第15話:女子高生vs骨董狂い
「た、ただいま~帰った……ぞ……」
そう言うと流は床に前のめりに倒れる。瞬間ざわつく店内。そこには誰もいないが、たしかに複数の気配がする。しかも濃密にだ。
――そう、ここは〝異怪骨董やさん〟と呼ばれる場所。あのネットに出回っている怪情報の場所がここだ。店内は薄暗く、間接照明が骨董品たちを照らす。
店内は品よく骨董品がならび、よく見れば「本物」の名品の数々が無造作に陳列してある。
例えばこれ、千利休が愛した本物の「黒茶碗」。その隣には三大茶器の一つ「初花肩衝」の本物が無造作に置かれていた。
そんな国宝級のお宝は、当時
この骨董屋の真骨頂、それは――。
杉で出来た棚には、一見ガラクタばかりだ。鳩がいない鳩時計や、右腕が壊れたブリキのおもちゃ。
手垢で黒くなった赤べこが首をカクカクと高速で動かし、紫水晶で出来た手乗りモアイは、苦虫を噛み締めている表情がステキだ。
全長二メートルの豆柴のぬいぐるみと、なぜか憤怒の表情がこわい鳴子こけし。
ぶたの蚊取り線香からはピンクの煙が吹き出し、招き猫は小判を磨き、木彫り熊は包丁でシャケを解体している。
それを肴に七福神の銅像たちは酒盛りをし、西洋鎧は宴会芸を披露する。
そんな異常ともいえる光景がいたるところで見えていた。が、店内に宙を飛ぶ置物用の金属の牛が引く、牛車が現れたことで一気に静まる。
「
前すだれが開き、中から出てきたのはピンク色の狐の折り紙。それが流を見つけると、勢いよく飛んでくる。
「ぅぁ……〆か。俺は大満足した……から、家に帰る……」
「〆:古廻様! お気を確かに! ……気絶した。錯乱しているわけでもないかしら。それにひどい傷。一体何が……? それよりもまずは
〆がそう言った先。そこには一羽の白いウサギが、流をジッと見つめていた。
因幡と呼ばれた白兎がこくりと頷くと、右足を二度〝タタン〟と高速でスタンピング。
すると流の下から緑色のまるいモノが実体化し、そのまま流を背中に乗せる。それはとても大きい亀であった。
「〆:それでは頼みましたよ? まったく一体何があったのでしょうか」
そう言いながら〆は去っていく。それを静かに見送る因幡は、亀の頭を撫でると一緒に店の奥へと消えていくのだった。
◇◇◇
(――体が動かん……ここはどこだ? ……あぁそうか、貧血起こして倒れたのか。体が石のようだな……。しかしこれは一体何だろう……火照る額が気持ちいい……)
流が運ばれた場所。ここは〝異怪骨董やさん〟の中でも、最上級の
そこで気絶から一時回復した流は、熱で火照った額を冷やす存在に気がつく。
あまりにも気持ちの良いそれは、流をまた深い眠りへといざなうのだった。
そんな流を見ている、二人の姿が張り替えたばかりの畳の上にあった。
一人は黒を貴重とした、見事な織りの加賀友禅に身を包む人物。
もう一人はこの店の番頭、〆である。静かに見守っていた二人だが、〆が静かに口を開く。
「〆:もういいのですか?」
「…………」
「〆:そう……。あなたも久しぶりに来れたのです。このまま居てはどうかしら?」
「…………」
「〆:いつか。そう、いつか貴女が本心から笑顔で会える日がくると、私は祈っていますよ」
そう〆が言うと、その人物は静かに頭を下げ消えてしまう。まるで
〆はその様子をみて軽く一つ息を吐くと、部屋へと入ってきた別の存在へと話しかける。
「〆:では因幡、ここは任せます。古廻様が目覚めたら知らせてくださいね」
〆はそう言うと、頷く〝白いもふもふ〟である因幡を
残された因幡は流の額に恐る恐る触れると、そのまま〝ぽふぽふ〟と撫でるのだった。
◇◇◇
「うう~ん……ここは……」
