第20話:異世界への扉
「火を灯れ――うぉ!? な、なんだ。皿の上に火が突然出てきたぞ!」
「〆:これは異世界特有の力で動くモノ。総称してこう呼ばれています……『魔具』と」
「魔具、だと? 確かに電力やガスなどが出るところは無い。何もない綺麗な皿だ……」
目の前の驚くべき光景に流は呆然と見つめる。皿の上五センチに突如としてオレンジ色の炎が灯り、現在も揺らめいている。
不思議と炎の下は熱を感じず、手を炎と皿の間に差し入れても問題ない。だが炎そのものは熱く、触れたらヤケドをするだろう。
それは紛れもない「科学では説明のできない」現象。つまりこのアイテムは――。
「異世界のアイテムと言うのか?」
「〆:ええそうです。古廻様が今お持ちの鉾鈴。それを使い異世界へと渡った者たちが持ち帰ったものです」
「そんな事があったのか……って、まさか俺に異世界へ行けって言うんじゃないだろうな?」
「〆:そのまさかです。貴方様は骨董品がお好き……しかも骨董屋を開くのが夢のこと。ならばいかがでしょうか、品は私がご用意いたします。古廻様は向こうの世界へ渡り、お好きに生活を楽しみ、『心底満足した』らお帰りなるという事では?」
「ちょっと待て。どうして俺が骨董屋をやりたいと知っている?」
「〆:それは先程ぶつぶつと、独り言でそうおっしゃっていましたし。なにより……」
(この異怪骨董やさんへ入店したさいに、全てわかるようになっていますからね)
〆はなにやら含むように黙ったあと、少しの間をおき話を続ける。
「〆:いえ、まぁそんなところです。いかがでしょう、悪くないお話だと思いますが?」
「悪いわ! 俺にも生活があるんだぞ? だいたいだな、俺には…………んんん……」
流は考える。よくよく考えてみれば、自分は古廻家の次男であり家は兄が継ぐ。しかも両親は事業家で海外へ出張中であり、姉は東京で就職していない。祖父も趣味の骨董集めに世界のどこかにいるはずだ。
学校はまぁ、休学すればいいだろう。少し向こうで楽しんで、帰ってくればいい。
なにせ元手が無しに異世界という、魅力ある場所で店が開けるなんて夢のような話だ。
――ただ一つ分からないことがある。
この〆という折り紙が、無償でなぜそこまでしてくれるのかが。
「その話を聞く前に一つ聞かせてくれ。どうしてそこまでしてくれるんだ? 品だってただじゃない。お前だってなにかメリットがなければ、そんな事はしないだろう?」
「〆:そうです、ね……。強いて言えば、あれから数百年たっていますので、無いとは思いますが……」
「なんだよ、はっきりと言ってくれ」
「〆:もし日本人形とであったら、それを破壊していただけたらと思います」
「日本人形? なんだそりゃ?」
「〆:昔その鉾鈴を持っていた方が敵対しておりまして、その時壊しそこねたモノです。まぁ今も言いましたが、それは数百年前の事。すでに壊れているかもしれず、出会うことも無いとは思います。しかし万が一出会う事があれば、それを破壊していただきたい。それが私の希望ですね」
流は右手に持つ鉾鈴をジっと見つめると、なぜか鉾鈴から「そうしろ」と強い思いが伝わってくる。
それに鉾鈴を持った瞬間から、「一つの強い思い」がながれてきた。
「……それは強制か?」
「〆:いえ、できればしていただきたい。その程度のお話です。それに古廻様はすでにこの店から出ることは多分……不可能」
「な、なんだと!? それはどういう意味だ!!」
「〆:先程外部の人間はここを認識することは、ほぼ不可能だと言うことがお分かりになったと思います。ですが貴方様は認識し、入店できたばかりか鉾鈴まで手に入れた」
「それがどうした? 確かにこの鉾鈴は手放したくはない。だから購入額は払うが、この店から出れないと言うのは意味がわからないぞ?」
「〆:お分かりになりませぬか? 貴方様は選ばれてしまったのです。そして我らの……いえ、それは今はいいでしょう。ですからその時点で帰還は、鉾鈴の力により不可能となったはずです」
〆が何を言っているのかが全く理解できない。入り口の方を見れば、木製の格子窓からは相変わらず外が見え、人や車が行き来している。
扉を開けばすぐに元の日常へと帰れる。そう、目の前にいつもの光景が、そこにあるのだから。
