第9話:ビッグな大人
「くっそ、油断した。美琴すまない心配かけた」
それに震えて応える美琴。まるで「頑張って!」と言われているようだ。
すでに緑のボスは体制を整え、起き上がる寸前だった。が、この漢、流には容赦とか戦いを楽しむという、戦闘民族的な趣味はない。
だからこうなる――。
「そのまま寝とけ! セリャアアアアア!!」
緑のボスは上半身をおこし、流の上段からの一撃をロングソードで防ぐ。そして即座にそれを打ち上げるように払うと、起き上がり距離を取る。他の個体より大きいと言っても、流から見たら小型。
その小ささゆえか、動きが素早く、筋肉質だからか力も強い。
迫る人間の一撃。横に一閃されたものを同じく当てる事でそれを相殺した緑のボスは、人間へ向けてケリを放つ。
それを同じくケリを繰り出した人間に当てられ相殺され、奥歯を〝ギリッ〟と噛みしめるように睨みつけた。
だが悔しがる余裕もなく、人間は左右から斬り込んでくる。
緑のボスは思う。「これはまずい、このままなら斬られてしまう!?」と。
だがこの個体、ボスと言うだけあって知能も高いが、攻撃力が高い。
ニヤリと汚い口元を歪め、緑のボスはその時を待つ。それは人間が大ぶりで大上段からまっすぐ縦に打ち下ろす瞬間。
そこの勝機を見出した緑のボスは、防戦一方で耐えしのぐ。そしてついにその時がおとずれた!
人間は自分の硬い防御に苛立ちをつのらせ、ついに大上段より大ぶりに攻撃をして来る。
それを弾き返し、腕が上がったところを「素早い動きでノドを噛みちぎる」。そう、噛みちぎってやる。
見た目がゴツイから持っているだけの慣れない剣より、その方がよほど俊敏で早いのだから。
だからこそ、いつでもそう出来るように体重を、やや後方へと傾けながら戦ってきた。
その成果が今、確実に目の前に転がってきた! 今、すぐ、その肉をむしり取ってやる!!
「ギョルガッ!!」
「いい加減にくたばれッ!! っ――なにッ!?」
流は驚く。突如緑のボスが悲恋美琴を上部へと弾き上げ、そのまま突っ込んできた。
しかも剣を捨てて、そのまま両手で流の胴体へと掴みかかろうとしてた。――が、そうはならない。
「ばぁ~っか! お前が何かを狙っていたのは、その不自然な足さばきで丸わかりだっつーのッ!!」
「グボゴアアアアアッ!?」
掴みかかろうとタックルをするように、低姿勢で突っ込んでくる緑のボスを、流は最高のタイミングでアゴへと膝蹴りを喰らわすことで回避。
さらに思い切り膝を振り上げたことで、緑のボスは弧を描き後方へと飛んでいく。
それをチャンスと見た流は、美琴を斜め下に構える。そして緑のボスと同じように、上半身を低くして吹き飛んだ緑のボスへ突っ込む!
