第19話:狂気の刀匠
「〆:とても明快で分かりやすい説明でしたね。ささ、どうぞこの『
「……その説明に物騒な名前の由来が無いのだが?」
「〆:チッ、そのまま納得して持っていけばいいものを」
「納得できるか!! って言うか舌打ちするな」
すると本当に面倒くさそうに、渋々続きを〆は話し始める。
「〆:はぁ~、我儘なお人ですね。乙女の秘密を探るとはゲスの極み、されど古廻様はその類の方とお見受けし、少々長くなるのでメモ形態でお話します」
「チョット待てい! さり気無く俺をディスるんじやあない」
そんな流の訴えを無かったかのように、〆は一枚の折り紙に戻り淡々と語り始める。
「〆:刀匠の娘は『美琴』と言いました。名は体を表すと言うように、美琴は象牙をふんだんに使用した美しい琴を思わせるような透き通る白い肌。聞けば荒ぶった心までが鎮まるような美声。そして最上質の絹のような手触りの黒髪だったと言います。そんな美琴は幼子なのに大層美しい少女でした」
「俺はことはスルーですか、そうですか……」
「〆:その美琴が不運と言うのも憚られる、地獄へ追い落とされたのは美琴が八歳の頃でした。美琴の父である刀匠は、これまでの弟子を全て破門にした後、美琴を鍛冶場へ監禁。さらに昼夜問わず、倒れるまで秘儀を叩き込んだのです」
現代では考えられない、虐待と言うのも
「そして時は流れ、美琴は十七歳になりました……。実に九年もの歳月を鍛冶場の中だけで生活をした美琴は、外部との接触を一切断たれました。美琴は薄暗い鍛冶場の格子窓から見える、外の景色に強く憧れたと言います。特に小雨の中、一つの傘を二人で仲睦まじく使い歩く若い男女を見て、その羨ましさに血涙を流しながら刀を打ち続けたといいます」
ここまで話すと悲しそうに、〆は眼を伏せるような雰囲気でいったん間を置く。
「そこまでして打つとは壮絶すぎるな……」
「〆:やがてその時は来ました。美琴は早くこの地獄から解放されたいがため、その命を削り刀を仕上げたのです。結果、その命の叫び『九年の怨念の結晶』とも言える、刀をついに完成させたのです。しかしその完成間際、刀身へ最後の一打ちをした刹那、美琴は盛大に吐血しました。さらにあれほど美しかった黒髪が白絹の如き色彩になったのを見て、自分のその命が残りわずかと悟ります。そして散り際に血文字で、刀自体に『悲恋』と銘をうちます。さらに刀身に傘を書き、傘下の片方に名として『美琴』と書いて散り果てたそうです……。その結果完成したのが、妖刀――悲恋美琴です」
そう悲しそうに話し終わると、〆は沈んだ雰囲気を払拭するかの如く話し始める。
「〆:恋に恋した少女の素敵なお話ですね。全女子が感動に魂をふるわせる、ハートフルな逸話でした」
「そこの何処にハートフルな要素があるんだ? 言ってみろ!」
「〆:因みに父である刀匠がその刀を持ち、試し切りをした直後に七日七晩大発狂し、最後は盛大に吐血して亡くなったと伝わっています」
「なんだそれ!? 怖すぎだろう!!」
「〆:さあ、お持ちください! 希代の女性刀匠による最後にして、日本の歴史上類を見ない希少性と、最
〆は実にいい笑顔のような声で、悲恋美琴へ向け矢印を描き流へとアピールする。高速点滅までさせる力のいれようだ。でも、お高いんでしょう? と、思う暇もなく。
「そんな物騒な刀! い! る! かああああああああああああああ!! アホカー!! そんなの持ったら呪い死ぬわ!! そりゃ、骨董のためなら死んでもいいとは思ったぞ? だが、七日七夜発狂したくはないッ!! 大体、名刀の後にさらっと妖刀って書き加えるな! それに強が『狂』になってるぞ!! 大体どこがハートフルなんだ!? ただの呪いの刀じゃねーかよ!! 大事な事だからもう一度言わせていただきます。アホカー!!」
それはもう全力で拒否をした、妖刀・ダメ・絶対! と言う勢いでこれでもかと、魂の叫びを吐きつくす。
