第25話:再び異世界へ

 翌朝目覚めると、因幡がお腹の上で「和菓子になって」寝ていた。

 何を言っているか分からないと思うが、とにかくウサギの和菓子が乗っていた。


「ふわ~、おはよう美琴。そしてなぜ因幡おまえはそこで寝ている、しかも菓子で?」

「よし、悪い子は食ってやらねばなるまい! それが大人の義務ってもんだ」


 起きがけだと言うのに、因幡のしっぽにムラっとくる流。その目つきは獲物を狙うケダモノそのものであり、あの甘美で濃厚な旨味を思うとよだれが出てくる。

 まだ寝ている白いお菓子へと魔手を伸ばすケダモノ……。そっと因幡の尻尾に手を伸ばす。が、しっぽまで残り五センチで、尻尾がコロリと抜け落ちた。


「ぬぉッ!? 生え変わった……のか?」

「ぅぅ~ん。あ、お客人おはようなのです」

「あ、あぁ。おはよう因幡。それより何か尻尾が抜け落ちたぞ?」

「あぁ~本当だ。これはお客人の体に残る、最後のダメージを詰め込んだから抜けたのです。これで今日から異世界へ戻れるのです」

「そうだったのか。ありがとうな因幡」


 そっと背中を撫でてやる。和菓子のくせにさらっとしていて、撫でるとあまい香りがただよう。旨そうだ……。

 そんなケダモノが獲物を狙っていたが、ふと気になることがある。そう、抜けたしっぽはどんな味なのか、と。


(あれ食べたら具合悪くなったのか……? 食べなくて良かった。いや、でも?)


「因みにその抜けたのを食べると、どうなる感じ?」

「そうですねぇ、お腹痛くなるですよ」

「デスヨネ」

「まさか食べようとしたです?」


 流は庭を見て遠い目をした。遠くで青竹の鹿威ししおどしが、良い音を響かせている。


「あー! 食べようとしたんだ! 食い意地のはったお客人なのです」

「さ、朝飯を食いに行くぞお前達!」


 ジト目の因幡を尻目に、流は何事も無かったかのように食事をしに囲炉裏の場所へ向かった。

 囲炉裏の席へと座ると、〆が挨拶をする。その普通に接する図太さに、起床後に会ったら文句を言ってやろうと思っていたが呆れてしまう。


「〆:古廻様おはようございます。よくお休みになられたようで良かったですね」

「おはようじゃないんですがねぇ? ったく。昨日は言いそびれたが、おまえに送られた異世界でひどい目にあったんだが?」

「〆:それは申し訳ございませんでした。まさかいきなり魔物と遭遇するとは思わず……。以前あちらから戻った者からの話しでは、異超門・・・から抜けた先に街があるとの事でしたので、すぐに人里へ行けるとばかり」


