第10話:大人は理不尽と誰がいったか

「オイ!! オ前達! ドコニイル!! 今スグ、集マレ、俺ノ森ニ!!」

「嫌ナ〝アツ森〟ダナ」

「ン? 何カ言ッタカ?」

「気ノセイダ。ソレヨリ、仲間イナイノカ?」

「オカシイ……普段、コノ辺リ、少シハ居ル。ドコ行ッタ?」


 流は冷や汗が吹き出る。それはそうだろう。すでにプの仲間はこの世にいないのだから。

 ちょうどこの場所。焚き火の側からは障害物があり、双方の死体が見えない。いつ見つかるかと内心ヒヤヒヤしながら、流はプの動向を探る。

 どうやらここからは動く気はないらしく、大声で辺りに呼びかけるだけのようだ。


(どうする。適当に向こうにいるとでも言うか? いや、その時振り向かれたらばれる。だが……気になる。どうしてコイツの名前「プ」なんだ? プっておま、短すぎ)


 そう思うと流は思わずニヤけてしまう。その様子にプは訝しげに見つめ、それを問う。


「オイ、ナガレ。ドウシタンダ?」

「ン、アア。悪イ。気ニナッタ事、アル」

「ナンダ、言ッテミロ。オ前、兄弟。俺、オ前ノ言葉、尊重スル」

「アリガトウ、兄弟。トコロデ……何デ「プ」ッテ一文字ナンダ?」

「ナガレ……」


 そうプは流の名をポツリと呟く。そしてワナワナと震えだすと、両手で頭を抱えてしまう。


「……オ前・・……俺ハ偉大ナ戦士ダ」

「ウム。オ前ハ偉大ナ戦士『プ』ダ」

「ナノニッ、ダ! 俺ノ名ガ短イ。ソンナニ、オカシイカ!?」

「ソリャマァ~ッテ、違ウ! オ前、名前、立派!」

「俺、モット長イ名前、好キ! デモ、プ! オ前、戦士ノ名ヲ汚シタ!! コロス!!」

「ええええええ!? オマエどんだけ沸点低いんだよ!! 頭にジエチルエーテルでも詰まってるのか??」


 突如プが豹変し、腰に装備している手斧二丁を両手に持つ。

 そして目の前の木製の丸テーブルを、力を誇示するように叩き斬ると、流へ手斧を向け宣言する。


「オマエ、戦士ノ矜持。分カラナイ。殺シテヤル、アリガタク思エ」

「冗談は肌の色だけにしとけよ? お? ちょうど俺の色が戻るのか?」

「な!? オマエ、人間か!!」

「気がつけよ。誰がどう見ても人間様だバカヤロウ。おかげで体力も戻ってきたぜ」


 プは額に青筋を浮かべ、流を射殺すように睨む。流れもまた第六感がざわめくも、それに負けずに睨みつける。

 そのまま十数秒、時が止まったかのように二人は動きを止め――次の瞬間、双方の右手の人指し指が動いたと同時にそれは始まった。


 まずはプが流の首を刈るように、左から手斧で一閃! それを危なげもなく躱した後、流も美琴を抜刀すると、同じように首へと一閃する。

 が、プはそれを両手の手斧を交差するようにして受け止めると、バンザイするように美琴を弾き返す。


 だがそれをチャンスと見た流れは、プの鳩尾みぞおちへとケリを放つ。プはガードが間に合わず、それを思い切り受けてしまう、が。


「ソンナモノ、俺ノ筋肉、効カナイ」

「らしいねぇ~どうもッ!!」


 だが体勢を崩したようで、くの字に体が曲がっている。観察眼で見ると、弱点は一点。左肩の付け根が薄くぼんやりと光って見える。

 そこへ向けて流れは美琴で思い切り袈裟斬りにする、が。突如弱点の位置が変わり、さらに振り上げた両手の手斧が、予想より早く戻って来て流を襲う。

 突然の弱点の変更、さらに手斧の速さ。この二つだけでも普通の相手じゃないと言うのは、第六感の危機警報の信頼度が確定された瞬間。


 だが唯一の救いは足を使った攻撃や動きが、それほどでもないように見えた。そこをつきプの攻撃より早く、流の手数を増やし翻弄ほんろうする作戦にでる。


「これでどうだッ! ジジイ流・壱式! 三連斬!!」

「グゥ!? ガアアアアアア!!」


 流はプの右手の手斧を内側にかわし、プの右側面へと回り込んだと同時に三連斬を放つ。

 横からの攻撃。しかも連撃と言うプには初めての攻撃に、流石のプも傷を負う。だがそこは驚異認定された個体。連斬に合わせ器用に体をひねることで、最小限のダメージに留める。つまり――。


