第16話:異怪骨董やさん
「こんにちは~、品を愛で……いや、見せてくださいな?」
流が店内へ入るとそこは夢の空間だった。入り口付近に無造作に陳列されている名品や珍品が並んでおり、国宝級のものまである。
流も骨董狂いゆえに、二十歳にしてその目は確かだった。だからこそ分かる、分かってしまう。これらが「本物」だと……。
「うそだろ……この茶釜は
どう見ても本物の数々。他にもありえない名品が店内の入り口に
その事に驚くひまもなく、流はさらに驚きの光景を目にする。それは店内の一等地に陳列されている、「ガラクタ」が異様な圧を放っていたからだ。
薄汚れたそれらは、流が見渡すと一斉に〝ざわり〟と空気が震えるように何かを放つ。
(一体なんだ……? 俺を威圧している? 骨董品が? まぁいっか。入り口の国宝モノの骨董品も気になる、が。今は)
流は内心少しだけ気圧されるが、今はそれより眼前に広がる「未知の骨董品」に触手を伸ばす。
「ふっ。お前達、俺に見つかったのが運の尽き! その「気持ち悪い」原因を、ネットリと……しゃぶり尽くしてやるッ!!」
瞬間、店内からますます流を拒否するように、謎の圧力が襲う。が、この漢はそんなものでは怯まない。
むしろ骨董愛が炸裂! 手に骨董品を取ると撫でまわし、香をかぎ、頬ずりをし、味覚をあじわ……うのは、流石に我慢をした。そう、今は我慢しただけだ。
そんな変態を、骨董品達は実に嫌そうな雰囲気を放ち威圧するが、まったく流には通じない。
流の友人が見ていたらきっとこう言うだろう「骨董さん、にげてえええええ!!」……と。 だが
ちなみに領域者とは、流の友人が彼の変態性を総評して付けた「変態を超えた変態」として、流へと贈られた称号でもあり、流は褒め言葉として勘違いしている。
だがヤバサMAX
流れが赤べこの
『ねぇ、いつまでも遊んでないで早く来てよ』
「ッ!? だ、誰だ!?」
舌足らずの幼い少年のような声が、耳打ちされるように響く。それに思わず反応した流れは、左足を一歩下げながらその方向へと向き直る……が。
「……いない……だ、と?」
『赤べこが嫌がっているから、早くこっちにおいで』
「どこだ!? 隠れていないで出てこい!」
『こっち、こっち、あははは』
「くっ、一体なんだってんだ」
流は声がする方へと歩く。外からは想像もできないほど店内は広く、まるで迷路のような骨董品の陳列棚の奥へといざなわれる。
途中、小声や
「まさか……妖怪屋敷なのか?」
『ちがうよ。あははは。こっちだよ、早く早く』
流石の骨董系鈍感王の流でも、やっとこの異常さに気がつく。そう、ここは普通の店では無いと。
背中に嫌な汗が吹き出る。だがこんな状況であっても、流は進むことを諦めようとはしない。なぜなら――。
「――妖怪でも何でもかかってきやがれ。俺はこの骨董たちが気に入った。だから、絶対に一つは手に入れる! なんとしてもなッ!!」
『やっぱりキミを待っていて正解だったよ。
「言ってろ。これでクソツマラン物だったら許さんからな」
流は声のする方へと足をすすめる。そして唐突に陳列棚の壁が開けたその先にあったもの……。
「
流のその問いに、囲炉裏を囲む焼き杉のテーブルの上にある骨董品が、薄く緑色に発光し応える。
その応えたものとは、
ただ通常の鉾鈴は中心部分が文字通り「鉾」なのだが、この鉾鈴は先端が「鍵」の形をしていた。
流はそれを見ている。いや、見ているだけでは収まらず、この怪しげな鉾鈴を手に取ってしまう。
「これは……鉾鈴だよな? だがなんだ……持った瞬間体に力がみなぎるようだ」
流は鉾鈴を高くかかげた。その瞬間、店内が大きくざわめく。それは小石を水面へと投げ込んだら、予想外の大波のような波紋が広がる。
そのあまりにも不気味な出来事に、流石の流も鉾鈴を握りしめながら恐怖心を抱く。
「な、なんだお前らは!! どこにいる? どこから俺を見ているんだ!!」
「〆:まぁまぁ! ついにこの時が来たのですね!!」
「ッ!? 頭の中に声が直接だと!? 今度はなんだ、なんなんだ!!」
「〆:うふふ。そう大声をお出しになりませぬように」
声が頭の中に響くと、頭上から一枚の折り紙が舞い降りてきた。見れば一枚の赤い折り紙であり、そこになにやら文字が書いてある。
見れば今「頭の中に響いてきた言葉」そのものが書いてあった。さらに謎の声はつづく。
「〆:はじめまして
「は……? え、言葉と同時に書いてある内容も変わる? どういう事だこれは……」
「〆:うふふ、その折り紙そのものが私だからですよ古廻様」
「って、どうして俺の名前が分かる!?」
「〆:さぁ、それは知っているからとしか言えません。それよりどうですか、その骨董品は?」
「お! これか? なんだか知らんが、持っただけで力と元気が沸いてくる! なんと言うか体の一部のようだな!? そしてこのデザインが気に入った、まず普通の鉾鈴と違い、先端が鍵というのがまた面白い。さらにこの鈴の配置が絶妙に美しく、鳴れば心が実に落ち着く。くれ……この鉾鈴を俺に売ってくれ!!」
こんな異常な状態でも、骨董品のことになると我を忘れる漢。それを嬉しそうに見ているような声で、
「〆:そう、そうですか……。本当にまたそれを手にする事のできる御方が……。ええいいでしょう。その鉾鈴――いえ、〝
「いいのか!! なんと言うか、もう手放したくないんだ。こう、例えば俺の体の中に入っても、違和感が無いというか、おかしくなあああああああああ!?」
その瞬間だった。流の右手が白く光ったと思えば、その中へと鉾鈴が吸い込まれてしまう。
痛みや衝撃もなにもなく、自然に体の中へと消えていく感覚。そのショックに流は大口を開け、叫び固まってしまう。
「〆:あらあら。本当に古廻様はあの子に好かれたのですね……」
〆はそう言うと、どこか淋しげな感じで静かにため息を漏らすのだった。
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