不完全でもいいから書き出す
多くの小説指南書を読んでみると、特に初心者向けの本に多いのですが「まずは書きましょう」ということが書いてあります。
すでに書いている人にとっては「なにをいまさら」と思いますが、多くの本で書かれているということは、やはり「書かない人」が実はたくさんいるということなのでしょう。
小説は、自動的には書けません。
だから1日1ページでもいいから書き続ければ、数百日後には必ず書き上がります。1日100文字でも書き続ければ、1000日後には本1冊分の10万文字になるはずです。
だから書きましょう、と本では書かれます。
作家を仕事にしていない限り、小説を書かなくても生きていけます。書かないことには始まらないわけです。
書かなければデビューできません。デビューしてから書く人はいません。デビューは書いてからなのです。
指南書に「まずは書きましょう」と書かれる理由はもう1つあると思います。
多くの小説家志望の人は「書こうとしていない」ということです。
これは私の実体験ですが、専門学校時代のクラスで実際に小説を書いていた人は、私が知る限り数人程度しかいませんでした。
ほとんどは書けない、もしくは書こうとしていない人たちだったように思います。
彼らの様子を見てみると、「学校で小説の書き方を教えてもらってから書く」というスタンスの人が結構いたのです。高い学費払っているんだから教えてくださいよ、という、ある意味受け身の姿勢でした。
その中から小説を書き出す人は少数です。受け身の学生ほど、日々の課題をこなすだけです。
結局、彼らは卒業までに1本短編小説を書きましたが、それも卒業制作です。なので、自主的に小説は1本も書いていないことになります。
専門時代に同級生と話すと、小説についての話が驚くほどありませんでした。
「こんな小説書こうと思っている」
「この本を読んだ」
という話もありません。
本を読んでいる人は割と多い印象でしたが、中にはまるで本を読まない人もいました。
彼らに共通している考え方は、
「学校で勉強して、完璧な状態になってから名作を書く」
というビジョンを持っていることでした。
それ以前の状態では小説が書けないと思いこんでいて、執筆どころか構想を練ることさえしません。
実際の授業でも小説を執筆する授業はほとんどありません。エッセイやショートショートのようなものを課題で書くことはありましたが、頻繁にはありませんでした。
ただ、その当時の学生にいきなり小説を書かせても無理だろう、という学校側の考えもあったのかもしれませんが。
このような学生は3〜6ヶ月もすると、「このままでは小説なんか書けないんじゃないか」と思うようになり、学校をサボりがちになったり、授業内容の不満を漏らすようになります。
これはなにも学生に限ったことではありません。
一般の社会でもこういう人は結構います。
とにかく失敗したくないので、最短距離を目指そうとします。中途半端な小説を書いて落選したら時間の無駄になるので、完璧な状態になるまで書かない。
小説は、とにかく書いてみるところから始まります。実際に書き進めてみては実力不足を思い知り、修正しながらまた書き出す。常にトライアル&エラーの繰り返しです。
頭の中では完璧に穴のないストーリーだと思っていても、書いているうちに実はつじつまが合わなかった、なんてことは案外あります。というより、すんなり書けた小説なんかありません。ましてデビューさえしていない未熟な状態ですから、スッと書けるはずありません。
これも学生時代の話ですが、「自分はこんな小説を書きたい」という目標を持っている学生はほとんどいませんでした。
それでも授業の成果なのか、徐々に物語の構想を考える人も出てきます。
卒業する間際になり、ある学生と話したときのことです。
「自分はすごいストーリーを考えてる」
と胸を張って言うクラスメイトがいたので、
「どんな話?」と聞きました。
「笑いあり涙ありの青春モノ! もう何百枚にもなるすごい面白い小説なんだ!」
とだけ答え、あとは「もうホントすごい面白いから」と曖昧なことを言うだけでした。
なんとなく、目標だけあって内容が決まってないんだろうな、と思ったので、深くツッコみませんでしたが、
「じゃあ、書いてみなよ」と私が言うと、
「いや、まだ書かない!」と強めに否定しました。
「書いてみないと形にならないよ」
と私は言いましたが、クラスメイトには書き出す気は起こらなかったようで、現在に至るまで小説が完成したという話は聞いていません。
頭の中にあるうちはすごいストーリーかもしれませんが、アウトプットしない限り世界に存在していないのと一緒です。書いてみたら意外と大したことなかった、なんてことだってたくさんあります。
不完全でもいいから、とにかく書き出してみることから執筆は始まります。推敲なんか後でいくらでもできます。
常に締め切りと格闘しているプロの作家と違って、デビュー前の作家志望者には時間がたっぷりあります。パソコンで執筆しているなら、文章を追加や削除は簡単にできます。手書きの人にとっては大変な作業かもしれませんが、それでも一度小説を書き終えた経験は必ずプラスになります。
多くの小説指南書では、「とにかく書こう」の他に「最後まで書こう」とも言われています。
つまづくたびに途中で投げ出してしまうと、そこから成長できません。自分のどこが弱点なのか理解できないんだと思います。
初めて書いた小説は、ものすごく出来が悪い。私も最初に通して書き上げた小説の出来はひどいものでした。それでも1本書き上げるたびに、次につながる課題が見つかります。そして次の作品でも課題が見つかる。この繰り返しです。
もし春に小説家養成の専門学校へ進学を希望している人がいたら、まずは1本小説を書いてみてください。
短編でもいいですが、できれば長編のほうがいいです。長編のほうが短編よりも長い話を作らなければならず、その分反省点も見つかりやすいからです。
今から書き始めれば、書き上がるくらいに入学になるはずです。そのまま推敲を重ねます。クラスメイトと仲良くなったあたりで推敲済みの小説ができているので、「これ読んで感想聞かせて」と言えるようになります。
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