「〆:うふふ。そう難しく考えなくても大丈夫です。貴方様が向こうで『心底楽しむ事』が、帰還の条件となっただけですからね」
「どういう意味だ?」
「〆:はい、その鉾鈴の元の持ち主は一つの約束を、異世界へ向けてしたと聞いています。その内容は――」
「「素晴らしい人生と義務の遂行を」」
「〆:……なぜそれを?」
「なぜだろうな。この鉾鈴を持った時、それが頭にながれてきた。そしてそれを成さねばならないと言う、なんとも不思議な感覚だ」
「〆:そうでしたか……それでしたらその鉾鈴のお代は、向こうで古廻様がご商売なり、他の楽しみで満足なりと、ご自身で納得して『楽しんだ』と思えることとします」
「だから、俺はそうはいっても生活もあるし、いきなり消えたら兄貴も心配する。とにかく一度出直してくる。話はそれからだ!」
「〆:あ、お待ちを」
流は〆の言葉を聞かず、店の入口へ向けて歩き出す。〆はなにやら叫んで指示をだしているようだが、今の流の耳には届かない。
今は一度帰宅し、置き手紙なりなんなりを済ませてからまた来ようと思った。それにここまでの異常な状況が、流の心のなかでせめぎ合い、〆の声は遠くに聞こえる。
だが、流は気が付かなかった――置いてきたはずの鉾鈴が離れようとせず、流の背後について来たことを。さらには怪しげな緑色の光を放ち、入り口に近づくほど光は増す。
(
そう流が考えながら、入り口の引き戸を開けた時それはおこる。
木の格子から見える外は、京都の町並みだ。しかし開いたそこは――。
「なッ…………んだ、これは……」
流は口を開け固まってしまう。それもそのはず、その向こうは見たこともない光景が広がっていた。
一面のサルビアのような白い花が咲き誇り、空は真夏の雲を思わせるほど高く厚い。
入り口より吹き込む暖かな風は、甘い花の香と草原の柔かな草の香りを運んでくる。
現在の京都は冬も近い季節。それがこのような光景と香りに思わず手が震え、ゆっくりと店内へ体ごと振り向く。
『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオ』』』』』
その瞬間だった。店内の骨董品たちが一斉に歓声をあげた。よく見れば〆などは小刻みに折り紙の体を震わせ、短い手で両肩を抱くようにしている。
あまりの見えない力の塊といっていい、強烈な威圧感に流は後ずさる。そう「三歩後ずさって」しまう。
――そして、敷居を超えて『異世界』へと足を踏み入れてしまった。
「〆:古廻様……やはり貴方様は本当に行けるのですね……」
「し、〆。これは一体どういう事だ。ここは本当に異世界なのか!?」
「〆:はい、そこはま紛れもなく異世界。そこで人々と交流し、商いをし、異世界を目一杯楽しんじゃってください♪」
「ちょっと待て! 俺はまだ行くとは――ッ!? なんだッ?」
流は店内へと戻ろうとした時だった。入り口に二体の羅漢像がウチワと袋を開き、流へと向け立ち、その表情は優しげだ。
しかしその表情とは裏腹に、流へ向けて強烈な風の膜を作り出し、店内へと入れなくしている。
「〆:名残惜しいですがお達者で~。もしご入用の品があれば、いつでもお戻りくださいね~」
「オイ! 話を聞け! こんな何もないところへ放り出されても俺――」
そう流が〆へと抗議する。が、途中で話を重ねられ、その続きを〆が話し出す。
「〆:大丈夫ですよ~。はい、こちらをお持ち下さい。役立つものが入っていますから~」
「なにを言ってッ!? うおッ、危ねえええ!」
店の中より突如現れた、かなり大きい黒革製のリュックが流の顔めがけて襲う。
それをギリギリ躱し、思わず尻もちをついてしまったところへ追い打ちが迫る。
黒く細長い物体。そう、悲恋美琴である。妖刀・悲恋美琴は流の後を追うように飛んでくると、右手付近に静かに舞い降り立つ。
刺さっているわけでもないのに、直立している刀に一瞬見惚れるが、それより今は店内へ戻ることが優先だ。
立ち上がろうとした瞬間、さらなる追い打ちが迫る。それは緑色をしたカエルの人形で、両手を思いっきり振りながら流の顔へとダイブするのだった。
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