第7話:濃密な戦闘~悲恋美琴の隠された力
「どう思う美琴? あれは確実にあの娘はヤラれちゃうだろ? いろいろな意味でな。で、ここは異世界だ。当然テンプレ通りなら……」
それに美琴は強く〝ブルリ〟と揺れることで応える。
「だよな。ならやる事は決まった。まずはあのクソ共を、どう排除するかだが……すこし数が多いな」
広場では焚き火をしており、そこで緑の小人は何かを焼いて食べているようだ。そこに四匹ほどたむろしており、大きな小屋に娘を押し込んでいるのが五匹。
さらに奥に資材なのか木材がならんでおり、崩れそうな粗末なロープで縛ってある。
その資材置き場で作業をしているのが、見えるだけで六匹。
合計十五匹が広場で確認ができた。流がいかに謎の流派をそれなりに使えるとは言え、流石にこの数は尻込みしてしまう。
だが逃げると言う選択肢は、あの成約ばかりではなく、流個人になかった。そこで「現在持っている物」で、なんとかならないかと思案する。
まずは一旦茂みの奥へと隠れ、大きな皮のリュックを地面へ下ろして中身を確認する。
「えっと、まず薬局のカエル。それと金太郎の人形。あと黒白犬の兵隊人形。それとこれ……なんだ? まぁいい、あとはっと」
一見やくにたたない物ばかり。実際古ぼけて手垢にまみれ黒くなったこれらの骨董品は、放り投げて敵の注意を引くくらいしか役に立たないように見える。
そんな骨董品を順番に並べながら、右の人差し指で弾く。
「よし、じゃあお前から行ってみよ~! 頼むぜカエルちゃん」
そう流に言われた薬局のカエル人形は、ただ笑っている表情のままだ。とても愛嬌があり、かわいらしい。
それを胸ポケットに入れると、流は広場へ向けて大声で叫ぶ。「キャー! タスケテー!!」と。
美琴はズルリとコケそうな感じで震えると、その後悪い顔をしている主を見て呆れる。
やがて広場や小屋にいた緑の小人、九匹が何事かと顔をこちらへと向け走ってくる。
「よ~しよし、もっと来~い。全力でな」
緑の小人たちが迫ること残り十一メートル。目の前に突如おかしな物が現れたのに気がつくが、小さいからか素通りした次の瞬間。
『メーデー! メーデー! 軍医ここにケガ人があああ!? え? 誰もいない。あたしびっくりして【ひっくりかえり】ました。カエルだけに』
そう薬局にあるカエル人形に似た何かが両手を顔にあて、腰をクネらせながら話したと同時にそれは起こる。
迫る緑の小人たちが残り五メートルになり、流の存在を確認した
『『『ぐぎゃあおう!?』』』
「うわああ俺もかよ!?」
なぜか流までズルリと滑るが、そこはどうなるか知っていたからか、なんとか踏みとどまる。
薬局にいるカエルの人形によく似たこの骨董品。名前は「驚きと悲しみにコケろり」と言う、
異常に愛着をもって作ったからか、その人形に
「クッ、予想外。だがしかし!」
流は悲恋美琴を鞘から抜刀し、まだコケたままの緑の小人へと斬りかかる。そのさいに観察眼を発動し、弱点を見つけ出す。
(狙うは人間と同じ急所、特にノド・眉間・左脇腹の三点! ならばッ)
流は悲恋美琴を抜刀すると、大きくジャンプする。その高さ〝二メートル〟ほど。
あまりのジャンプ力に本人も驚くが、今はそれよりもこのチャンスを最大に活かす業を放つ体制になる。
美琴を左斜め後ろへと引き絞るように構え、そのまま斜めしたに袈裟斬りに振り下ろす。
「そのまま寝てろおおお! ジジイ流・
――
三連斬には複数の型がある。その中でも参式は特殊と言っていい。なぜなら、この連斬は「分裂する斬撃」を放つ。
つまり、三連続の攻撃が六連になると言うこと。だが一つ問題があり、それは「威力が半分になってしまう」という事だ。
だからこそ、その威力不足をカバー出来るのが「観察眼」だ。連山を緑の小人の弱点へと狙いをさだめ放つ。
一つ、ノドへと吸い込まれ。二つ、眉間へと突き刺さり。三つ、脇腹をえぐり。四つ、勢い余って首をハネ飛ばし。五つ、狙いがハズレ右肩を斬り飛ばし。六つ、起き上がろうと踏ん張った右足を叩き折る。
『『『グギャウオゥアアア!!』』』
「チッ、狙いが逸れたか!?」
久々の連山。しかも転んでいるとは言え、動く対象を相手に狙いがハズレてしまう。
だが驚きの結果だった。威力の弱い参式にも関わらず、肩を斬り飛ばし、足は骨が太いせいか折った。
先程のジャンプ力もそうだが、これには流も眼を見開き驚く。
「……っれは? 美琴お前何かしたな!?」
その問に美琴は〝ぶるり〟と震え応える。その事で流は理解する。妖刀・悲恋美琴から「何か力を貰っている」と。
「は、ははは。これなら――」
流はまだ生きている五匹の緑の小人を見て口角をあげ、そして。
「いけるッ! セアアアアアアア!!」
まずは手負いの二匹を速攻で斬り伏せる。が、その隙きをつかれる形で、残りの無事な三匹が武器を持ち襲いかかって来た!
手には斧・剣・ナイフの三種類。どれも質の悪そうなもので、手入れすらしていないようだ。
まずはナイフで襲いかかって来た、緑の小人のナイフを美琴ではじき上げ、その汚い顔面をケリつける。
吹き飛ぶ緑の小人は、後方にいる斧の使い手に当たり、二匹で倒れる。
その隙きに剣を持つ緑の小人へ対処するため振り向く、が。
「っぅ、かすったか!?」
「ギャハー!」
左腕の薄皮一枚、血がにじむ程度に斬られてしまう。そのまま体を左後ろへ半身をずらすように躱し、美琴でカウンターぎみに横に一閃! だが……。
「なにっ!? 嘘だろ!!」
「グッ……ギャヴァッ」
緑の小人は予想以上の反応速度で、流の一閃を防いでしまう。が、そこには驚きの光景があった。
なんと緑の小人の剣で防がれた流の攻撃が、「剣を通過して」そのまま首をハネてしまった。
困惑する流。だがそのカラクリもすぐに分かる。それは簡単な答えだったから。
「け、剣を斬っただと!? 美琴お前一体……」
戦闘中に驚く流を叱るように、美琴は思い切り震える。それに驚きハッと意識が残りの敵へと向いた瞬間、ナイフが顔面へ飛んできた。
それを首を傾けることでギリギリ躱し、切れた黒髪が風に遊び舞い散る。
「あっぶねぇ、助かった美琴!」
しっかりしなさいよね! とばかりに震え応える。そこへナイフがまた飛んでくるのを、美琴で弾き返しながら右上部から斬りさげる。
だが――流は確信した。そう、これは「斬れる」と。
実に悪い顔で口角を上げ、流は質の悪い斧へと美琴をぶち当てる。
鈍い衝撃のあと一瞬火花がちり、悲恋美琴が折れると思えるような衝撃だった。が、次の瞬間。
「斬り飛ばっせええええええッ!!」
流は吠える。そのまま厚い金属を〝ずるり〟というような感覚で斬り飛ばし、驚く緑の小人の首をハネる。
「ブッ、ハァハァ! やった……。九匹倒したぞ!」
流は一瞬勝利に喜ぶが、向こうから走ってくる緑の小人たちにガッカリするのだった。
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