第5話 ノア、スキルチケットを手に入れる

俺はゆっくり階層主の部屋の扉を開けた。


俺の前に現れたのは、白銀に輝くホワイトウルフの主だった。


魔物は長く生きたり強い瘴気を体に取り込むと通常より強い個体となる。


それがこの階層主のホワイトウルフの主だ。


普通のホワイトウルフの優に2倍はある体躯。


そして、やはり俺を見ると涎を流してじゅるりと口元を舌で舐める。今から食事にありつく喜びに満ちたような顔に見えた。


『俺を食べるつもりなんだ』


改めて恐怖に震える。


通常のホワイトウルフは2匹同時でも倒すことが出来た。


だが、このサイズの魔物なんて……


だがやるしかない。


永遠にこのダンジョンを彷徨うことは死を意味する。


既に5時間は戦い続けている。


多分、この1戦で勝って休息を取らなければ疲労で戦えない。


最後の力を振り絞って戦いに臨む。


ザザザザッ


ダンジョンの床を全力で移動し、剣戟を放つ、しかし。


は、早い!


俺の剣戟が中々命中しない。


だけど俺も戦いには慣れてきた


この魔物は右から袈裟がけに切り込むと必ず左へと逃げる。


当たり前のことだが、それは相手の動きを予想できることになる。


俺は再び魔物に右から袈裟がけに切り込んだ。


案の定、左にステップして逃げる魔物。


だが、それが狙い。


返す刀で左へと剣を下から上へと切り込む。


俺の剣戟はホワイトウルフに一撃入れることが出来た。


しかし、傷は直ぐに塞がっていった。


『再生能力!』


この個体は通常のホワイトウルフにないスキルを有していた。


この程度の威力では足らない、もっと致命的な何かを与えないと!


そう考えて、魔物に肉薄した。


対処方法は一つしか無い。


肉を切らせて骨を断つ、それしかない。


傷を負うが、今はそれしか方法がない。


頭にリリーの笑顔が浮かぶ。そしてあの時のことが。


憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。


こんなところで死にたくない。


せめて一死報いたい。


『男なら、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時がある。負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある』


辺境で俺に優しくしてくれていた老人がこんなことをよく言っていた。


昔は武人だったそうだ。


俺は初めてその言葉に共感した。


『何がなんでも勝つ!』


腕の一本位くれてやろう。


今は勝つことだけを考えよう。


「人間を舐めるんじゃねぇぞ! 俺の思い、お前に全て叩き込んでやる!」


俺はさっきと同じように右から袈裟がけで斬りかかる。


魔物は左へとステップして、そこにさらに返し刀で斬りかかる。


そして、魔物はそれを更に右に避ける。


目の前に魔物が迫る。


さっきは思わずバックステップで逃げた。


だが、今回あえて逃げない。


構わず前進する。守るべき誓いがあるから、進む。


魔物の顎が迫る、俺はそこに左手を差し出した。


左腕に激痛が走る。


魔物に咥えられた。  


「何がどうなろうが、構うものか!」


俺は恐怖に打ち勝ち、目の前にある魔物の頭に剣で突きを放った。


そして。


魔物は動かなくなった。


激しい痛みを俺の左腕を襲う。


勝つためにとはいえ、犠牲が大きすぎたと痛感する。


だが、こうしなければ負けていた。


だが、安らぎの間に入れる。


もっとも、左腕が原因で死ぬかもしれんけど。


その時、魔物が消えて行き、魔石と一つのアイテムがドロップした。


「ポーションだ!」


俺は歓喜した。


製薬の魔法使いが作るポーション、治療薬。


だが、これは稀に魔物を倒すことでも手に入れることができる。


弱い魔物では期待できないが、強い魔物だと、色々なアイテムがドロップする。


俺は慌ててポーションを飲んだ。


幸い上級ポーションだった。


たちまち左腕の傷が癒える。


少し違和感があるが、戦いに支障はないだろう。


こうして俺は階層主の部屋の奥の安らぎの間に入ることが出来た。


しかし、俺は意外な物を目にすることになった。


「なんだ、これ?」


安らぎの間は他のダンジョン内と違って優しい緑の光に包まれている。


ここにいれば魔物に襲われることはない。


ここで休息と睡眠をとって明日からの戦いに備えなければならない。


だが、その前に部屋の真ん中に奇妙な宝箱が鎮座していた。


俺の知識では安らぎの間に宝箱なんて聞いたことがない。


宝箱にはトラップが仕掛けられていることがある。


だから盗賊やレンジャーなどの能力を持っている鑑定のスキル持ちがいないと危険だ。


『宝箱を開けて!』


しかし、俺は疲労と焦りから、つい宝箱を開けてしまった。


誰かが宝箱を開けるように言ったような気がする。


安らぎの間で危険がある筈がないという常識もあったが、宝箱があることがイレギュラーだから軽率な行動だった。


宝箱の中にはキラキラと輝く光に包まれた宝石があった。


その時、突然天の声が聞こえた。


『スキルチケットを入手しました。以下のスキル一覧から好きなスキルを一つ選んでください。


Sランクスキル


神級風魔法、神級火魔法、神級土魔法、神級水魔法、神級氷魔法、神級雷魔法、神級治癒魔法、神級錬金魔法、神級製薬魔法。神級召喚魔法。


Aランクスキル


詠唱破棄、無詠唱、収納魔法、隠蔽、鑑定、探知、探査。


Bランクスキル


風火魔法耐性、火魔法耐性、土魔法耐性、水魔法耐性、氷魔法耐性、雷魔法耐性、毒耐性、麻痺耐性、魅了耐性。


Cランクスキル


加速、並列詠唱、視力強化、聴力強化、身体強化。


Dランクスキル


剣術、槍術、斧術、弓術、格闘術、体力強化、筋力強化、敏捷強化』


俺は呆然とした。

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