第24話 レギア

 

「――ん?」


 ......俺はどうした?


 見慣れない天井だった、起き上がろうとするが身体が痛い。


「あ、アキラ大丈夫!?」

「おうやっと目を覚ましたか」


 アルとダイラがこちらを見ていた。


「アキラを担いでザイルドが下山してきたのだよ、その後ザイルドもすぐに倒れて」

「アキラもザイルドも危なかったのよ?」


 どうやらあの後俺は気を失ってザイルドに背負われて下山したようだ。


「何があったんだね?」

「ゴブリン、変なゴブリンだった、黒いし魔法とかもすぐに学習して......どうにか倒せたけどな......強かった」

「......まさかザイルドがやられるとは思わなかったよ、きちんと魔物の強さを把握しておくべきだったよ、反省しないといけない」

「ザイルドは不意打ちを受けたんだ、俺を意識した所為で......」

「とりあえず今日は休んでいって?貴方もザイルドもしばらく安静にしておいた方が良いわ」


 彼らでギルドに連絡は入れておいてくれるとの事で俺はもう少し休む事にした。


 ■


「ほら、口開けて?」

「いや、ちょっと待ってくれ、恥ずかしいって」

「良いから良いから♪」

「一人で食べられるって」

「ザイルドと貴方はもう少しこっちに居させる事にするわ、危なっかしいモノね」

「いやそれは大丈夫なのか?別に完治するまでならともかくそれ以上なんて」


 そんな事を話してたから、アルが入ってくる。


「アキラを困らせるのは止めてあげなさい」

「げ」

「はぁザイルドの所に行ってあげなさい、彼も一人で心寂しいだろう」

「わかったわッ、またねアキラ」


 ダイラはそのまま部屋を出て行った。


「すまないね、いつもはそこまで引き留めないんだが」

「ダイラは普段からああいう風に?」

「そう、何かと理由を付けてここに引き留めようとするんだよ、彼女も寂しいんだろうね」

「友達とかは?」


 アルは首を振った、彼女は両親と外国で暮らしていたのだ、しかし両親が死にアルの所に住まう事になった。

 代々受け継いできた土地を離れる訳にもいかない、それに町に出るのも苦労がかかる、アルは悲しげに語る。


「......私に気を使って自分の事を蔑ろにしていた......そんな彼女に私はようやく報いる事が出来る、学校に行けるんだ、ダイラは優秀でね勉強を独学がしてきたんだよ」

