第27話:迫る騎兵

「よし、お前らに三つの選択肢をやろう。一つ、『身ぐるみ置いて帰る』。二つ、『腕一本置いて帰る』。三つ、『命も全部置いてあの世へ還る』。さぁ選べ、三分待ってやる。慈悲深く・・・・なぁ」


 流はそう言うと美琴を腰にき直し、後ろへ三歩意味も無く下がる。某・色眼鏡が似合う大佐のように。


「こ、このガキャ! お前ら全員でぶっ殺せ!!」

「あぁ~やだやだ、文明的なお話が出来ないんですかね」

「殺れ!!」


 リーダー各が指示を出すと、子分達は全員ロングソードを装備しており、流を半包囲で襲い掛かる。

 流は居合いあいもどきで抜刀し、子分Aの右肘を左下から斬り裂き、返す刀で子分Dの左手首を斬り飛ばす。

 一瞬の事に唖然としていた、残った中央の子分Bの喉元に美琴を突き付け、アニキとBへ不敵にと言い放つ。


「で?」

「わ、わ、分かった!! いえ、分かりました!! 身ぐるみ全部置いていきますから命だけはご勘弁ください!」


 そう言うと盗賊達は持っている物全部と、鎧一式を置いて歩いて去っていく。その表情は真っ青になり、恐怖で脂汗が吹き出ていた。


「うわぁ……こんなアニマルアーマーいらねーぞ」

 

 盗賊が置いていった戦利品を見ると使えそうな物は無く、銀貨三枚と銅貨が二十七枚だった。それを美琴の先端部分きっさきで数えながら流は独り言つ。


「チ、しけた盗賊だな」


 美琴は思う。最早どちらが盗賊か分からない言いようであると。


「さて、あとはあの馬達か……ジジイに乗馬も習ったから乗れるとは思うが、落馬しても笑わないでくれよ美琴」


 それに笑うように揺れる美琴を鞘に納めながら、流は最大の戦利品である馬を見る。

 馬は五頭大人しく並んでおり、何かの道具も積んでいるようだった。

 鞍はあるものの、足をのせるあぶみが無く、操作性に不安があった。しかし徒歩よりは遥かにマシだろうと、流は騎乗する事にする。

 馬にはロープが積んであったので、ゴミ同然のアニマルアーマーを一頭の背に括り、さらに残りの四頭を何とか順にロープで括り付けた。


「おまたせ美琴。これ以上ここにいると仲間を呼ばれるかもしれないから、早急に町へ向かうとするか」


 慣れない乗馬で苦労しながらも何とか進み始める。幸い繋がれた馬たちも、大人しく付いて来てくれているようだった。


 鐙が無いので何度か落馬しそうに進んでいると、前方より騎兵が迫って来るのが見えた。 流はその光景で身構える……が、その集団の中に、先ほど別れた商人の男を双眼鏡で確認した流は、安心したのだった。


「オーイ! オーイ!」


 遠くから馬車の商人が手を振って近づいて来る。よく見れば、一緒に騎士が十五人同行していた。

 流も商人の無事を喜ぶと同時に、騎士達への説明も面倒だなと考える。


(とりあえず美琴の『絶対祟り領域』に触れた馬鹿は病死とするか、外傷は自分でつけた引っかき傷だけだしな)


