第25話 デート?
その後も彼女は案内したいという、ダイラがナリアで一番おいしいと語る料理屋の前まで来て
「ここは海鮮料理が有名なの」
あれよあれよと昼食を一緒に食べる事になった。
「......観光案内でもしてるのかよ」
「え、そうよ?」
マジかよ。
「頼まれ事あるだろ......」
「だって、本当に嬉しいんだもの、せっかく長居してくれてるんだからもっと楽しみたい」
「お前と話してると同年代の友達とか簡単に作れそうなもんだけどな」
「いないもの、いても同性だし、親しくないし......あの、やっぱり嫌だった?」
まあ立地が良くないか、乗合馬車なんて遊ぶ度に使うなんてお金かかりすぎだし、ダイラはそういうの気にしていたのだろう。
「......それで、次は何処に行くんだ?」
「良いの!?」
「良いぜ、アルが怒ったらお前にも責任取ってもらうがな?」
ダイラは嫌だな、と口では言っていたものの、瞳から喜びを隠せていないのが見えた。
「次も考えてるの――」
「付き合うっていったけど――」
「わぁすごい」
まさか船に乗るとは思わないじゃん!?
遊覧船でナリアの周辺を回るらしいが、船代はこっち持ちだぞ!?
「いつか返せよ!」
「出世払いで!」
「偉そうな事抜かすな」
......メイ婆の時の貯金があって良かった。
「ほら見て見て、真っ白くて大きい橋が見える?」
白く大きい橋が見える。
「カザルマ大橋、アルカディアのメルセイ島と繋がってるのよ」
アルカディアとメルセイ島を繋ぐカザルマ大橋、そして島を中心にしていくつかの島があるようだ、メルセイ島には飛空艇のようなモノも停泊している。
「飛空艇、一回乗ってみたいけどお金かかるの、他の大陸にも簡単に行けるのよ」
「乗りたいとか言うなよ?」
「えぇー」
ダイラに主導権を握らせてはいけない、こいつは使っていいと考えた金はいくらでも使い切る奴だ、金がいくらあっても足らんぞ。
「んで、ここを降りたら次は何処に行くんだ?」
「次はねぇ――」
■
船から降りると今度は町から離れていき、茂みの奥深くに進んでいく。
「どこまで行くんだよ......おーい」
「ちょっと待ってね、秘密の場所よ?」
ダイラの後ろをついていく。
「アキラ、秘密だからね?誰に言わないでよ?」
「だったら会って数日程度の奴に教えるなよな」
「良いの?そんなこと言って見たら驚く......あ、ほら」
茂みを超えて開けた場所――
砂浜だった、一面に白い砂浜で砂はサラサラとしていた、潮風が吹いている。
海も透き通るように綺麗で、ダイラはそこへ走っていく。
遠くには船や飛空艇が薄っすらと見る事が出来て、見晴らしが良かったが観光客や他人は誰もいなかった。
「すごいでしょ?」
「どうやってこんな所を?」
「昔おじいちゃんが連れて行ってくれたのよ」
ダイラ腕を引っ張り俺を海に連れて行こうとする。
「ちょっと待て」
「平気平気ッ!」
「いや靴だけでも――」
俺はダイラにそのまま海に連れていかれ――
「えい――」
俺は服を濡らす羽目になった。
「あーお前、替えないんだぞ......くそ、こんの!」
「キャッ!?」
海水をすくい上げダイラの浴びせる。
「ははは、年下だろうが容赦はしな――「えいッ」
ダイラもお返しとばかりにかけて来た。
「お前、やったな......」
「ははは!」
ダイラはそのまま俺から逃げていくこれはいけないな、舐められるとこの先主導権を握られる。
「待ちやがれ、おらッうらッ」
「やぁ~、こっちだって!」
こんな水の掛け合いをカップルがやる様にバカみたいにしていたからか、気が付いた時には――
「......言わんこっちゃない......」
お互いびしょ濡れ、服の替えもないもんだからダイラの魔法で炎をだして服を乾かそうとしていた。
「そっちもノリノリだった癖に......」
「ノッてあげたんだッ」
「ねぇ服どーしよ......全然乾かない......」
ダイラは服を脱ぎたがらなかった、俺が居るから当然だが。俺が濡れている服を見ていると、見ているのに気が付いたのか両手で身体を抑え。
「ッ見ないで!」
「ばッ勘違いするな!」
その気だったとはいえ全部ダイラに主導権を握られっぱなしだったな......