「チッ、かすり傷かよ」

「グゥ……ナガレ。オ前、トンデモナイ奴。俺、オ前ミタイナノ、初メテ」

「初めてはステキな相手がよろしいんですがね! これならどうだ!!」


 さらに流の攻撃は続く。そのままさらに回り込みながら、三連斬で斬り刻む。だがそれすら対処されてしまい、かすり傷をつけるのがせいぜいだ。

 このまま動き続けても流の体力が持たず、ここは一旦正面から戦うことにする。


(クソ、なんてガードの固さだ。こうなりゃ隙きを作るしかねぇ)


 流は一旦後方へと飛び退く。そのさい美琴より謎の力をもらったことで、一気に三メートルも飛び退くことが出来たのに驚く。

 だがプも驚いたようで、その事自体が隙きになったと思った刹那、流はもう一度飛ぶ。そう、前へ。

 さらに美琴から力をもらい、そのまま斜め上から攻撃をする。


「頼むぜ美琴! ジジイ流・参式! 三連斬!!」


 威力は通常の半分になる拡散型の参式を使い、流はプへと六連になった連撃を放つ。

 だがその連撃のほとんどを、両手の斧で弾き返されてしまう。

 

「驚イタ。ガ、弱イ攻撃! ソンナモノデ、俺。倒セナイ!」

「だろうさ、だからコイツだよッ!!」


 流はプが連斬を受けきったと同時に、鑑定眼で新たに見えた弱点、「右足の太もも」へと向けて真横に一閃!

 目くらましの連斬に惑わされたプは、本当の攻撃である右足の太ももへと一撃を受ける。


「ギャグウウウッ!? ヤッテクレタナ!!」

「これで動けないだろう、喰らえ! ジジイ流――なにッ!?」


 動けない。もしくは動きが鈍るだろうと予測していた流は、突如プが「普通に」動き始めた事に驚く。

 さらに両手の斧で、暴風のような連撃を流へと浴びせ始める。

 その連撃、一撃が重く。その連撃、速さが尋常じゃなく。その連撃、死を確実に運んでくる。


(クソッ! どうしたらいいんだこれ!? 地力が違いすぎるぞ。力・速度・防御力、どれを取っても勝てる要素が皆無じゃねーか! このままじゃジリ貧確定だ。習うより慣れろとはジジイの口癖だったが、チート級相手に実戦でっつーのはハードル高すぎだ!!)


 あまりの理不尽さに防戦一方の流だったが、そこに思わぬ角度から攻撃が迫る。


「ッ!? ヤバッ!!」


 第六感が発動したのか、下から掬い上げるように攻撃される事を予感した流は顎を思いっきり反らした直後、顎があった場所に手斧が容赦なく空を斬る――が、完全に躱せたワケじゃなく、顎の中央に薄っすらと亀裂が走り血がにじむ。


「痛ぅ、馬鹿野郎! アゴが割れてICPOにスカウトされちまったらどうするんだよ。もしそうなったら、どこぞの大怪盗や大脱走した楽器箱野郎より、真っ先にお前を逮捕してやるから覚悟しとけ! あと領収書くれ!」


 軽口を叩くも全く余裕が無い流は、顎を割られた事により冷静さを取り戻す。

 先程から観察眼の精度が悪い。どうやら観察眼の発動条件は「冷静さ」らしいと言うことが分かる。


(……見える。さっきまでおぼろげに光っていた弱点が、ハッキリと点として見え始めた)


 流がその事に気が付き「これはイケル!」と確信し、一旦距離をとった次の瞬間、プは突如手斧を投擲とうてきし、流の左脇腹を切り裂くのだった。


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