「〆:ああぁぁ!! ダメですよ! その子に呪われると言っては!」
「な、なんでだよ?」
「〆:だって……ほら……」
流は刀を見ると、若い娘の聞くだけで呪われるような、不気味なすすり泣く声が聞こえて来た。
しかもなぜか鞘から液体がしたたり落ちている。
「ヒッィィ!?」
「〆:ほらぁ! どうするんですか、ああなったら百年泣き止みませんよ!?」
「ど、ど、ど、どうすればいいんだぁぁ?」
「〆:驚安の殿堂みたいな言い方はやめてください。早く悲恋美琴を手に取り、誠心誠意謝るのです!!」
「うぅ……よし、まずは触れないであやまろう。美琴様ごめんなさい! 迷わず成仏してね! アーメン! なんまいだぶ! 悪魔よ去れ!」
「〆:それ、謝ってませんよ!? ほら、ますます酷く泣き始めたじゃないですか!!」
「うぅぅ、俺ここで発狂しちゃう? え、ええいままよ!!!!!!」
流は覚悟を決めて妖刀・悲恋美琴を手にし、心の中で誠心誠意謝った。それはもう土下座すら生温い気持ちで謝った。
さらにはそれでも足りないと、実際に五体投地と言う「うつ伏せになったまま、床に体を投げ出す格好」で、魂の底から謝罪する。
すると今まで泣いていた刀は嘘のように静かになり、涙と思われる液体は固形物となっていた。
「こ……これで良いのか?」
「〆:ふぅ~。なんとかなりましたね。それよりも無事に妖刀・悲恋美琴の入手おめでとうございます♪」
「は? いや、〆が持てと言うから持っただけですが?」
「〆:過程はどうあれ、結果的に主と認められたようですね。もし美琴が拒否したら狂い死にしていたでしょうし」
「おまえはなんつー恐ろしい事をさらっと……って! またお前にハメめられたのか!?」
「〆:またとは失礼な。古廻様なら出来ると信じていたからの事ですよ、正に信頼の証ですね。それと、なんとか無事に生還出来たので、特別報酬が発生しました。報酬は『異世界言語理解』です。触れて了承すれば即、力が反映されます」
どうやら命の危機だったらしい流は、知らないうちに新たな報酬を手に入れていたようだ。流は白目で思う。今日はラッキーデー。
「お前はブラック企業の社長か? って言うか、お前『なんとか』ってやっぱり信じて無かったんだな! と言うか、いらんぞ、こんな呪――コホン。危険すぎる妖刀なんて! 返品を要求する!」
「〆:当社の規定により、クーリング・オフはお客様が手に取った瞬間から、返品不可となっておりますのでご了承ください☆」
「し、信じられねぇ。消費者庁へ訴えてやるッ! ぶっ倒れそうなほど疲れたよ……帰っていい?」
「〆:まぁまぁ。おかげで軍資金も出来、さらに異世界言語も得られましたよ、ほら? すーぱーらっきーって感じしません?」
「しませんね! と言うか、だ。その……異世界ってなに?」
流は聞き慣れない言葉に、今更ながら思い出すように聞いてみる。すると〆は、「あ~それはぁ~」とバツの悪そうな声で一言つぶやくと、流へと話し始める。
「〆:異世界というのはですね。異世界です!」
「お前が馬鹿なのは分かった。それで異世界というのは?」
「〆:む、失礼ですね。ホント。言葉通りの意味……そう、日本とは全く違う世界のことを言います。あちらをご覧ください」
〆はそう言うと雛人形の折り紙になり、その見せたいものの側へと飛んでいく。
そこにあったのは全体的に黒く、四角い皿のようなモノの下に丸い台座があった。
「それは?」
「〆:これは異世界から持ち帰った品です。古廻様、こちらへ来て台座を触りながらこう唱えてください。『火よ灯れ』と」
「……わかった」
流は訝しげな表情を浮かべながらも、〆が言うとおりに台座部分を右手で触る。そして一言ぽつりと唱えるのだった。
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