渋々視線を逸らす。
「......ッアキラ!」
「なんだよ、見てないぞ......」
「違う、魔物!」
「あ!?」
ダイラが海を指さす。
「シシシシシsissss......」
青黒かった軟体動物のイカのように見えた触手を地面に蔓延らせながら、海の中から出て来ると、そいつはイカから外套膜とエンペラを取ったような姿をしていた。
声というよりは音を発声している。
「――」
そう、透明で透き通るかのように綺麗だった海からいきなりソイツが現れていた。
「逃げ――」
ダイラが言いかけた時ソイツは触手を伸ばしてダイラへと向かっていく。
「ッさせるか!」
剣を抜き、ダイラの前に立って左手で振り払うように右触手を切り落とす。
「『ファイアボール』」
続けて右手で奴に魔法を撃つが、器用に触手を使い避けられ――
「ッッく」
まるで鞭のように左触手を俺の横腹に叩きつける。
「『ファイアボール』」
ダイラも後ろで応戦してくれるが、彼女の炎魔法は奴が俺から触手を離す反動で容易にかき消されてしまった。
「嘘ッ!?」
奴のスピードは速い、ただしあのゴブリンには劣る。
「勝てない事はないッ」
ただ厄介なのは手数が相手の方が有利だと言う事、長い触手は一本切り落とした。
短い触手と長い触手合わせて9本。
「ダイラッもう一度魔法を」
「でも同じように防がれるわよ!?」
「それでいい!撃ち続けてくれ!」
ダイラに同じように魔法を撃たせると奴は左触手を使い、俺を巻き込む形で鞭のように振り払おうとする。
「――ッ」
ジャンプッ縄跳びのように乗り越える。すると奴の意識は俺に向けられた。
「シシsiss――」
左触手を俺に伸ばしてきた、ダイラが撃ち続ける『ファイアボール』を短い8本の触手で防いでいる。
「魔光破ッ!」
魔力を込めた衝撃波を奴の顔面目掛けて斜め上から放つ。
「ぐぁ!」
もろに奴の打撃を喰らった、だが――
奴はダイラの魔法に触手を集中していたから、防御も避ける事も出来ず魔光破の斬撃は顔面らしき所に直撃した、
「――」
血液らしき紺色の液体を吹き出しながら触手を動かすが徐々に力を失っていくのがわかった。
「はぁはぁ......なんだったんだ......」
「――アキラ、大丈夫!?」
「すぐに治る、それよりも......こいつはなんだ?」
近くで見る、大きさは人間と同じくらいでイカにしては巨大だ。
「あまり近づかない方が良いんじゃない?」
「......そうだな、とりあえずこの事はザイルドに報告しておいて――」
ぎょろり。
――黄色い目、黄色い瞳に横に黒い線。
すると奴の身体から赤い斑紋がうかびがある
「――いや」
思わず振り向く。
「ダイラッ」
迂闊だった、奴はダイラを左の触手で絡めるとそのまま海の方へと向かっていく。
「そいつを離せッ『魔光破』」
俺は逃走を図る奴に同じように斬撃を撃つ――
「ッ効かないッ!?『ファイアボール』」
炎の魔法すら聞かない、なんでだ!?
「い、いやッ離して!」
触手も変わらなかった、まるでゴムやタイヤのような強度に変わり剣も炎も聞かない。
いよいよ海水に足がつくところにまで引きこまれていた。
「アキラ――」
そうだ、目のまえで助けを乞う人がいる、覇王の力を使うのに躊躇していたのはそんな人が被害に遭うのが嫌だったから、だけどまずは助けないと意味がないだろッ!
「ダイラ、動くな俺がどうにかする」
そうだ、覇王としての俺が殲滅の対象であったとしてもだ。
覇王、俺に力を貸せッ――
お前が俺に宿る限り、散々こき使ってやる。
「ウオォォォォッッ」
剣から溢れる赤黒い魔力、ダイラは明確にそれを見て怯えていた。
「大丈夫だ、俺が守る」
「――うんッ」
イカ野郎、お前の触手からだ
『両断』
ダイラに絡みつく触手を切り落とすッ!
「逃がすかッ」
ブチブチブチっと音が響く、ダイラを掴む触手はそのまま切り裂く。
「――」
すると奴は残りの8本の触手で俺に近づいてきた、もう逃げられない、いや俺が逃がす気がないと悟ったのか、赤い斑紋はより輝きを増し、俺に魔力の圧を加えている。
「いい心がけだよ、お前」
そうだ、わざわざ近づいてきてくれるんだからな?