「これで終いだ! ジジイ流・
「ギョヘエエエエエ!?」
流は吹っ飛び、体制が立て直せない緑のボスへと三連斬を放つ。
観察眼で見えた、右足首・腰回り・そして左胸の順に斬りつけたと同時に、緑のボスの後ろまで進む。
互いに背中合わせとなり、数瞬……時がとまったかのように静まり返る。
次の瞬間、ボス小人は三箇所から赤き汚物を吹き出しながら正面へと倒れるのだった。
「つ、疲れた……もう限界だ……」
そう言うと流は地面へと腰を下ろす。が、近くに死体があるのは落ち着かない。
そこで誰もいなくなった集落へと行って、焚き火のそばにあった椅子のようなものに座ろうと向かう。
「美琴、俺頑張ったよな? これはもう日本へ帰れるかもしれないよな?」
美琴は優しくゆれる。そしてここに来る前に聞いた、流が帰れない理由を思い出す。
そう、あれは異怪骨董やさんで、〆と呼ばれる番頭との約束。
流がこの世界で「心底やりきった」と満足しなければ、帰ることができないと言うことを。
それが明確な基準はなく、流の気持ち次第だと言う。だからもしかしたら……と美琴も思うのだった。
疲れた体を労るように流は歩く。やがて集落中央にある焚き火の場所まで来ると、そこで嫌なものが散乱していた。それは……。
「これ……は……人の腕? こっちは耳、か」
今日散々グロイ現場を量産した流だが、人間と分かれば話しは別だ。こみ上げるモノを必死でこらえ、深呼吸をして体調と精神を落ち着かせた時だった。
突如大きな小屋の扉が開き、中から
身長は流より大きく、二メートルはあるだろう。皮の茶色の
緑の小人のようなグロテスクな顔ではなく、むしろ人間に近い顔だ。
その体は筋肉質というより、筋肉の塊のようなもので、それを見せつけるように上半身は裸体だ。裸族だ。だって素足だもの。
「なッ!? うそ……だろ……」
流は絶句する。その理由は四つ獲得したスキルの一つ。第六感がけたたましく警報を鳴らす。
今すぐここから逃げ出せ! さもないと確実に死ぬぞ! と、胸の中で早鐘をうつ。
その危険すぎる存在が流を見る。不思議そうに周囲を見る緑の大人は、流の存在に気がついたようだ。
ジット見つめ合う二人。今すぐ逃げ出したいが、足が震え力が入らない。やがてこちらへと近づいて来るのが見えたが、それでも体が動けない。
(どうする、ヤバイ。ヤバすぎる! さっきまではボスじゃないのか!? 第六感がこんな風に発動するとは想定外だ。ウルサイおとなしくしろ! 頼む! ……よし、少しはおさまったが、どうする!?)
今なお静かに近づく緑の大人。何とか第六感の爆音級の、心音のようなモノの制御には成功した。
だがその原因がなくなったわけじゃない。ゆっくりだが確実に近づく死……。その死が残り五メートルになった時にそれはおこる。
突然緑の大人は右手を上げ、その手のひらを流に向け――。
「オッス! オ前、ドコノ部族?」
「…………へ?」
流は思わず後ろを見る。すると緑の大人は大声で流へと話す。
「違ウ!! オ前、後ロ。誰モイナイ! オ前ノ事ダ、兄弟!!」
そっと自分の鼻の上を指差す。触るとジットリと嫌な汗の感覚があるが、今はそれどころではない。
「ソウダ。オ前ダ兄弟。オ前、ドコカラ来タ? 顔色、俺達ト同ジ。ダガ、モット色濃イ」
「緑色……あ゛!!」
その言葉で全て思い出す。ここに乗り込む前に、流は「ある注意書き」を見たことを。
そこにはこう記されていた。「ぴんぽんぱんぽ~ん♪ あたしの治療にお代はいらないわ。その代わりしばらく緑色になって、鏡を見て【ひっくりかえって】ネ? カエルだけに」と書いてあった事を。
(あんのカエルちゃんめえ!? だがこれは助かった……のか? つか、コイツ話せるのか? ならコミュニケーションもいけそうだ。このチャンスをモノにして、急いで逃げ出すっきゃねぇ!! いや、そうじゃない。さらわれた娘を取り返してからだ。ならばこの秘策を使うッ!!)
流はどこから取り出したのか、誇り高い先住民族のように、白い羽飾りをおもむろに頭の天辺に刺す。美琴は思う、痛くはないのだろうかと?
「……オレ、日本部族カラ来タ。ココ、イイ場所。オ前、ココノ族長カ?」
「ニホン部族? 知ラン。ダガ、ヨク来タ。歓迎スルゾ兄弟! 我ガ名ハ『プ』! 偉大ナル戦士ノ名ダ」
「オオ! 偉大ナ戦士ニ相応シイ。トテモ勇猛ナ名! オレ、ナガレ。ヨロシク頼ム。プ!!」
「ナガレカ! 弱ソウナ名ダ。ダガ俺、オ前、認メル。今宵ナガレト宴、開ク」
そう言うと緑の大人。もとい「プ」は楽しげに笑う。そして同時に宴の支度をするために、仲間を探すように辺りを見回すのだった。
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