外はすっかりと暗くなっており、開く障子戸の向こうから見える庭には、黄緑色の光が舞う。
苔むした和風庭園には、季節感の無い木々の花が咲き誇る。桜は舞い散り、
よく見れば怪しげな光でライトアップされ、紅葉している楓の目に染みる赤も美しい。その異常な光景に、目覚めたばかりの流は困惑しつつ天井を見る。
「知らない天井だ……は、ははは。やったぞ! 知らない天井を俺は体感しているッ!!」
古廻流という漢、気がついて開口一番コレである。そんな主の言動に困惑する悲恋美琴は、おののくように〝コロコロリ〟と二度転がる。
そんな気配を感じ、流は右手を伸ばし悲恋美琴につかもうと思ったが。
「痛っぅ! 忘れてた、そうだった。俺……死にそうになったんだな……」
そんな流を見て、転がった悲恋美琴は手元へと戻ってくる。どこか心配しているようだ。
「そんなに心配するなよ。俺もあれから修行の続きサボってたしな。自業自得だよ。それにしても凄い部屋だな。名品・珍品が惜しげもなく飾られている……外も異常だ。ってことは
部屋の内装をゆっくりと見回し、外をもう一度みて驚く。そして思い出すようにため息をはきながら、この店へ入店してしまったことを思い出す。
そして寝ボケた頭で、なぜこの店に来たのかを考え、その答えをつぶやく。
「あぁ、そうか。
流は苦々しくこの店、異怪骨董やさんへと足を踏み入れた事を後悔しながらあの時のことを思い出す。
そう、突如視界がぼやけたと思ったら、目の前に
◇◇◇
――流が骨董屋で目覚める一日前に時は戻る。
流はネットで話題になっていた、「とある噂」を探しに京都伏見へと来ていた。
場所は伏見稲荷に近い住宅街で、一方通行の狭い道。そこは伏見稲荷へと通いなれた道であり、見慣れた場所だった。だからこそ分かる、この異常な光景を。
「ここ……たしか閉店した小さな店だったよな」
小さな閉店した店の場所に、見慣れない建物があった。それは見るからに異質な木造建築。
その外見は大内宿や白川郷のような建物が、生きているようにひっそりと佇む。
流は一瞬勘違いかと思い、目の前の電柱をみる。そこには見慣れた金属製のプレートが付いており、「スジカイ19 S38」と記載されていた。
「間違いない……いつもの電柱だ。でも、なに、コレ?」
茅葺屋根の建物には、立派な木製の看板がかかげてあり、金色の文字で「異怪骨董やさん」と書いてある。しかも「やさん」はなぜかファンシーな書体だ。
骨董品を愛でるあまり、元々独り言の多い漢であったが、さすがにこの状況なら誰しも状況整理のために呟くだろう。
それほど異常なものが目の前にあった。しかも、店の中から〝ジットリ〟と見つめられている視線を感じる。
流は見るからに「ヤバイ」と直感で感じ、帰宅しようと思う。が、あの看板に「骨董や」と書いてあるからには、骨董マニアとして入店を決意するしかなかった。
「ふッ……ふふふ。なにこの程度、俺の骨董愛にかかれば造作もないことッ!!」
住宅街に響く不審者の笑い声。後ろを通る女子高生に白い目で見られ、通報されそうなことなど知らず、流は骨董屋に指差し宣言する。
「まっていろハニー! 俺が、今、
そう叫ぶ流は、両手を広げ異怪骨董やさんへと入店する。
流石に危なすぎると思った女子高生は、友人へと連絡した時だった。
「もしもしポリスメン? え!? ウソでしょ!! あの人消えちゃった……」
女子高生はスマホの向こうで何があったのかを聞く友人を無視し、目の前にある「閉店した食品店」を見つめる。
そう、女子高生には「異怪骨董やさん」は見えていなかったのだから。
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