第8話:冗談のような敵の存在~「らぶりー」

 どうやら木材置き場で作業をしていた連中も気が付き、こちらへと向かってくるようだ。

 流石に九匹も倒した事でかなり息があがっている流は、このまま戦闘するのもまずいと考える。


「ふぅ。美琴、またあの力をもらえるか? おぉ……これは凄いな……。これは俺のヘタな気力を使うより、よほど相性がいい力だ」


 流は美琴からもらったばかりの力が、全身に行き渡る感覚に震える。

 それは「力そのもの」であり、その応用は色々とできそうだ。

 だがまだ体がなれておらず、今は少しだけ時間がほしい。


「まずはそうだな。あそこへ行こうぜ美琴」


 そう言うと流は向かってくる、緑の小人が来た場所を指差す。それに応える美琴は優しくゆれる。

 

(だがこのまま向かってもアイツらとかち合う。ならば迂回して回り込むか……よし)


 流は小屋がある方向とは逆の森の中へと、「姿が見えるように」入る。それを追う緑の小人たち。

 自然とそのまま後を追う小人。やがてぐるりと森の中を走りぬけ、目的の場所「木材加工場」へと到着する。


 木材は丸太の状態で横に積まれており、それが崩れないように地面へと杭が打たれている。

 その杭は細く、それを支えるためにロープが杭を引っ張っており、その構造を流は利用することにした。

 即座に丸太の山へと登り、森からでてくる緑の小人を待つ。


「よし、だいぶ回復した。今ならいけるはず。後はお前の出番だぜ、兵隊さん」


 白と黒のぶち柄の、やる気のない顔をした犬の人形。当然これも異怪骨董やさんから持ってきたもので、付喪神つくもがみが人形に宿っている。

 それを足元へ置くと森を睨みつけた瞬間、ガサリと茂みが割れて十二匹・・・の緑の小人が現れる。

 しかもその中の一匹は、明らかに見た目が大きい。身長もほかより十センチは高く、体躯たいくも筋肉質だ。


「ちょ! 冗談だろう? 増えただと!?」

「グルルルギャッギャ!!」

「「「ギャギャギャ」」」


 焦る流。見れば体躯の大きい緑の小人が、手に持った剣を流へとむけ攻撃しろと命じている。

 一斉に襲いかかる緑の小人。その圧倒的な殺意と表情に、流石の流もドキリとする。


「バ、バカヤロウ! そんな顔しても怖くないんだからねッ! くそぅ……怖ええ」


 舌の根も乾かぬうちに、何かを呟く流に美琴は叱責するように震える。


「分かっているって、大丈夫。な、軍曹?」

『当たり前である! ワンコ海兵隊鬼の軍曹が、キッチリと……教育してやる!! 全員! 整列!! さっさとしろゴミ虫共が!! キサマまらには価値はない! そうだクソ肉の詰まったただのクソ袋だ! 俺はゴミ虫には容赦しない! なんだその反抗的な目ツキは? 修正してやるッ!!』


 瞬間、緑の小人の前に軍曹の右拳群が現れると、怒涛の如く殴りつける!!

 

『『『アギョヴァヴァヴァヴァ!?』』』

「あヴぁヴぁヴぁ!? だからなんで俺まで叩くんだよ!!」

「愛の……ムチ!」


 そう言うと軍曹はサムズアップをして消えていく。なんてヒドイやつだと涙目で緑の小人を見ると、全員フラフラと千鳥足になっている。

 どうやら向こうは本気で殴ったようで、流には愛のムチだったらしい。解せぬ。


「くっそぅ、頬が痛い。だが、ビックチャ~ンス! オイおまえら、人に酷いことをする時は、される覚悟も当然もっているんだろうな? 報いをくれてやるッ! セイッ!!」


 流は足場にしている丸太。それを拘束しているロープへ向けて、さっきの戦闘でえた戦利品であるナイフを投擲とうてきする。

 元々出来の悪いロープで結束していたそれは、軽くナイフが当たっただけで〝ブヂリッ〟と弾けるような音とともに勢いよく切れる。

 

 その瞬間、流は蹴るように丸太の上から脱出すると、直径五十センチほどの丸太群が崩壊する。

 事前に観察眼で見ていた、積み上がった丸太の構造上の弱点。そこを思い切りけとばすように飛び退く事で、丸太郡は勢いよく緑の小人たちへと殺到!

