第33話 勇者いつきの館

俺達は安息の間の扉を開けた。


だがそこにあった物は想像していなかった場所だった。


そこにあったのは青い空と森、そして広い草原だ。


「……た、太陽がある」


「本当だね。私久しぶりに見るな」


いつのダンジョンと同じように太陽があり、広い空間がある。


安息の間の筈なのに新たなダンジョンに入ってしまったのか?


そう思っていたが、どうも違うようだ。


動物はいるが魔物はいない。


動物も小動物や草食動物ばかりで危険な生き物はいなかった。


そして、俺達は人が住んでいるとしか思えない屋敷にたどり着いた。


「これは?」


「多分、勇者いつきの館だよ。最後のダンジョンを攻略したら自分の館に辿りつくと言ってたよ」


そうか。ここは勇者いつきの館か。


しかし、まるで今も誰かが住んでいるかのように綺麗に整備されている。


いつきという勇者はかなり前の人間の筈だ。


勇者伝説は1000年近く前のもので、それが正しければ彼は1000年を超える時を生きていることになる。


「行こ、ノア君」


「あ、ああ」


アリスに促されて館に入る。


すると。


「わぁ〜!! 食材がこんなにいっぱい!」


「アリス! お風呂もあるぞ! それに服もたくさん!」


俺達は興奮していた。


何故なら屋敷には誰もいなかったが、何故か貯蔵庫には新鮮な野菜や肉、香辛料、水、酒、それにクローゼットには様々な洋服が入っていた。


何より俺を歓喜させたのが風呂だ。


もう1ヶ月は風呂に入ってないんじゃないか?


俺はまず風呂に入りたいという欲求に駆られた。


「ねえ、アリス、お風呂入らない?」


「いいよ」


何故かアリスが頬を赤らめる。


「ノア君から誘ってくれるなんて……ノア君って意外と大胆」


「いや、1人で入るから!」


誰が一緒に入ろと言った。


そんなことしたら流石に我慢できんだろう。


どうせアリスはエロいことして来るに決まってるし。


「ぷぅぅーーー。ケチ。一緒に身体を洗いっこして……それから……」


「アリス、それ以上は言っちゃだめ!」


俺はアリスに釘を刺すと、久しぶりの風呂に入った。


1ヶ月ぶりの風呂は心地良くて気分もリフレッシュできた。


途中でアリスが風呂に裸で侵入しようとしたが、鍵をかけて置いた。


魔法がかかっているみたいでアリスが破壊を試みたが、びくともしなかった。


そして風呂に上がると俺と入れ違いにアリスがお風呂入った。


「ノア君、覗いても私怒らないからね、えへ」


「覗かないから!」


いや、覗いたりしたら、むしろこっちが襲われそうだ。


そして、アリスが風呂からあがってくると服が変わっていた。


アリスのドレスは魔法が施してあるらしく、破れても自動修復ができる物だ。


だが、アリスはどうもクローゼットの中の気に入った洋服に着替えたようだ。


なんか魔法学園の制服みたいで……エロい。


いや、制服ってなんかエロいよな?


俺だけおかしくないよな?


「ノア君も着替えたら? いつまでもそんな服着てなくてもいいと思うよ」


「そうだね。俺も忘れてたよ。せっかく風呂に入ったのに囚人服なんてね」


俺はクローゼットのある部屋に行ってこ綺麗な服に着替えた。


そしてアリスと楽しく喋りながら食事をした。


きちんとした食事、人との落ち着いた会話。


当たり前の日常を俺は久しぶりに堪能した。


だが、俺はとんでない失態をしてしまった。


良くわからない飲み物を口にしてしまった。


とても美味しいし、アリスの鑑定済みなので毒はあり得ない。


しかし、それはどうもお酒だったらしい。


「ノア君、今日はたくさん喋ったね。でもそろそろ寝ようよ」


「そうだね。外も暗くなってるし、夜なんだよな、もう寝よう」


そして俺とアリスは寝室に向かった。


一つしかないキングサイズのベッドの同じ部屋に。

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