第28話:異世界初の街、トエトリー

「ナガレ、これを持っていてくれ。これがあれば半年は通行税がフリーになるパスだ」

「それはアレドさんありがとうございます。この国の事が全く分からないので、とても助かります」

「なに、こちらとしても騎乗馬三頭も格安で譲ってくれると言うのだから、この程度はな?」

「ではお互い様と言う事で」

「ハハハ実に商人らしい。馬はそこの門番へ預けて置いてくれ、支払いは後この道を真っ直ぐ進んだ先にある、『領都守護騎士団』の詰め所まで来てくれ。そこで支払いをするのでな」


 そう言うとアレドは一枚の紙に取引内容を書き、サインと判子のような物を押した。


「じゃあこれを持って行ってくれ、受取証だ。そこにナガレのサインも書いて出してくれ」

「分かりました。アレドさん、色々ありがとうございました」

「こちらも助かったよ。ではまたな」


 そう言うとアレドは部下を引き連れて、詰め所の方へと戻っていく。

 馬とクズ鎧を門番の屯所へ移動して、さてどうしよかと思っていると、ファンが流れに提案をしてくる。どうやら何かいい事でもありそうな表情だ。


「ナガレ、この後予定はあるか? 無ければ町を案内するぜ? その後生還祝いでもしようじゃないか?」

「お~それはいいな! じゃあファン、悪いが付き合ってくれ」

「お安い御用さ! じゃあ行こうぜ」


 門から正面の道は真っ直ぐ続いており、最奥には広場がある。そこを囲むように店舗があり、露天も多く異世界情緒にあふれていた。

 街並みは石造りの家が殆どで、まれに木材だけの建築物があるのが目新しい。

 通りの両脇には露天が立ち並び、店の奥から次々と新鮮な食材が補給され、とても活気のある場所だった。


 人々も多様で、人間種が一番多いがエルフやドワーフ等の亜人も多く、中でも動物が人になったような獣人が特に多かった。

 その獣人たちも種族が多く、犬や猫。それ以上に多種族がいそうだ。

 広場まで来ると大道芸やら露天やらで人があふれ、中央には大噴水があり心が癒される。


 ファンに町の規模を聞くと、人口は多分十万以上はいるだろうとの事だった。

 経済規模で言えば、この国の王都より遥かに大きいと言う普通の国ではありえない状態だと言う。


 その中央通りを抜け、三叉路さんさろを左に曲がった所に商業ギルドがあるとファンに教えてもらい、早速行ってみる事にした。

 商業ギルドは三階建てでかなり大きく、横には倉庫のような建物が複数棟あり、その奥にも倉庫がある様にも見える。


「ちわ~ギルマスはいるかい?」

「あぁ、ファンさんいらっしゃい。ギルマスは今三階にいますよ、呼んできましょうか?」


 そんな受付嬢が無感情に答えた事とは真逆に、ギルドの中は静かだが熱い取引が行われているようだった。

 ギルド内は受付窓口が八つほどあり、半分ほど埋まっている感じで、商談のためかホールには丸テーブルやカウンターが複数あり、そこで話し込んでいる人もいる。


「いや、俺たちが行くよ。そうだ、こっちの若いのはナガレって言うんだ。一人で盗賊五人を倒しちまう凄腕の商人さ。よろしく頼むぜ」

「そうでしたか。ナガレさんようこそ、トエトリーの商業ギルドへ。ギルマスとの話が終わったらこちらへ来て登録なさいますか?」


 実に機械的に対応し、しかも自分を何故か「品定めするような視線を向ける」受付嬢に少々ムカっとする。


「ああ、すまないがよろしく頼むよ、えっと……」


 流の言わんことを汲み取った受付嬢は、思い出したかのように言う。その表情は面倒そうであり、明らかに流を見下している。


「ふぅ、これは失礼しました。私はメリサと申します、よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくな」


