第30話:仕事のできる女vs流
「小さなバッグですね。それでこれは?」
「フフフ。見た目はこんなんだがな……見ていろ」
バーツはそう言うと、近くの棚から彫像と、本、それと長さ五十センチ程のスクロールを持ってくる。
それを目の前の小さなバッグへと入れる。
「へ!? 手品か何かですか? 凄いですね!」
「はっはっは。違う違う。これはアイテムバッグと言ってな、商人なら
「そ、それは凄いですね!? (出たよアイテムバッグ!!)」
「今の時価で大体竜貨一枚くらいだな」
「……えっと、竜貨は確か一千ま……ん? えええ!? そんなに高価な物なんですかそれ!?」
「そうだ、そしてなかなか売りに出されない物だ。だから俺がもらったグラスの返礼も込めて、保証の一部にそれも付ける。ちなみにそれ以上になるとアイテムボックスと言って、王貨クラスの取引になるな」
突然のアイテムバッグの登場に小躍りしたい流だったが、今は商人モードのロール中なので冷静に返答する。でも本当は飛び跳ねたい!
「そう言う物ですか、ではそれでお願いします。しかし凄い品ですね、感謝しますギルドマスター」
「喜んでくれてなによりだ。時に、ナガレはギルドの登録はしたのか?」
「あぁまだでしたね、そう言えば」
バーツは「ふむ」と一言頷くと、デスクに行きなにやら一筆書いている。すこしすると封筒に入れた手紙を流に差し出す。なんだろうか?
「これをメリサに見せて登録してくれ。たった数年で受付室長になるほどの逸材なんだが、接客態度が評判悪くてな。少々懲らしめてやってくれ。あのすまし顔がどのように変わるか楽しみだ」
そう言うとバーツは快活に笑い、流にメリサの情報をそっと耳打ちしてきた。それに驚く流だったが、しだいに口角があがる。
それを見たファンは「やれやれ」と漏らしながらも、この後の事を想像したのか楽しそうにしている。
「さて、これらの品について、早速オークショニアたちと相談せねばなるまい! ムハハ、楽しくなって来たわ! そういうワケで二人とも、また来てくれ」
そう言うとバーツは流が出した荷物を大事に木箱へ入れだしたので、二人は退出し一階の受付へと向かう。
一階ではメリサが客の接待をしていたが、流達を確認すると同僚にその仕事を任せ、奥のカウンターへと二人を招いた。
「随分と
なぜか嫌みな感じで言われたので、流は少しムっとしてしまう。だがこの後を思うと、それもすぐに収まった。さぁ楽しみだと、流は考えながら返事をする。
「ああ頼むよ。あ、その前にギルドへ登録するとどうなるか教えてくれないか?」
「それはもちろんです。まずギルドランクからご説明しましょう、ランクは全部で五種類あります。まず流さんは一番下の
「露天級?」
「はい、売上の二割をギルドに納めていただきます」
「二割!? なかなか酷くないか?」
「えぇ……大抵の方はそう言われますね。しかし手厚い保護が同時にギルドから約束されます、例えば――」
機械のような返答をするメリサ。その話はギルドに加入した場合、マフィアやチンピラからの保護は無論、領主や国への税の申告代行をする。さらに商売をする場所の確保も、率先し世話をしてくれるそうだ。
逆に加入しないと、それらのリスクを全て背負はめになる。更に税の申告面ではネットも交通手段も、まともに無いこの世界ではつらい。
だからそれだけで商売どころじゃなくなるらしい。因みにギルドは通信の魔具があるので、税の申告も楽なんだとか……ずるい。
「ですので、上位のランクになるほど納める額は少なくなります。国が経済的にマイナスに傾く、例えば物価が安いのに物が売れなくなった時に、上位ランク者達はその財貨を放出し、市場を活性化させる義務が発生します。さらに『ナガレさんのような』下位のランクの方々への支援も積極的に行っています」
流はメリサのいちいち煽るスタイルが、見ていて少し楽しくなってくる。
だがそれよりも、この内容なら商業ギルドへと加入したほうが、良いかもと考え始める。
そんな事を考えつつも、メリサの説明は続く。
「それとランクは上から順に『商売神』『大店級』『領都級』『地域級』『露天級』の五つです。まず現実的なところから露天級の所だけ説明しますと、名前の通り町や村での小規模な商業地区での商売が主ですね」
「なるほど、ランクはどうやったら上がるんだ?」
「聞いてもまだ早いと思いますが……そうですね、一定のギルドへの貢献度が上がれば上がります」
それを聞いていたファンは、メリサの後ろで面白そうに笑っている。ファンの目線を追うと、なぜかバーツが柱の陰から楽し気に覗いていた。こまったオジサマだ。
「つまり上納金をあげろと?」
「身も蓋もない言い方をすればそうなりますね。因みに『ギルド支援金』と言いますので覚えておいてください。ランクが上がればギルドから様々な便宜が優先的に受けられます」
「俺はそんな高い上納金は困るんだが?」
「支援金です! そうは仰られても規則ですから。だいたい、こんな話はギルドに来る前に商人希望者のほとんどは知っていますよ。それが分からないようでは、まったく見込みはありませんよ。少しはご自分で調べてからいらっしゃったらどうですか? それにナガレさん、あなたにやる気と言うものが感じられませんよ。少しは他の商人を見習って朝一番にいらっしゃったらどうですか?」
そう冷たく言うと、メリサは魔鏡眼を右手の中指でクイっと上げた。人間なのかと思えるほど、凍える視線が容赦なく流を突き刺す。
「どうしてもダメ?」
「ダメです」
「冷たいね、そんな凍てつく対応じゃお客に嫌われるぞ?」
「ッ……。余計なお世話ですし、嫌われていません。よね……」
「そんなにツンケンしてるから
「子ジワッ!? って、誰が貴方のママなんですか!! 私はまだ十八年間一度も彼氏なんて……って、あッ!?」
煽る流の「彼氏」と言うワードが琴線に触れたのか、メリサは声を荒げた事でギルド中の視線がメリサに集まる。
「ウソ! メリサちゃん彼氏いないの!?」
「マジかよ、って事はしょ……」
「流石俺の冷血アイドル! あの冷血な眼差しで射殺されたい!」
「あんなに仕事出来るのに、残念すぎる……」
一部変な事を言っているサポーター(?)を気にもせず、メリサは慌てて手を大きく振って全力で否定する。
「い、い、今のは言い間違いですから! 気にしないでください! ほら貴女達も仕事へ戻って!」
同僚達にも哀れみの視線を向けけられ、混乱しながら威厳を保とうと必死に言い訳をする。
「もう! ナガレさん、貴方が変な事を言うから!!」
メリサ、涙目で激オコである。もう視線だけで流を殺せそうな勢いで睨みつける。コワイ……。
「とにかく、もう、話は以上です! では!」
「っと、待ちな姉ちゃん。帰る前にこれを見てくんな」
流はバーツからもらった用紙を、机の上をツイッと滑らせてメリサへ渡すのだった。
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