3 冬の部屋

 絵の具と油のにおいのしみついた部屋。冬のぼんやりとした光が窓からさしこんでくる。タブラのリズムが部屋中に響きわたり、十二弦ギターの奏でる和音にイングリッシュ・ホルンのメロディがからみつく。

 部屋の壁に無造作に立てかけられたキャンバスの中には無表情な女性が裸のまま僕を見つめている。そのまわりをパンツ一枚の女性がうろうろと歩きまわっている。

「寒くないの」

「平気だよ。ストーブついてるし」

 ミーちゃんがそう答える。そう言いながら何かをさがしている様子。

「コーヒーいれるね。インスタントだけど。でも、どこに行っちゃったかな。コーヒーが見つからないの」

 そう言ってミーちゃんは、僕におしりをむけて部屋の中をはいまわりはじめた。僕は毛布にくるまったまま。

「ねえ、最近彼女とは会ってないの。前に言ってたじゃない」

「ミーちゃんも多分一度会ってると思うよ」

「そう言ってたね。でも、あたし覚えてないんだ」

「仕事が忙しいみたいでね。こっちから連絡してもいつもダメ。でも、たまに突然向こうから電話がかかってきて」

「呼び出されるの」

「そんな感じかな。でも、ちょっとだけ会ってすぐさよなら」

「つまんないね」ミーちゃんはコーヒーをさがすのをあきらめたのか、僕の前にすわりこんでいる。

「何か着たら」

「あたしのハダカきらい」

「そうじゃないけど、寒そうだから」

「鳥肌見えた」そう言うとミーちゃんはベッドの上に脱ぎすててあったセーターを頭からかぶった。

 そして「紅茶でもいいかな」と僕に言う。

 僕がうなずくと、立ち上がって部屋のすみの食器棚のほうに向かって歩きはじめた。

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