第26話 帰還とそれぞれの語らい


 依頼の達成を報告するとラランから革袋と一緒に渡されたのは竜と老人が描かれた金の硬貨2枚だった。

 この国の平均月収が5万ジェムでこれは破格、ザイルドも驚いている様子を見せる。

 

「ダイラさんに良くしてくれた事も加味してと......」


 ありがてぇ......。


 感慨に浸っているとザイルドはいつの間にか消えている。


「おいこっち来い、前に奢ってやるって言っただろ?」


 俺を近くの席に座らせる、2対2のごく普通の机だった。


「他に誰かいないか......へベルナはいないし......パレハ、おいパレハッ」

「な、なんだね!?」

 話をかけられるとは思っていなかったようで、驚きの声をあげる。


「せっかく新入りが依頼を達成したんだからお前も来い」

「待て――」


 パレハを呼び出すと服を掴みザイルドの奥の席に無理矢理座らせた。


「私は忙しいんだが」

「あ、そうか『星王祭』に今年こそ出たいんだったか」


 あれ?前は出ない方が楽だって......


「前は出る気はないみたいなこと言ってなかったか?」

「あ、悪ぃ」


 ザイルドは謝るとパレハは辺りに人がいないのを見計らい話す。


「一応表向きは出る気はないとしている、ただ本当は出る気はあるんだ」


 えー、なんで隠してんだ......


「知ってる人は少ないマスターは知っているが後はへベルナとか......」

「なんで隠してるんだよ......」

「毎年出る出る言って出れないなんて恥ずかしいではないか!」


 出る時が来たらバレるだろ......。


「とにかくこの事は秘密にしてくれッ頼む」

「わかったって......」

「うーん、他に誰か......」


 ザイルドは辺り見る。


「――混ざっても?」


 クリアな黄みの橙の髪を肩まで伸ばし、水色の瞳、右目に黒い眼帯をしている女が立っている、鎧と剣を腰につけており剣士であることがわかった。

 彼女が話しかけるとザイルドは構わないと言って、俺の隣に座った。

 自己紹介をする前に彼女は「知っている、アキラだな?」じっと見ながらそう言うと笑顔で自らの名を語った。


「我が名はディネー、ディネー=グラディウス」

「......グラディウス......?」

「兄はルキウス......と言えばわかるか?」


 という事は、ルキウスの妹?


「どうして俺の事を?」

「貴方の事は兄上から聞いていた、だから少し気になっていた」

「採掘場の俺が容疑者の件?」

「それ以外に何か?」


 やっぱり俺の悪名?だけは広がってるんだよなぁ。


 パレハはディネーに問う。


「まさかアキラに会いに来ただけ、ではあるまい?」

「いや、そのまさかだが」

「うっそん!?」


 流石に嘘だろ?


