商人は異世界で無双する

第26話:続・森を抜け町へ行こう~第一道人との遭遇

 異超門を抜けた先には、ここ最近見慣れた光景が広がっていた。


「特に変わった事は無いな……さて美琴、まずはセリアに教えてもらった通り行ってみるか!」


 流は現在の時間を確認をした後に高台を降り、まずはゴブリンの集落へ向かう。途中危険な生物にも会う事なく、無事に集落へと付いたのだった。


「まぁこうして見ると、確かに村ってよりは集落だよな……」


 辺りにはすでにゴブリンの死体は無く、小屋は何者かに打ち壊された上で燃やされていた。


「どう思う美琴。例の応援がやったのかな? まぁこれで奴らの仲間が来たとしても住み着く事は出来ないだろうな」


 それに軽く揺れることで応える美琴。見るものも無いと判断した流は森を進む。

 しばらく進むとセリアが言っていた開けた場所へ到着し、そこから十分ほど進むと大きな街道に出た。


「おおお! ちょっとだけ文明の香がするぞ! ワクワクするわ、マジで!!」


 意気揚々と道を歩く、しかしいくら進んでも上から遠くに見えた町は近づいてる感じがしない。むしろ感覚的には遠ざかっている感じすらした。


「やべぇ……現代人にはなんて過酷な環境なんだ……誰かタクシー呼んでくれ。無ければバイクを貸してくれ……路線バスでもいいぞ、俺が上得意様になってやる……もしくは妖刀が大きくなって空とか飛べないの?」


 呆れるように震える美琴を撫でながら、先の見えない道を見つめる。

 いつ到着するか不明で慣れない悪路。さらに暑さのせいか意識は朦朧もうろうとしてきたが、砂漠ではないので木陰で一休み。


「現代人の弱点だなこれは、それとも俺がひ弱なのか? それとアレ、アレが欲しい! そう自転車が切実に欲しい……ハァ、お前に愚痴っても仕方ないから歩く、か……」


 そうこうしていると後ろから聞きなれない大きな騒音が迫って来る。見れば口から泡を吹きながら疾走する馬車が迫って来た。

 見ると必死に「何か」から逃げているようだった。


「オオイ!! そこの旅の人! 後ろから賊が来ているからこれに乗れ!!」

「お? おお悪い!! 助る!」


 そう言うと馬車の男は流に手を伸ばしてきた。突然の事に思わず流も手を出す。

 これで徒歩の旅も終わるのだと安堵あんどした流だったが、馬車を止めず男は流の手を取ると、思いっきり引き上げる。

 どうやら緊急に何かから逃げている理由があるようだ。


「ふぅ助かった。アンタ一人で逃げた方が早かったのに俺まで悪いな」

「何、旅は道連れってやつよ」


 そう男はニヤリと笑う。見た目は三十代後半で、苦労しているのか顔は疲れた感じではある。

 顔のパーツはほりが深く、憎めない顔つきだ。その黒い瞳の目力はたぎっており、熟練の商人と言った風貌の男だった。

 よほど焦っているのか灰色の長髪を乱雑に縛り上げ、それなりに整った顔に汗を拭きだしながら背後を気にしている。


「それで何が来るんだ? まさかゴブリンの集団とかか?」

「いや来てるのは、チィッ! ――人間だ」


 そう言った所で背後から馬に乗った集団が見え、男は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「またいきなりこれかよ。一体いつになったらトエトリーの街に着けるのかねぇ……『あらすごい』仕事しろ」


 ことごとく異世界で争いに巻き込まれる流は、いい加減謎のステータス。『あらすごい』に疑いの目を向け始めていた。


「チッ、後ろにいた連中は全滅か? 今は雑魚っぽいのが五人だけなのが、逃げるのに狙い目かと思ったんだが……」

「後ろの奴らって? 他にも仲間がいたのか?」

「いや、俺だけだ。他ってのはトエトリーへ向かってた護衛付きの商人だろうよ。俺は襲われている所が見えて迂回して逃げて来たんだが、どうやら見つかっていたらしい。悪いな兄ちゃん、俺の馬車が襲われてるうちに逃げてくれ」