 そう言うと〆は、申し訳無さそうに頭を下げる。

 どうにも胡散臭いが、今更言ってもしかないと諦めることにする。ただ気になるワードが一つ。


「女狐とはよく言ったものだ。まぁいい。それで一つ気になったんだが、異超門いちょうもんってのは?」

「〆:あぁそれはですね、鉾鈴ほこすずが異界への扉を開た時の門のことです。異界を超える門……つまり異超門と言うわけです」


 その答えに流は頷く。確かに〝異怪骨董やさん〟へ戻る時、右手から鉾鈴が出現して豪華な障子戸を出現させた。そこが開きここへと戻ってこれたのだから。


「なるほどね、了解した。それで俺はやっぱり帰れないのか?」

「〆:申し訳ございません。それは私の力ではどうにもならなく……その鉾鈴と、貴方様の血のせいかもしれません」

「俺の血筋……か」


 流は自分の先祖のことを知らない。なぜか祖父が語らないからか、両親すら知らないのだ。

 そんなものかと諦めていたが、ここにきてこの話である。流石に無関心とはいかず、先祖に興味がわく。


「まぁそれはいいか。それよりこうなったら仕方ない、俺の家に状況を知らせてくれないか? 流石に兄貴は心配するだろうからな」

「〆:はい、それはすでに済ませてあります。どうぞお心安らかに、異世界をご堪能くださいまし」

「準備がいいねぇホント。じゃあ飯を食べたら異世界に早速行くけど、前回は何も分からず行ったからな。今回は俺が倉庫から商品を見繕っても良いか?」

「〆:はい、それはもうご自由に」


 そんな話をし、流がどんな品がよいかと思案していると、因幡が朝の膳を運んできたので早速食べる事にする。


 朝は旅館にあるような普通のメニューだったが――ハッキリ言おう。それは狂った美味さだった。

 怪しげなお薬でも混入しているのでは? と思えるほど、全てが美味い。だが強烈な旨味というわけじゃなく、ジワリとくる旨さに心が踊る。


 特に「納豆」が凄く美味い。日本列島西側の人は、納豆を苦手とする人がそれなりにおり、流も苦手な食べ物の一つだ。

 しかしこの納豆は旨味成分だけが凝縮され、臭みが逆に香ばしく、納豆を引き立てる薬味の如く食欲を刺激したのだった。


「納豆美味すぎ! 飯とセットでおかわり!!」

「はい、どーぞなのです」

「〆:この納豆は因幡が作ったんですよ? 製法は私にも教えてくれないんです」

「そうなのか~、因幡はよく出来たウサギさんだなぁ」

「へへへ~。なのです」


 と、もふもふなのに因幡の頬が染まるのが分かった。

 朝食を十分に堪能した後、異世界で商売するための品等を補充しに、流は回廊を移動し倉庫へと向かう。


「〆:現在お渡し出来るのはこれだけになります」

「現在? すると今後は増えるのか?」

「〆:はい、その予定です。ただ異世界での『古廻様の活躍』により、内容も変わってきますね」

「そういうものかい、まぁ分かった。それにしてもここは……」


 部屋は六畳ほどのスペースに数十程の品が個別に分けられていた。どれも名品ばかりで、陶器はマイセンを始め数種類のブランド。

 刃物の燕三条で名高い包丁のセットなど、多岐にわたりストックされていた。


「お~それなりにあるな。まずは皿とかカップがいいのか? 双眼鏡で見た町の規模からすると、結構人がいる感じだったし、経済規模もあの大きさだったら結構ありそうだったからな。まずは高級品として美琴の真珠と、クリアなガラス製品でも持って行くか」

「〆:それがよろしいかと。それとナイフ等の品も出来が良いので、お持ちになると良いでしょう」

「なるほど……」


 流は先の戦いで緑の小人が使用していた武器を思い出す。多分襲った相手から奪ったものだと仮定すると、やはりいい出来の刃物は少ないと思われた」


「よし、それで行こう。あまり持っても動けなくなるからな、まずは様子見だ」

「〆:ではリュックに詰めておきますので、古廻様は出立のご用意を」

「分かった、囲炉裏の間で待ってる」


 そう言うと〆は回廊を開き、店の中へと繋げた。ポカリと通路が開き、行灯が手前から点灯していく様子は見ていて飽きない。


「さて、因幡。異世界ニンジンを楽しみにしててくれよ」

「はいなのです! 楽しみだなぁ~♪」


 準備が整い、因幡と他愛のない会話をしていると、異超門たる玄関の方から荷物を置く軽い音が聞こえた。


「〆:古廻様、お待たせ致しました」

「おう、ありがとう〆。じゃあ行ってくるわ」

「お客人行ってらっしゃーい、気を付けてね~」


 因幡は短い手をフリフリしてる。


「〆:古廻様のご無事のご帰還をお祈りしております」


 〆はひな人形の折紙になって、薄っぺらな紙をペラペラしている。


「よし、行ってくる。開錠!」


 流は障子戸を潜るとそのまま消えていった。


「〆:どうかお怪我等をなさらず、流様・・……」


 そう言うと〆は、流が消えた空間をしばらくの間、じっと見つめるのであった。


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