「おっさんも無事着けて良かったな! 応援を呼んできてくれたのか、助かったよ」

「おっさんじゃねー! まだ二十五歳だ。しっかしソレは一体……馬と何だ、それは?」

「おっさんも見たあいつら盗賊の鎧一式だよ。なんだかくれたんだよ、平和的にな」

「おいおい、マジかよ……」


 すると騎士達の代表が話に割り込む。


「すまない、ちょっといいかい? 私はアレド。この隊の隊長をしている」

「それはご丁寧にどうも、俺はしがない商人見習いの流と申します。以後お見知りおきを」

「ふむ、ナガレとやら。では早速だが聞かせてくれ、この馬や背の鎧? のような物は?」


 流は思う、「やはり聞かれるのか」と。だから予定していた内容を、アレドに賊との顛末てんまつを一部優しくオブラートに包み「真実」を話す。


「なるほど、するとこの先に病死の男と手首が落ちてると?」

「ええ、そのはずです。野犬にでも食べられない限りはね」

「では副長、隊から半分を率いて確認に向かえ。残りはこのまま帰投する」


 そうアレドが副長に命ずると、副長は即座に兵を半分に分け、賊との戦闘現場に向かった。

 分隊を見送りながら、アレドは流へと話しかける。


「しかしナガレは随分と腕がたつんだな? その腰の剣……か? それで戦ったのだろう?」

「そうですね、この剣は『刀』と言う種類の武器になります。正確には『日本刀』と申しまして、我が国最高の武器の一つですね。この国にはそんな私の故郷せかいの品々の良さを、この国の人に知っていただけたら……と、その思い来てみました」


 アレドは感心するように悲恋美琴を凝視する。若干美琴が嫌がっているのか、桜の色が薄くなっているのが分かった。


「するとナガレはこの国には行商に来たと?」

「そんなところです。とりあえずこの先の町で、商売が出来るか見てみたいと思いますね」

「ならばまずは商人ギルドへ登録するといい。この国での税制面で優遇されるし、商人同士の繋がりも豊富だと聞く」


 流は新しい情報を心のメモにしっかりと記入し、次の質問へと移る。

 それと同時に一つの案を実行する。うまく行けば更に人脈形成が進むかもしれない。


「アレドさん、それでこの馬とかどうしたらいいんですか?」

「そうだな、基本的に君が討伐したのなら全て君の物だ。今回はこの男、ファンの証言があるから、ナガレが盗賊と言う事は無いと確信している」


「そうですか。でしたらお近づきのしるしに、四頭を相場の半額で騎士団へお譲りしますがどうでしょうか?」

「おお! それは本当か? そうして貰えると助かる。ぜひそうしてくれ!」

「ではそう言う事で。残りの一頭はえっと、ファン? だったか。助けてくれたお礼に譲るよ」

「おいおい、助けてもらったのは俺の方だぜ? 逆にお礼がしたいほどだよ」


 流としては、売る品は条件解放すれば品数はあるはずだ。それに目先の金に執着するより、人脈を広げたいと思ったのが大きい。

 だからこの提案をしたのだが、思ったよりも効果はありそうだった。

 あらためてお互い自己紹介しあい、話も弾んで来たところで目的地が見える。


「ナガレ、もうすぐトエトリーの町に着くぞ」


 そうファンが言うと、これまで視界を覆っていた木々がまばらになり森を抜ける。

 すると丘の上から遠くに見えた街並みと、結構高い防御壁がハッキリと見られる所まで来たのだった。


「おお~初の異世界の街か。楽しみだな!」

「イセカイ? なんだそりゃ?」

「あぁ~俺の方言みたいなものだ、気にしないでくれ。外からだとよく分らんが、それでもかなり大きな町だと分かるな」

「そうだぜ。この町はな隣と言うか、囲まれている伯爵領との交易が盛んでな。主にダンジョンから出る魔鉱石を加工・販売をしているから賑わっているんだわ。ま、その他にも色々と商売の中心的な町さ」


(出たよダンジョン! ボスとかいるのか!? 行ってみたいな!!)


「へぇ、そのダンジョンってどんな感じの場所なんだ?」

「そうだな。デカイ、とにかくな。地下十五層までは分かっているみたいなんだけどよ、その下はまだ誰も行った事がねーんだ」

「と言うと、狂暴なモンスターでもいるのか?」

「そのとおりだぜ。何でも人型でな、その連携した攻撃は双子みたいに息の合った、馬と牛みたいな化け物が邪魔をしてるんだとさ」

「それはまた……」


 その話を聞き、真っ先に思い出すのが「ミノタウロス」だった。そんなものが居るダンジョンに、期待と不安を抱きつつ目的地が近づく。

 やがて防衛壁の門の前に到着すると、アレドは門番へと何かを伝えに行った。

 しばらくすると戻って来て、町への入場許可の手続きが済んだことを流に伝えるのだった。

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