第4話 我が剣は無限なり

何もない空間にぽうっと突然文字が浮かび上がった。


『力が欲しいか?』


欲しい。


蹂躙されるのはもう嫌だ。


強い力が欲しい。


「……欲しい」


俺の口から心の声が出る。


文字はコンマ数秒で消えた。


だが。


『力が欲しければ空気を読め』


新しい言葉が出てくる。


幸い魔物は遠巻きにこちらの出方を慎重に伺って、少しづつ距離を詰めている。


時間がない。早く力が欲しい。


再び文字が消えて新しい文字が浮かぶ。


『自身の名において問え、彼はなんぞ?』


俺は混乱したが、文字を読めばいいと理解する。


「ノア・ユングリングの名において問う、彼はなんぞ?」


『我は聖なる剣、全ての敵を滅する人を守護せしモノ』


今度は空間に文字が浮かんだだけでなく、俺の耳にも聞こえた。


そして。


目の前に一本の棒状の物が現れた。


俺はそれを手に取る。


「これは剣?」


剣、大昔使われた武器。


魔法が盛んになった今は誰も使わない。


こんな物で一体?


遠距離から攻撃できる魔法、近くで肉弾戦をしなければならない剣。


どちらが優れているのか明らかだ。


魔法の威力は剣戟などより遥かに強いのも当たり前の常識だ。


『力を欲するなら、目の前の空気を読むがいい。【我が剣は無限なり】と』


もう俺はやぶれかぶれだった。


疑わしいが、俺には選択の余地がない。


だから目の前に浮かんだ文字を読み、叫んだ。


「我が剣は無限なり!」


叫ぶと俺の体に何かが満ちた。


力が溢れる。


今なら多少強い敵でも戦えるじゃないか?


そう思えた。


そう思った瞬間、距離を詰めていたホワイトウルフが俺に襲いかかって来た。


「ガウッ!」


魔物の口から涎がダラダラと出ている。


空腹で俺が喰えると思い流している涎だと思うと恐怖が倍増する。


だが、俺の剣がホワイトウルフに吸い込まれる。


信じられないスピードで俺に襲いかかった魔物。


だが、俺もそれ以上のスピードで剣を振るう。


剣は魔物の大きく開いた顎を真っ二つにした。


大きくのけ反って痛みに咆哮を上げる魔物の頭に俺は一気に剣を振り下ろす。


グシャ


と音が聞こえ、ホワイトウルフは動かなくなった。


『魔物を討伐しました。経験値100を入手しました能力【空気が読める】のレベルが3になりました。スキルポイントを200入手しました』


「ヤ、ヤッター!」


俺は思わずガッツポーズを決めた。


聞いたことがある。希少度が高い強力な能力に恵まれた魔法使いは自分のステータスや入力情報を天の声やステータスボードで確認や編集が出来ると言うことを。


俺は自分のステータスボードを開いた。


ただ、頭にそう念じただけだ。


するとあっさりと俺の脳裏にステータスボードが現れた。


【名前】ノア・ユングリング


【能力】空気を読む


【レベル】3


【HP】42


【MP】0


【腕力】29


【防御】29


【敏捷】6


【器用】8


【スキル】


武術言語Lv1


【所持スキルポイント】200


☆☆☆


俺はあれから魔物。ホワイトウルフを倒しながらダンジョンを彷徨った。


目指しているのは安らぎの間と呼ばれる場所だ。


ダンジョンには各層にそうした場所がある。


何故あるのか誰にもわからないが、魔物が決して現れず、侵入も出来ない場所。


街の冒険者や騎士達は安らぎの間を拠点としてダンジョンを攻略する。


時には1ヶ月もかかるダンジョン攻略はこの安らぎの間があるから可能なことだった。


そして俺はとうとう階層主に出会った。


一際大きな赤い扉。


間違いなく階層主の部屋だろう。


安らぎの間は階層主の部屋の真後ろにある。


だから何が何でも階層主を倒さなければならない。


今の俺のレベルは7だ。


だいぶステータスは上昇した。


それに謎の宙に浮かぶ文字、『我が剣は無限なり』を読み、叫ぶとステータスが急上昇するらしい。


そうで無ければレベルが一桁台の俺がB級の魔物のホワイトウルフを倒せる筈がない。


俺はゆっくりと階層主の部屋のドアを開けた。

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