「『フレア』」
奴の眼前で今度こそ殺す覚悟で『フレア』を撃つ。
最後は奴はまるで風船のように爆散した、紺色の液体を周囲にまき散らし、肉片が海上を漂う。
「ッッ、......疲れた」
とはいえ、すぐに倒れるという事はなかった、これは山の時は瀕死だったからというのもあるのかもしれない。
とはいえ疲労感は大きい。
「ダイラ、おい大丈夫か?」
「......あ、うん」
ダイラは茫然と立ち尽くしていた。
「......あのさこの事、みんなには秘密で頼む」
「え、どうして?」
「......頼むよ」
一応あの力までは大丈夫だと思う、しかし、出来る限りバレないようにしたい。
「わかった、でもすっごいわよアナタ、B級以上はあるかもしれない!」
俺たちはまた元の浜辺へと戻った、せっかく乾かしていたダイラの服はびしょ濡れだった。
「俺は来てなかったからな」
「また乾かすのかー」
とりあえず、一件落着か......あれ何か忘れてる気が――
「――あ」
「なに?」
「いま時間は!?」
そういうとダイラも思い出したか慌て始める。
「わーまずい、おじいちゃんの買い物まだ行ってない!」
「とりあえず町へ戻るぞ!乗合馬車だって間に合わないとまずい」
急いで服を着る。
「アキラ、あたしいい案思いついた」
「なんだ」
「あたしを背中で背負えばいいのよ」
「はあ!?」
俺はさっき戦ったばかりなのにまた負担を与える気かよ!
「さっきの激闘を見ててよく言えるよな!ホントどうかしてる!」
「良いから良いから」
結局はダイラは背負いながら走る羽目になった、
「らくちんねー」
「こいつ......」
茂みの中を人一人背負いながら歩く、とはいえ俺はセレンの時に通い続けた経験がある、ダイラを背負いながら走った方が早くつけるか。
「っちょっと両手を強くしないでくれ」
「はぁい、わかった」
「本当にわかってんのかよ......」
結局ダイラは両手を緩める事はなく俺は余計疲れながら走る事になった。
■
その後猛スピードで買い物を終えて、乗り合い馬車に間に合う事が出来た。
この馬車は1~2時間に一本しか出ない、危なかった。
「アキラ、今日は楽しかったねぇ」
「俺は付き合わされただけだがなッ危険な目にもあったし」
「それもいい思い出よ」
「今日の出来事だぞ......」
ダイラは笑顔だ。
「友達いないから楽しかったの」
「別に冒険者とは時折会ってたんだろ?」
「ううん、話はしても依頼が終わったら帰っちゃう、貴方やザイルドみたいに長居なんて滅多にない」
はぁ、そういう風に言われると別れづらくなる。
「ザイルドはもうすぐ治るだろうし治ったら、そりゃ帰る」
「うん」
「時間が出来たら行くよ、ここに」
「え、いいの?」
「もちろん」
そう言ったらダイラは笑顔で微笑んでいた。
「......今日はありがとうね」
「別に感謝される事じゃ」
「デートに付き合ってくれて」
「な!あれデートだったのかよ!?」
ダイラは俺が反応すると笑顔で「冗談ッ」と返した。
~~それから数日~~
ザイルドの怪我は治り、ダイラが引き留めるのも気にせずに
「そんじゃ、アルにダイラありがとな」
ザイルドは軽快にそう言って別れを告げた。
「ねぇアキラ約束守ってよッ」
「わかってるよ、お前もな、あの力の事は言わないでくれよ?」
「わかってるってば」
俺もアルとダイラに別れを告げて乗り合い馬車に乗り込んだ。
「まさかここまで長居するとは思わなかったぜ」
それは俺も同じだった、初めての依頼はとんだ高難易度になってしまった。
「お前ダイラと仲良くなってたな」
「大分懐かれて大変だった......」
「懐かれたねぇ......まぁいいか、ソルテシアのギルドに帰って終了だ」
依頼終了が認められれば報酬が入る、ただ現地で直接もらうというパターンもあるらしい。
「そういえば、お前が話してたイカの魔物についてだが......」
一応ザイルドにはイカの魔物については報告しておいた、ただ......
「騎士隊の報告によればそんな亡骸はなく、残骸とか体液もなんの痕跡もなしだ」
俺が戦った魔物は残骸すらも残らず、綺麗さっぱり無くなっていたらしい。
「魔物にでも喰われたんだろうな」
ザイルドは別に気にしていないようだった、アレが全部食べられた?確かに俺が爆散させたが切り落としていたデカい触手はあったはずだ、あれも全部喰われたのか?
「まぁいいじゃねぇか、それよりもじいさんは結構高い金払ってくれるからな、二人で分けても良い額するぜ」
初めての依頼、色々とアクシデントはあったが無事に終わった、それに知り合いも出来た、きっとこれからも冒険者としてこういう風な生活をしていくのだろう。
「......それも、いいかもな――」
窓から見える青空は清々しい――
外の向こうには立派な入道雲がもくもくと浮かんでいた――
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