「情報収集が目的とかじゃないかね、アルバトロスの......」

「アキラには後ろめたい事なんてないはずだから大丈夫だろ?」

「まったく、そういう目的じゃないというのに......」


 ディネーは目のまえの酒をごくごくと飲んでいる。


「まぁいいか、いたただきます」


 その後、他愛もない話をしていると彼女から質問を受ける。


「う、うう......」


 どれほど経ったか俺は頭をあげるとザイルドとパレハがダウンしていた。


「みな寝てしまった」

「らしい......」

「寝ていて構わないぞ?」

「大丈夫」


 そこから俺とディネーは二人で話す。


「......グラディウス家ってみんな強いのか?」

「人によるだろう......」


 ディネーはグラディウス家で期待されていた、しかし期待されたほどの力を示せず、今では比較的自由を与えられているらしい。


「聞きづらいんだけどさ」


 右目の眼帯は怪我なのか、やはり気になってしまい聞いた。


「あぁ、妖精との契約でね」


 妖精それは太古より存在している超存在で目撃例ほとんどなく伝説や都市伝説の類なのだという、しかしディネーはそれを実際に見つけてしまった。


「あまり人前では見せないが......ほら」


 眼帯から右目を見せてくれた、いやあるはずの右目には眼球の代わりに赤い結晶がはめ込まれている。


「私はこの右目はね、召喚魔法が使えるんだ」

「ッえ、そんな事が出るのか!」

「......まさか本気で信じているのか?」


 俺は酔いが醒ますくらいで驚いたというかロマンのようなものを感じたのだがディネーはそんな俺の様を見て笑う。


「......いや、ふふ、すまない、妖精なんて与太話に真面目に付き合ってくれたのに驚いて」


 なんだか恥ずかしい気持ちが湧いた、ディネーは続ける。


「期待されたというのも妖精と契約をしたという事もあったからだ、まぁ結果は兄上に何も勝てていない」


 ディネーは渋々と現状を受け入れているようだ。


「......その点で言うとへベルナはすごい、彼女は幼少の頃より姉に負けた事はないそうだ、年の差なんて覆すその強さ私も見習わないといけないな」


 へベルナに姉がいた事なんて知らなかった、家に問題があるというのは聞いてはいたが......

「アルディ、大変美しくお強い方だ」

「へベルナに負けるのにか?」

「そう彼女は強い方......」


 ディネーはずっと飲み続けていたので身体をコクリコクリと揺らしながら目を擦る。


「アキラも一度会えばわかるだろう......彼女の......強さ......をぉ......」


 ディネーはそのまま眠ってしまった。


「......」


 一人だけ残された俺はちびちびと飲む、俺ってもしかして酒が強いのか?


「はぁへベルナに会いてぇな......」


 ウトウトとし始めてそのまま眠りにつくのに時間はかからなかった。



 ◆◇◆◇



 謹慎処分を受け悶々としながらも渋々と屋敷にいたところ、お客さんが来た。

 応接室に向かう。


「......ルキウス、久しぶりですね」

「僕の方こそだ」


 ルキウスはパレハと同じく昔は何かと構ってあげていたが、最近はめっきりだった。


「アキラに別荘を貸していただきありがとうございました」

「褒められる事でもない、僕だって同じ立場だったら同じことをしていたさ」


 パレハとは10年来の付き合いだがルキウスはもう少し長い関係だ。


「どうしてあんなことしたんだ、初めて知った時は流石に擁護できなかったぞ?」

「あんなこと?」

「コゴートでの事だ歴史遺産ごと破壊して外交問題になるところだ」

「あー」


 確かにコゴートの廃神殿を壊した記憶がある。


「それと君を止めに入ったコゴートの人的被害も深刻だ」

「へー」


 そういえば、アイツを追う邪魔をした者には手荒な事をしたかもしれない。


「......君が謹慎処分を受けている主要因だというのに、まったく......」


 確かに迂闊だったし反省が必要だとは思ってる。


「それで用事は?」


 このまま話していると進まない、ルキウスに早く用事を済ませてくれと催促する。


「もう少し言葉を選んでくれ、僕は君が心配で......」

「......そう」

「......わかったよ、用事というのはアキラへの監視をお願いしたい」

「監視?」


 私はルキウスが何をしたいのかわからなかった、ただ監視という言葉に嫌な不快な感情を覚えた。


「僕は豊穣の森で出会った魔物の行方を捜し続けていたのは分かっているだろう?」

「えぇまぁ」

「へベルナが採掘場で出会った魔物と僕の出会った魔物、何か関係があると思っている」


 私の気持ちなど知らないルキウスは考察を続ける。


「【暗闇の蛇】のリードルが出会ったという怪物もやはり僕が見た魔物の外見と一致する」


 ルキウスの考察は一理あった、ただ私はあの場で見たのは薄暗くよく見えていた訳ではないし、リードルだって捕まった時には正気ではなかったから当てにならない、それにどうしてアキラが出てくるのかがわからない。


