シンは武器や酒とかで良さそう。でも、マリアのような可愛らしい女の子が喜ぶ物は俺には想像がつかない。エルもそこら辺は疎いだろうから外へ出て情報を集めるのも手かな。まさか、マリアが接触するであろうメイドとかから話は聞けないからさ。
「シオン様、食事の用意が整いました」
「ん、ありがとう。今から行くよ」
話が終わったところで来るとは丁度いい。
もしかして外から声をかけてくれたメイドは話が終わるのを待っていたのかな。いや、さすがにそれは無いよね。プロ意識が高過ぎて俺の場違い感が本当に酷くなる。庶民が高いフレンチの店へ行きます、みたいな感覚になるな。
まぁ、それは家に留まる時点で分かった事か。
マリアとエルを先に部屋から出して後ろを歩く。隣同士だとメイド達の移動の邪魔になるだろうし前を歩いても自信を持って先導できるわけではないからな。時折、マリアが腕を組んでこようとしたからそれだけ拒否して着いていく。
会議室の一歩手前、そこに食堂があった。
何食わぬ顔で先に入っていく二人の後を着いてメイドに指示された席へ座る。マリアが隣に座ろうとしてきたけどメイドに注意されていたあたり席は固定なんだろうな。……食事が楽しみな分、おそろしくも思えてきたよ。
席が固定って事は狙って殺せるよな。
例えばメイドの一人が暗殺者だったとする。その暗殺者が運んできた俺用の食事に毒を仕込みさえすれば終了だ。早めに手を打っておかないと俺の命が危なさそうなのは確かか。まぁ、必ずしも毒が入っているとは限らないけどさ。
ステータスを開いて倉庫の中に小袋を入れる。
大まかなやり方は説明欄に書いてあったから難しくは無い。小袋を自分の体の中に入れるイメージをしながら触れればいいだけだ。収納されたかは分からないが手元に小袋が無いから成功したと捉えてもいいだろう。
そのままバレないように俯いて地面を見る。
異次元流通を使うのも同じくイメージだからよく使っていた通販サイトの画面を思い出して……おし、しっかりと似たような場面が目の前に現れたな。検索画面が現れて、その下にはおすすめの商品が並んでいる。
タイムセールなどもされているようで半額になっている品物まであるみたいだ。今、欲しいかと聞かれれば微妙なところではあるけど……だって、半額になっているものは鍋とか肉とか今の俺には不必要そうなものだったしね。
と、そんな事はどうでもいい。
当たり前だけどお金が入っていないと何も買えないからね。適当な商品をタッチしてみて買えそうかを見てみる。牛肉の購入画面に入ったが……大丈夫そうだな。下には個数を決める欄と中に入っている残高、加えて購入した場合の差し引きとかが書かれている。
それが分かれば後は……うん、買えたな。
このスキルの中では金貨とか銅貨とかでは無くて円が貨幣単位として使われている。中に入れたのはミスリル貨一枚だけだったけど……円で換算したら十億になるらしい。何とか表情は崩さないようにしたけど背筋が凍る思いだ。
だってさ、俺の才能に対して十億円だぞ。
確かに小貴族の一年間の収益と言われていたから安くは無いと思ってはいた。でも、ここまで高いとは思うわけないじゃん。いやいや、貴族だと十億なんてすぐに消えてしまうのか。日本人が人生に使うお金の合計額でさえ三億とか言われていたんだぞ。
果たして、これを俺一人で返せるのか。
まぁ、不可能に近いだろうから無駄遣いは出来そうにないな。このお金は見せかけだけだ。使えて百万くらいか。既に必要だと感じた指輪を買うのに五万円も使ったから残り使えて九十五万円。十億と比べれば圧倒的に少なく感じるけど、それでも九十五万円もあれば買いたいものは幾らでも手に入れられる。
とりあえず指輪を手元に取り出して付けておく。
キチンと効力を発揮するかどうかは後々、分かるだろう。商品の説明としては毒が入っているかどうかが分かるアイテムらしいからな。どうやって伝えてくれるのかは気になるが今は待つしかないか。
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