第5話:ステータスは開かれる?

 金色のノート。それを開いてみると、中にはたしかにステータスが記載されていた。

 しかもその内容が意味不明だ。むしろ異常と言ったほうがわかりやすい。だからその内容はこんな感じだ。


【現在見れる健康状態】


 生命力:平均的

 魔 力:未開放

 攻撃力:平均的+やばsぎ

 防御力:厚紙的

 魔法力:未開放

 速度力:平均に毛が生えた

 幸運値:あらすごい


【魔法】

 ーー未開放ーー


【特殊能力】

 観察眼(上級) 気配察知(上級) 第六感(上級) 一撃必殺(初級)



 流と壱は首を右斜めに傾けながら、この抽象的すぎる意味不明の内容に困惑する。


「壱:な、なんやこれ……本来なら数字が記載されるはずやのに……」

「オイ、なぜ壱が知らない。これを持ってきたのはおまえだろう?」

「壱:そうなんでっけど、こんなのは想定外ですがな。いったい何がなんだか」

「兄妹そろってダメな奴らだなぁ。大体なんだよ、防御力が『厚紙的』って。俺の装甲はダンボールで出来てんのか?」

「壱:それに毛が生えたって……おとーちゃんのズラじゃあるまいし」

「オイコラ、誰がズラだって? ったく。健康状態? は意味不明だが、魔法……あるのか、魔法!!」

「壱:そらありますがな。奇跡も魔法もあるんだよ?」

「俺は魔法少女にジョブチェンジした覚えはないんだが? まぁいい。それより魔法かぁ……」


 流は青い空と花が咲き乱れる高原を見回し、のけ反るように深呼吸をする。

 雲は積乱雲のように積もった雲が見たこともない薄紫色で点在し、高原はかいだ事のない、白い花のとてもいい香りで満たされている。

 日本は冬だったが、ここは温かい風が優しく頬をなで、木々のざわめきすら耳に新しく感じた。

 だからこそ思う。あぁ……ここは異世界なのだと。


 魔法という存在。そして見たこともない風景と香りに、気分が晴れやかになった流は深呼吸をし終わり、のけ反っていたその反動で地面に顔を向けた・・・・・・・・

 

 そこには緑の小人の元・片割れが、恨みがましそうにしている視線とこんにちわ。

 だからこそ思う。あ゛ぁ゛……ここは異世界なのだとッ!!


「……ここは異世界なのですね。ええ、理解シマシタ」

「壱:なんで最後は片言なんですの? それよりスキルが結構いいですわ」

「スキル? 特殊能力ってやつか?」

「壱:へぇそうです。本来はスキルと表記されるはずなんでっけど、まぁこの際それは置いといて、まず観察眼。これは観察する眼ですがな」

「それ、説明になってないんですがね?」

「壱:そ、それはこれから言いますよって。コホン、ええでっか。これは物の構造を見たり、敵の弱点をみやぶったり出来まっせ」

「そうなんでっか?」

「壱:真似せえへんでおくれやすぅ。まぁそんな感じですがな。で、次が――」


 その後、壱の説明は続く。どうやら鑑定眼とは物の脆いところが分かったり、慣れると状態やその他の事も分かるそうだ。

 気配察知はレーダーみたいなもので、これも生命体の探知が今はやっとだが、これも慣れると応用が効くらしい。

 次に第六感。コイツはちょっと特殊だ。気配察知とは違う「命の危機」を感知したり、異常に感がはたらき閃きにも似た現象を体現するそうだ。

 そして最後の一撃必殺。これは――。


「――という事は、緑の小人の首が吹っ飛んだのは、その一撃必殺のおかげだと?」

「壱:そうなりますぅ。古廻はんが無意識に使っていたであろう、観察眼と一撃必殺のコラボのおかげですねん。その生ゴミの弱点に美こっちゃんが当たった事で、うまく一撃必殺が発動。そして見事に、クビ・チョン・パ☆ですがな」