「えっと、アキラとその魔物には関係があると?」

「決まった訳ではない、とはいえそういう考えの者はいる」

「妹さんは帝国騎士でしたね、妹さんからの情報ですか?」

「......悪いが言えない」

「言わなくても平気ですよ」

「申し訳ない」


 まぁアルバトロスが関与しているのだろうな、今まで気にしていなかったけれど少し調べたほうが良いのかもしれない。


「それでどうだろう、アキラへの監視をお願い出来るかな?」

「監視と言っても、今までと同じ用に接すればいいのでしょう?」

「そうだね、これはまだ個人的な事だしアキラにバレるというのも不味いだろう」


 断る理由はない良いだろう、言われるまでもなくそのつもりだったのだから。


「ありがとう、お礼はまたいつか」

「気にしないでください、アキラに別荘を貸していただきましたからね、今回はそのお返しという事で」

「そうか、感謝するよへベルナ」


 ルキウスを連れて出口まで案内する。


「......昔は私の後ろをよくついてきて歩いていましたよね」

「懐かしい事を言うね」


 昔はあんなに可愛かったのにこうも変わるというのは不思議なものだ。


「......とはいえあれは君が望んだことでもあっただろう?」

「だって可愛いじゃないですか、トコトコとついてきてくれるの」

「......僕は人のへきにとやかく言わないようにしている、しかし君のそれは自重した方が良いと思う」


 屋敷の出入り口につくとルキウスは別れを告げて帰っていった。


「知ったような口を......」


 私はかつての私ではないのだ、冷静沈着で平和的なへベルナ、それが今の私だ。


 だけど時々抑えられない時がある、友人を助けられていない現状に悶々としているし、自分を抑えつけようとする存在に対してはいつも常に苛立ちを覚えている。


「......早く部屋に戻らないと」


 もうすぐ謹慎は解けるのだから、問題は出来るだけ起こさないようにしないとね?



 ◆◇◆◇



 それからは先輩として導くためかただ付き合わされただけかは知らないが

「パレハ、アキラついてこいッ素晴らしい儲け話が俺たちを待ってんだぜッ?」

「私の意見はッ!?」

 ザイルドやパレハと一緒に依頼を受ける事もあった。


 しばらく時が経ち少し時間が出来てきて俺は久しぶりにセレンの元へ向かう事にした。


 道中にかかる時間はそこまでかからず、久しぶりにヘルメス村に到着する。


「なんて挨拶しようか、なんだか久しぶりで緊張するぞう?」


 相変わらずボロボロな村、陽射しが照り付けるそろそろ夏に入る季節だ。


「セレンはいつもの屋敷にいるかな」


 奥に進んでいくとセレンは屋敷の前の庭でいつもの机の前に座っていた。


「......」


 相変わらずへの字だ、俺を見るや否や目線を横に向ける。


「久しぶりだな」

「......久しぶり」


 おー相変わらずのこの態度、変わらない!


「えっと、それで今日はどうしてご機嫌斜めで?」

「......さぁどうしてでしょうね?」

「えっと、ギルドには無事入れましたよ?」

「えぇおめでとう」


 仕方ない、セレンのスタンダードはこれだからな。


「座っていいか?」

「......ご勝手に」

「はい、それじゃ座らせていただきますよっと......」

「......ちょっと待っていなさい」


 俺が座るとセレンは屋敷に戻っていきお菓子とコップを持ってきてお茶を入れてくれた、しかし相変わらずへの字で前に見せたあの笑顔とは程遠い。


「セレンはどうだった?メイ婆とはうまくやっているか?」

「ボチボチね、あたしはアンタが心配だったわ」


 セレンは俺の事を心配していたようだ。


「アンタの顔見たらそんな心配は吹き飛んだけどね」


 セレンの事だからメイ婆に俺について聞くことなんてしないだろうし、もっと早く行くべきだったな悪い事した。


「それで今日は何か話してくれるんでしょ?」

「あぁ勿論、まずは初めての依頼の事から話そうかな」

「えぇお菓子もあるから、食べながらお話しましょう」


 こうして俺はセレンと久しぶりの会話を楽しむのだった。


 「へぇパレハにザイルド、面白い人達なのね」


 セレンはいつの間にか自然体になっていた、茶とお菓子を食べながら、夏の陽射しが照り続ける、季節は夏に差し掛かろうとしていた。



 第3章 初めての依頼編 終

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