第14話:最終回? 異怪骨董やさんへ帰ろう

「セリアはこれからどうするんだ? 俺はしばらく動けそうもないからここにいる」

「私は多分隣の小屋に武器もあるし、ここから少し離れた場所に馬もいるから町まで行って応援を呼んで来るわ。そう言えばゴブリンは全部で何匹倒したの?」

「えっと、初めに二匹とゴブドッグが一匹。それにここに来て、プを含めてだから……合計二十四匹かな」

「本当に凄いわね……あらためて聞いても冗談にしか思えないわ」


 流はそんなものかと首をひねる、確かに中ボスとプは別格だったが、ゴブリンは雑魚だったのだから。


「数を聞くだけだと私が見たのと同じね。これでここ一帯の安全性は保たれたわ。じゃあ早速行って来るね」

「ああ、行って来い。俺はちょっと休ませてもらうから、もしいなくなっても心配しないでくれ」

「? 分かったわ。もしはぐれたらこの先の街にある宿、『昼から享楽亭』で待ってるね。あ、そうだ。これを持っていて」


 セリアは大きな胸の谷間から黄金製で、ルビーのような宝石が付いているペンダントを出すと、それを首から外し流へと渡す。


「これは?」

「ふふ お守り。ふらふらの誰かさんが怪我しないようにね。それにナガレもどこかへ行くんでしょ? もし会えなったらお礼も出来ないし、ウチの家紋と私の印があるから、万一逸れてしまったら、クコローの領都まで来てね、絶対だよ?」


 セリアは懇願するように流の顔を上から覗き込む。流石の流もその仕草に、一瞬ドリキとした時だった。


 突如、冷気がどこからともなく現れる……。


「「寒っ!?」」

「え!? 何? 夏なのにこの寒さ」

「な、なんだろうなぁ~。か、怪奇現象かなぁ?」


 当たらずとも遠からずだった。


「おばけなの!?」

「その親戚みたいな感じかも? ほら、そこに……緑色の首が転がっているし?」


 と、適当な事を言ってみるが、ジっとこっちを見つめるプの首が、恨めしそうな視線を向ける。


「ひぅ」


 セリアは息を呑み込むと、地面に座り込んでいる流にしがみ付いて来た。

 当然ダイレクトに実り豊かで、柔らかな物が流の横顔に――突き刺さる! だってドレスアーマーだから。


「あ痛ぁ!! ちょ、マテ!」


 と、流は誰に言ったかは知らないが、冷気が更に激しさを増したのだった。



◇◇◇



 その後、セリアと娘たちが囚われている小屋へと向かい、その中より娘たちを救出する。

 小屋の中にいたのは、たまたまこの近くへ来ていたと言う商人の娘。

 この森の近くにあると言う、イロリー村の村長の娘と、友人達を皆殺しにされた旅人の女。

 

 助け出した娘達三人は馬に乗る事が出来たので、セリアの護衛が乗っていた馬に乗り、そのまま近くの街である「トエトリー」へと向かおうと決まる。


 全員の荷物はご丁寧にゴブリン達が隣の小屋に保管していたらしく、そこに商人の荷物もあった事から、去り際に何か欲しい物があるかと、流は自分の持ち物を皆に見せる。


 商人の女は流が持っていた絹糸と食料品、それと華の柄が艶やかなマイセンのカップ二つを売ってほしいと頼まれたので売ることにした。

 特にマイセンのカップを見た商人は大興奮していたが、確かに良い物なのでそれは分かる。

 が、あまりにも大げさすぎないか? と思う流だった。


 流の価値観と、こちらの相場が分からなかったので悩んでいると、セリアが通貨の価値を流に教えてくれるという。

 そこで、金貨二枚と銀貨五枚で、双方納得した形で取引は成立する。うん、実に良い商売ができたな、と流は思う。

 だが内心、流としては「ちょっと金額多すぎなんじゃ?」と思っていたが、商人の娘は逆に少なくて申し訳なさそうにしていた。


 通貨の種類と価値は大体こんな感じらしいが、日本円換算は商人へ売った品と、他に持っていた品の価値を聞いてみてから付けたので、かなりいい加減だがこんな感じだ。



 半銅:五十円

 銅貨:百円

 大銅:千円

 銀貨:1万円

 金貨:十万円

 白貨:百万円

 竜貨:一千万円

 王貸:一億円



 五十円の価値がある半銅より下は無いのかと思ったが、その下は無く、強いて言えば物々交換らしい。


 助けてくれたお礼として、商人から「アルマーク商会証」と言うプレートを貰う。

 因みにセリアは貴族の娘だが、美術品やその手の事に全く興味が無く、マイセンの価値が分かっていなく申し訳なさそうにしていた。


 村長の娘は森で薬草と、珍しい石を採取していた時に拉致されたようだ。

 だから何も持っていなくて申しわけなさそうにしていた。


「だから気にするなって、な?」

「ぐすっ、ありがとうございます」


 こんな感じで泣く娘に困る流は、ふとポケットのビーフジャーキーを渡す。

 よほど腹が減っていたのか、あっという間に食べてしまう。

 他の娘たちも道中腹が減っては可哀そうなので、全員にビーフジャーキーや食料全てを渡し別れる事とする。


 他の犠牲者の荷物もあったが、それは後の調査団が分かる範囲で遺族に返却すると言う。

 そしてクッコロさんは、流の姿が見えなくなるまで何度も何度も振り返り、大きく手を振って去って行ったのだった。



 ◇◇◇



 クッコロさん達と別れた後、流は鉾鈴ほこすずを出し異怪骨董やさんへの門を開く。が、なぜか開かなかった。


「あれ、なんで開かないんだ? もしかして元の場所まで戻らないとダメなのか? 美琴、〆のヤツ言っていたよな? これを持って念じれば開門するって」


 この鉾鈴と言う骨董品。これがこの世界へ放り込まれたいわくつきの元凶だ。

 先端が「鍵の形」をした巫女が神事に使う、鈴が沢山付いたような道具を苦々しく見つめ、ため息一つ。


 仕方がないが動かない体に鞭を打ち、来た道を体を引きずるようにして戻って行く。

 やっとの思いで坂を登り崖の上まで来る。振り返るとゴブリンの集落は木々で覆われ見えなかったが、それでもその方角をジッと見つめていた。


「ふぅ、まさかいきなり死闘をする羽目になるとはねぇ。行商したいだけだったのに」


 あまりの展開に苦笑いが出てしまうが、心は晴れ晴れとした気持だった。


「緑の小人を倒し、美しい姫君を助け、村娘を家に帰し、旅の商人に物を売れた……。これはあれなんじゃないか、俺、大満足では? うん、間違いない大満足だな! 何より『くっ! 殺せ!』を生で、しかも二回も聞けるとかこれ以上ないだろう! よし、帰ろう」


 流は鍵鈴を〝手の中から〟出現させ一言呟く。


「ありがとう異世界、とても貴重な体験が出来たよ。では……開錠!」


 突如陽炎かげろうのように空間がゆらめいた瞬間、豪華な装飾が施された障子戸が現れた。

 戸車も無いはずなのに、なぜかカラカラと音を立て開いていく。

 無事に障子戸が開いた安堵感から、一気に疲労が解放されたように体が重くなる。


「さて、帰るか。実に……そう、実にいい最終回だった! さよなら異世界、こんにちは元世界」


 そう言うと流は障子戸を後ろを振り返らずに潜ると、障子戸はまたカラカラと音を立てて閉まる。


 そして、そこには何も無くなっていた。

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