 千鳥足でいまだフラフラとしている緑の小人へと殺到する丸太群は、無慈悲に緑の小人を巻き込み潰す。


 その勢い、想像より遥かにすごい。質量の暴力、ここに完成。

 潰れかれる緑の小人たち。だが――。


「チッ、アイツらは無傷か」

「グゴオオオ!! ギャゴオアアアア!!」

「「ギャギャギャ!!」」

「お怒りだねぇ……だが、それがどうした!! かかってこい!!」


 ひときわ体躯のいい緑の小人を筆頭に、二匹の配下が声をあげ襲ってくる。その手には全員剣を持ち、体躯のいい個体だけがロングソードのようだ。

 流はそれを確認し、自分も悲恋美琴を抜刀。丸太を超えて来る小さな影二つに、流も合わせるように飛び上がると、まずは一匹真横に一閃し胴体を斬り裂く。

 断末魔をあげ倒れる向こうから、もう一匹が袈裟斬りに襲ってくる。

 が、流もそれに合わせるように、下からすくい上げるように美琴を質の悪い剣に当てて弾き飛ばす。

 さらに返す刀で逆に緑の小人を袈裟斬りにして両断してしまう。

 崩れ落ちる緑の小人。その向こうから突如斬撃が上段から縦に降ってくる。


「いやだねぇ、そう殺意をだだ漏れにするもんじゃない……そうかい。お前がやっぱりボスってわけかよ」

「グルギョアアアアアアアア!!」

「叫ぶな鬱陶うっとうしい。今地獄すみかへと送ってやる、セイッ! なにッ!?」


 流は緑のボスへ向けて、渾身の一撃を放つ。それをロングソードを横に向けて、ガードする緑のボスは嗤う。

 なぜなら流はロングソードを斬れると思っていたから、次の攻撃態勢は「前かがみ」になっていた。

 が、ロングソードは斬り飛ばすことは出来ず、そのまま弾き返されてしまう。


 その事と、丸太の上という足場の悪さ。その双方がかさなり、流はボスの攻撃を許してしまう。

 ボスは流を思い切り蹴り飛ばし、流は八メートルほど吹き飛んだ後に地面へと落下する。


「ぐはッ!! げほッ、痛てえ……」

「ギェッハアアアアアア!!」


 流は右膝を立てて片膝立ちになり、口元の血をぬぐう。どうやら内蔵が傷ついたのか、ジクジクと痛みがこみ上げる。

 足にはいまだ力が入らず、立つことが困難。それを見た緑のボスは、歓喜の声をあげ嗤う。

 そのまま流の方へと飛ぶように向かってくる。だが足は縫い付けられたように動かない。

 さらに迫ること残り六メートル。両手で悲恋美琴を持ち、ボスの一撃に備えようと懸命にあがく。


「そう嗤うな。俺はの命はそんなに安くはない」


 すでに目前、残り五メートル! その刹那、流の前に大山大山作のカエル人形が現れた!


「軍医~軍医~! ん? あたしだった! びっくりしたけど、本当の怪我みたいだから治してあげるね? でも、酷い怪我! やっぱり【ひっくりかえる】ほどびっくり。カエルだけに!!」


 残り二メートル前まで迫っていた緑のボスは、それで見事な姿勢でひっくり返る。当然流も空を仰ぎ背中をうつ。


「ギョバッ!?」

「グェハッ!? いてて……って、痛くない!! 治ったのかこれ!?」


 そう驚き大山大山作、の〝驚きと悲しみにコケろり〟を見る。すると彼女は両手を振りながら消えてしまった。去りぎわになぜか「らぶりー」と指でハートを作りつつ。

 とりあえず九死に一生を得た流は、美琴の柄を強く握ると、緑のボスを睨みつけるのだった。

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