「おまえねぇ……そう簡単に言うけど、俺は結構精神的ダメージでかいのよ? 例えるなら、コ○コーラを飲んだと思ったら、ペ○シコーラだった時のような感じで」

「壱:どっちでも同じやないですか」

「あ、おまえ! 世界中のコカ派とペプ派を敵に回したな? 月のない夜は気をつけるんだな」

「壱:なッ!? 世界のみんな。僕を許したってやあああ!!」

「まぁ大体分かった。で、結局ステータスは見れないのか?」

「壱:それは……ホンマにすんまへん……」

「まったく、壱はこのノートの管理者なんだろう? 〆もおまえもしっかりしてくれよな」

「壱:ま、まぁ。慣れれば色々と分かってくるでっしゃろ! それじゃ僕はこれで失礼しまっせ! ほなさいなら~」

「あ、ちょっと待て! おいいいいい!? 消えた……」


 逃げるように去っていった壱を、ブツブツと文句を言いながら見送る流。

 どうやらこのノートは想定外だったらしく、もしかしたら某魔王の波動スタイルで呼び出したのが原因かと心配になる。


「考えても仕方ないしな。じゃあ行こうか美琴。あの蜃気楼のような霞む街へと!」


 妖刀・悲恋美琴を掲げ持つ。燦々さんさんとふる太陽の日差しが、刃にあたり銀色の輝きを草原に反射する。

 さらに刀身から陽炎のように冷気が立ち昇り、刀身に反射した太陽光と、冷気の霧が男の子の部分を刺激する。

 そう。気分はジェ○イのように、今ならフォースも操れるのでは? と、重度の厨二病が顔をだす。


「おまえ、凄い……な、美琴。刀身の先端である切っ先の鋭利さはどうだ? しかも波文が俺が見たどの日本刀よりも美しい。まるで波? いや、炎? と、言うか……天女?」


 刀の斬る部分である、「刃先」と呼ばれる部分から、刀身に浮き出ている波紋。

 それは火や水のように常に動いており、本当にこの刀は生きているんだと実感する。

 さらに持ちて部分に近い部位。丸い「つば」と呼ばれる手前の波文は、天女が顔を袖で隠している作りだ。

 その異常なまでに繊細かつ、刃文としてありない芸術性に流は魅了され動けない。


「なぁ美琴……どうやったらこんな、芸術的な日本刀を作れるんだ? お前の作品・・・・・なんだろうこれ? と、言うか、だ――」


 流は刀身の地鋼じはだを確かめるように、枯れに人差し指を這わせる。そして緑の小人を斬ったのに、血糊の痕すらない白絹のような美しさに、目を見開き胸を震わす。


「――この先端付近ものうちから、まち! そう、この付け根までの曲線美はどうだ! 素晴らしい!! 大体刃そのものが、まるで娘のようにしっとりと艷やかな質感……いやいや、そんなもんじゃああないッ!! コイツははまるで生娘の肌のようじゃあないかッ!! さらにこの先端ふくらなど、まるでカミソリのような鋭利さ。フッ……おこがましい。カミソリだと? なんたる俺の目は節穴かッ馬鹿なッ!! そんな生易しいものじゃあない! 触れたら最後全てを切断してしまえると思うほどのヤバサに震えるこれはたまらんたまらんぞおおぉッぉ!!」


 美琴は思う。こんな危ない人が主になちゃって、私大丈夫なのかな? と。

 そんなヤバイ骨董狂いな漢の悲恋美琴鑑賞会は、じつに一時間にもおよぶ。

 気がつけば太陽は中天にかかり、どうやら昼ごろのようだ。ふと空腹で我にかえった流は、腕時計を見て時間経過に気がつく。


「なんと言うことだ……ほんのちょっぴり・・・・・、刀身を愛でていただけだと言うのに、一時間も過ぎていたとは。ハッ! これが妖刀たる魔性の力か!? 流石は日本最強の妖刀と言われるだけはある。なんと危険な……」


 流は生つばをゴクリと飲みこむと、額の冷や汗を左手で拭う。

 もし美琴が話せたらきっとこう言うだろう。「絶対違いますぅ!!」と……。

 一仕事終えた流は、ポケットに入っていた少し厚めなビーフジャーキーをかじる。


 そのまま持ってきた大きめのリュックを背負い、高原から降りる道を探すと、一箇所だけ下に続く道を発見。

 辺りは背の高い広葉樹のような木々が立ち並び、視界はそれほどよくはない。

 今歩いている道を見れば、先程の緑の小人か獣しか使わないらしく、腰ほどの雑草が生い茂っていた。


「あのさ美琴。草がじゃまだから、お前で払っても良い? うぉッ!! そんなに強烈に震えるなよ。分かったよ、しませんよ。歩きにくいなぁもぅ」


 そんな事を言いながら、獣道を進む。すると気配察知に複数の反応を感じたことで、近くの大木の影へと身を隠すのだった。

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