 必死に馬車を走らせる男であったが、単騎で駆けてくる馬には当然敵わず徐々に追いつかれる。


「心配すんな、人とやり合うのは初めてだが……なんだか出来そうな気がする」

「おい、無理するな。大人に任せてお前は行け!」 

「心配ご無用、俺だって――」


 そう言うと流は限界速度の馬車から飛び降りる。それを馬車の男は右手を出しながら止めようとするが、すでにその手の届かない所に流はいた。


「――最近、大人の仲間入りさ」


「馬鹿野郎!! くぅッ! スマネエ兄ちゃん、町へ着いたらすぐ衛兵を呼んで来るからな!!」


 そう言い残すと馬車は去っていく。


「はぁ、困った事になりましたね、美琴さん。俺の人生殺伐としすぎだろ。さて……頼むぞ!!」


 そう言うと美琴は強く震え返した。


 間もなく騎馬が五騎すぐ傍まで迫って来た。

 風体はいかにも盗賊然としたもので、なめした動物の毛皮を鎧の上からまとい、その皮から覗く鎧は、ちぐはぐの部品を無理やり着込んだ感じであった。


「オイ! そこのガキ、逃げた商人に捨てられたのか?」


 リーダー格の盗賊がそう言うと、周りの者もゲラゲラと品の欠片もなく笑い始める。


「まぁ~そんな所かね。で、そこの勇者ご一行様は可哀そうなガキに何かお恵みでも下さるのですかい?」


 流は両手を差し出しクレクレアピールをする。その顔は左眉をあげ、首を右に傾け実にたのしそうに煽る。


「……舐めたガキだ。どうせ死ぬんだから今死んどけ! って、なんだその腰にある剣は? 見た事が無い形だな……どうだ、素直に寄越よこすなら、ひと思いに殺してやるぞ? 慈悲深く・・・・なぁ」


 男はそう言うと馬から降りて流の傍まで来る。それを見た他の連中も、気持ちの悪いニヤケ顔をしながら馬から降りて来た。


「まぁ……構わないが、良いのか? きっと大変な事になるぞ?」

「あぁん? 馬鹿かテメーは? 大変な事になるのはテメーだよ。オイ、ガキから剣を取って来い」


 男は手下にそう言うとその場で腕組みをする。手下は「ヘイ」と一言言うと、流に向かって手を出してきた。


「ほらさっさと寄越せ!」

「はいよ、ドーゾお納めください」

「チッ、ムカつく態度だぜ、だがそれも今だけよ」


 手下が美琴に手をかけようとした瞬間、それは――起きた。


 手下の手がピクリと震えだし、直後にガクガクと震えだす。さらに失禁をしたかと思うと、過呼吸気味に浅い息を繰り返し始める。


「お、オイ! どうしたハング?」

「ヒッヒッヒッ……ヒャアアアアアア!!!!!!」


 ハングと呼ばれた男はそう叫ぶと、自分の髪の毛をむしり始め、血みどろになりながら顔をかきむしり、最後はこう叫んだ。


「ヤメヤメヤメあああやめェェェェェ嫌だああああああああああ!! ゴッチ゛ニ゛来゛る゛な゛あああああああああああああああ!!」


 そう言ったのが最後となり、ハングは盛大に吐血して後ろへとひっくり返った。

 その様子、穴という穴から血をながし、目玉はくぼみ、この世の終わりを見た表情。

 流はそれに眉をしかめると、呆然としている盗賊たちへ向きなおる。


「触れる事すら許さん……か。そりゃぁこんな汚物相手は嫌だよなぁ、俺も嫌だったが、どうなるか興味あったんだよ。ごめんな美琴。それにしても凄惨だな……」


 どこぞの拳法使いが「押してダメな所」を押した後のような有様で、ハングは苦悶の表情で死んでいた。


「ほれ、次は誰が持って行ってくれるんだ?」

「ヒィィィ」「何だコイツ……」「オイ、アニキどーするんだよ!」


 子分:A・B・Dは混乱している。


「こっこのクソがああ! ハングに何をした!!」

「ベツニ……」

「ック、舐めやがって!! 何もんだテメェ!?」

「俺? ただの商人だけど」

「そんな商人がいてたまるかあああ!!」


 どうやら怒ったらしい、異世界でもこの煽りは通じると判明した瞬間だった。

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