「学校、それってキルケ―の?」

「はは、まさかそんな有名な所は無理だ、もっと小規模な所だよ、でも全寮制で考古学について学べる」


 アルは静かに笑っていた。


「長話をしてしまった、彼女の話は気にしないで構わないからね」


 そう言ってアルは部屋から出て行った。


 ■


「へベルナも言ってたけどさ、本当アキラは回復早ぇって......俺も早い方なんだが」


 ザイルドはまだ立つのがおぼつかないが俺は既に回復していた、この数日でだ。


「アキラ、ダイラと一緒に買い物をお願いするよ、一人だと荷物が多いだろうからね」

「了解」


 俺はアルの手伝いしている、といっても雑用がほとんどで今回は買い物だ、町から結構離れているし、山を軽く下らなければならないから老体には酷なようでよく頼まれている。


「あの後山の様子はどうなんだ?」

「大丈夫、行ってみたけど問題なかったしやっぱりそのゴブリンが元凶だったみたい」

「一人で行ったのか?」

「おじいちゃんも体力ないもん仕方ないわ」

「危ないだろ?低級とはいえ魔物も出るって」

「私だって多少は戦えるもの、大丈夫よ」


 流石に新人教育に熱を入れてる家とあってそれなりに戦えるらしい......山の問題が解決したのなら後はザイルドが回復するのを待つだけだな。


 ■


 ナリアは湾岸都市で海沿いの町とそれを見下ろす町の二重構造だ、アルに頼まれていたものは全て山地の方にあり、海沿いに行く必要はないのだが。


「ねぇせっかくだから海を見ない?」

「買い物は」

「良いから良いから!」


 腕を引っ張られてそのままナリアの湾岸町に進んでいく。


「お父さんとお母さんは対岸の国にもよく行ってたわ」

「両親は何を?」

「考古学者だったの、1000年以上前の遺跡が見つかったって」


 彼女の両親は発掘調査の時に出現した魔物に殺されてしまった。


「あ、こっちこっち」


 ダイラは強引だ、俺が何か言うのも待たずにさっさと引っ張って進んでいく、彼女なら友達作りにも困らないだろうに。


「ここが歴史遺産の一つ、マルスの塔よ」

「マルスの塔......でかいな」


 マルスの塔と言われた、それは黄土色でところどころは砕けているものの今なおこのナリアを見下ろす50メートルほどの塔だった。


「ソルテシアにも似たのがあるはずよ?」

「そんなのあったか、俺は湾岸部には行ってないからな......」

「勿体ない、ソルテシアのは60メートルくらいあるのに」


 灯台として1000年経っても尚現役であるという。


「マルス、春陽のマルス。レギアの支配を退けた英雄でそんな彼が建てたって伝わってるわ」

「レギア?」

「1000年以上前に侵攻してきた国の名前よ?」


 何故、何時頃からなのかはわかっていない、しかしレギアという国が侵略戦争を続けていたのは史実のようだ。


「どこにあった国なんだ?」

「よくわかってない......大陸の中央付近らしいけど」


 フーン......


「......というか良いのか?アルさんに頼まれてた買い物はさ」

「良いの、せっかく話し相手が長居してくれたんだから、観光案内するのよ」


 そしてまた引っ張られる、ザイルドではダメなのかと聞くと、年上すぎるのと少し怖いらしい、俺も初見の時は怖かったし仕方ないとは思うが。


「博物館に行こう?アルカディア湾はレギア軍との戦闘が多かった場所だから貴重な遺産が残ってるの」

「わかった、そんなに引っ張らないでくれ」

「早くッ、遅くなったら怒られる」

「わかったって......」


 年の離れた妹みたい......伯父さんの所に居たとき従弟おとうとはいたけど従妹いもうとはいなかったからなぁ。


「ねぇ、早くぅ」

「行きますってば」


 ■


「これはおよそ800年前の出来事を記した貴重な碑文で――」


 ナリア博物館色々な骨董品やら壁画やらが飾られている、それをダイラは自慢げに解説してくれるのだが、残念ながら俺はそこまで興味を持てていなかった。


 少し進むと博物館のある区域に物騒な武具類が展示されている、それはレギア軍が残していったものらしい。


「そしてこれがレギア軍が使用していた武器、と思われる物」


 剣や槍は全体的に赤黒いが何より不気味なのは錆びていない事だ、これは発掘されたままの状態らしい、つまりこの武器は錆びる事のないものなのだろう。


「魔水晶を素材として使ってたりと高度な技術を持ってたみたい」


 レギアは中央から周りを攻めていったようだ、高度な技術を持っていたから可能だったということか。


 色々と考えているとダイラが誰かに話しかけられた。


「ダイラちゃん久しぶりですね」

「あ、クレイルさん」


 ダイラは随分と親し気に誰かと話している?


「もしかしてデート?」

「ふふん、どうでしょう?」

「違うっての......どうもアキラです」

「あぁ貴方がアキラさんですか、ザイルドさんから話を聞いていますよ」


 この博物館でレギアの研究をしているクレイル=クルル、ザイルドとも知り合いらしい。

緑色の短髪の男で、杖を突きながらゆっくりと近づいて来た。


「えっと、ダイラとはどのような関係で?」

「ダイラちゃんとはご両親が健在だったころからの付き合いなんですよ」

「......ねえどうしたのその足、大丈夫?」


 ダイラは心配そうに聞く。


「あぁ気にしないでください、調査中にコゴートで少し足を痛めただけですから」


 コゴート......あぁへベルナが行っていた場所か。


「コゴートにもレギア関連の物が?」

「えぇ......ちょっと見てみます?」


 クレイルはシッと指を口に付けながら研究室へと案内してくれた、そこでは色々な機材やら物が置いてある。


「少しだけ、特別ですよ?」


 それは羊皮紙の手紙でコゴートの金持ちが保管していたもの、その情報を偶然知ったクレイルは大金を叩いて回収、さらにせっかく来たからコゴートの遺跡の調査もして足を痛めたらしい。


「これで、よしと」


 魔石の技術を用いてスクリーンに写真を転写している。


「一部文字は潰れていますが......」


『近くレギアへ侵攻する計画が出された、即刻に対策を......ゼ......』


「恐らくは内通者がいて、そこから得た内容をレギアに送ろうとしていたのでしょうね」


 その後話は終わり、博物館の出入り口まで付き添ってくれた。


「ぜひ今度はザイルドさんと一緒に来てください」


 クレイルは笑顔でそう言った。

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