「それと、ギルドマスターはお忙しいので時間をあまり取らせないでくださいね。特にどこの誰か良く分かっていない、そこのナガレさん・・・・・・・・分かりましたね?」


 と、殊更強調してナガレに注意する。それにファンは肩をすくめて反応しつつ、流は表情にこそ出さないがムカっとする。


「へいへい、分かってるさ。な? ナガレ」

「……ああ」


 メリサは良く言えばデキル綺麗なお姉さんで、悪く言えば感じが良くない冷たい顔の美人だった。

 髪は淡い青色で、肩まで伸ばしたストレートを耳にかけている。

 体形は上下の凹凸が凄い。黙っていれば求婚者が殺到間違いなし! そんな受付嬢だ。

 そんなメリサを良く見ると眼鏡をしているのだが、何故かレンズが無い。伊達メガネだろうか?


 メリサとの挨拶がすむと、二人はギルドマスターの部屋まで案内される。そこは重厚で樫の木のような、木材で作られた立派なドアが目の前にあった。


「ギルドマスター、メリサです。今お時間空いていますか?」

「おう、客かい? 通してくんな~」


 部屋の中から答える男はなんとも気楽な口調で答え、受付の娘とは全く違う好印象な感じだなと流は思う。

 扉を開くと広い室内には大きな一枚板のテーブルに、皮製の豪華なソファーセットがあった。よく見ればそこに一人の初老の男がいる。


「お!? 誰かと思ったらファンじゃねーか。元気にやってたかよ?」

「おうよ、バーツのオヤジも元気そうでなによりだぜ」


 どうやら二人は友人のような関係で、双方くだけた感じで話していた。


「おう。それでそっちのボウズは?」

「こいつはナガレって言うんだ。海の向こうから来た商人で、しかも腕っぷしが凄いぞ? ここらを荒らしている盗賊団の五人を、あっという間に倒した」


 ファンは見てもいないがそう断言する。なんとも調子のいい奴だと流は内心苦笑い。


「……殺盗団さっとうだんか?」

「それだ、正にそいつらさ。あの下品なドクロの刺青は間違いねぇ。俺も襲われてな……その時に森で偶然この男、ナガレに助けられたってワケだ。今そいつらから奪取した戦利品は、騎士団に売り払ったりした帰り足さ」

「うーむぅ……それならこの町の商業ギルドとしても心強いわ。ナガレと言ったか、よく来てくれた。俺はここのギルドマスターをしているバーツと言う。この町で商売するなら便宜を図るから気軽に言ってくれ」


 流も丁寧に挨拶をすませると、バーツに進められたソファーへ座る。

 話にでた殺盗団と言う奴らには、確かに腕や首にそんな刺青があったと思い出しその事を尋ねる。


「ところでその殺盗団と言うのは何です? さほど強くも無かったのですぐ終わりましたが」

「はっはっは。あの非道な屑共を雑魚呼ばわりたぁ、益々もって気に入った。あいつらは正に外道ってやつでな、火付け、誘拐、強盗、押込み、殺人は通常営業で、おやつ感覚で強姦をするクズの中のクズどもだ! 話してるだけでイライラしてくるわ!」


 そう言うとバーツは心を鎮めるために、冷めても香りがよいお茶を一口飲む。落ち着いたのか、目の前の客へのもてなし・・・・を思い出す。


「と、忘れとった。メリサ、悪いが茶を三つ用意してくれ」


 バーツがそう言うと、メリサは頭を軽く下げ部屋から出ていく。その様子は特に思う所もなく、とても素直である。

 先程の嫌味な態度は一体? と流は思っていると、バーツが流へと話しかけた。


「それでナガレはどんな品を扱うんだ? そのカバンも変わった形だが……それにその腰の……いや、それよりそのカバン中に品が入っているんだろ?」

「ええ、これはリュックと言う物ですね。では今持っている品をお見せします」


 流は手に持っていた美琴をソファーの横に立てかけると、リュックから持ってきたものを取り出すのだった。

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