SFは衰退したのか

 出版不況と呼ばれてもう20年以上が経ちます。

 小説もその影響を受けており、その中でも特に売れないジャンルがSFです。


 先に申し上げておきますが、私はSFマニアとまではいかなくとも、SF好きの人間です。だから、SFを悪く言いたくはありませんが、やはり売れていないのは事実です。

 買っていくのは一部のマニアたちで、一般読者には見向きもされないジャンルがSFです。


 以前も書きましたが、マンガの話はできる人は多くても、小説の話をできる人は少ないのですが、その中でもSFの話ができる人はほとんど絶滅危惧種といっていいレベルで存在しません。

「ガンダム好き」と豪語する人に、その元になったと言われるロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』と『月は無慈悲な夜の女王』は知っているかと聞くと、読むどころか聞いたことさえない有様でした。


 現在のSFの様子は、こう表現されています。

「SFは衰退した」


 しかし、この表現は正しくありません。

 今でも海外ではSF作品は多く発表されており、毎月翻訳された小説が発売されています。

 アニメの世界においては毎クールなんらかのSF作品が放映されています。

 ライトノベルにおいても、SFは発表されていて、その割合は一般小説よりも多いのが現状です。

 映画の世界、特にハリウッドではSF映画がたくさんあります。

 こう見ると、SFは1番人気のジャンルではないにしても、衰退などしていないような感じもします。


 これは「SFが衰退した」ではなく「日本のSF小説が衰退した」と言い直した方が適切です。

 SFと聞いてなにを思い描くでしょう。

 多くの人がアニメや映画、ゲームやマンガの作品を挙げると思います。なかには小説を挙げる人もいますが、過去の名作と呼ばれる作品ばかりで、現在活躍中の作家を挙げる人は少数はかもしれません。


 では、なぜ衰退したのでしょうか。

 そもそも、SF(サイエンスフィクション)とは「科学的空想に基づいたフィクション」と定義されています。つまり、物語の中に科学的考察がなくてはいけないのです。ということは、書く側に科学的知識が必要になります。

「SFを書きたいなら、NASAの論文を原文で読め」という作家もいるくらいです。

 実際に私もいくつかSF小説を買こうとしましたが、知識不足のため書ききることができませんでした。自作『ハイペリオン戦記』も一応ジャンルはSFとしていますが、実際には近代を舞台にしたロボットファンタジーといった感じになっています。

 事前の知識が要求され、さらに未来に関する推察も必要とするジャンルがSFだと思います。

 ですが、執筆に知識が必要なのはSFに限りません。歴史小説だってファンタジーだって、調べることはたくさんありますし、現代を舞台にした作品だってちゃんと書こうと思えば資料は必須です。


 SFの衰退の大きな原因は、読むハードルがやや高いことが挙げられます。それは、単純に内容の難しさというわけではなく、空想力が必要になるということです。

 私の好きなSF小説に『ニューロマンサー』という作品があります。

 かつては凄腕のコンピューター・カウボーイであった主人公のケイスは、契約違反によって薬剤によって脳神経をわずかに破壊されたことで、ジャック・イン能力を失いました。そんなケイスの元に、ジャック・イン能力を元に戻すことと引き替えに仕事の依頼が舞い込んできます。

 これが序盤のざっくりしたあらすじです。

 まあ、よくわからないですよね。

 コンピューター・カウボーイ?

 ジャック・イン?

 なんで脳神経が破壊されて能力失うの?

 当然こういう疑問が浮かびます。

 ですが、作中でこれらの用語を丁寧に説明してくれることはありません。物語はどんどん先へ進みます。

 それでも、この説明しないことが、SFの特徴とも言えます。

 コンピューター・カウボーイは「ハッカー」

 ジャック・インは「ネットワークへのハッキング」

 と、頭の中で置き換える必要があります。

 また、なぜ脳神経を破壊されるのジャック・イン能力を失うのか、という疑問に対しても「ジャック・インは脳神経とネットワークを直接接続するのではないか」と想像しました。

 そうやって分からない用語を想像しながら読み進めるのが、SFだと思います。


 じゃあどんなこと書いても想像してくれるのか、と言えば、そうではありません。一部のSF作家の中にも勘違いしている人がいるみたいです。

 ある作家の小説を読みました。現代の高校生が過去の時代にタイムリープ(意識だけが時空を移動して過去の人物に乗り移る)して、トラブルに巻き込まれる、というのがおおまかなストーリーです。

 途中、タイムリープの原因を作ったと思われる存在が出てきますが、これがぼんやりとさせすぎているため、正体もはっきりしませんし、なぜタイムリープさせたのかも明らかにしていません。異星人っぽくもあり、不思議な能力を持った存在のようにも思える書き方をしていますが、ぼかしすぎてなんだかさっぱり分かりません。

 たぶん作者のやりたいことは「彼らは自分たちに何をさせようとしたのか」という疑問を投げかけて、読者にいろいろ想像してもらおう、と考えたのかもしれませんが、結果としてうまくいっていません。意味深なシーンを入れればいい、とでも考えていたんでしょうか。

 もちろん「君の理解力が足りないんだ」と言われればそれまででなわけですが。


 作者の科学的考察力を求められ、読者にも科学的想像力を求められるSFは、書き手にとっても読み手にとってもハードルが高く、難しいジャンルの1つになってしまい、結果としてライトな読者が離れてしまったのではないでしょうか。

 ウェブ小説でも、SFは人気のないジャンルと言われています。

 ライトノベルではまだ人気がありますが、それも他ジャンルに圧されています。

 一般小説においても、SF作家の数は少なく、ジャンルとしても売れないため、なかなか厳しい現状に置かれているようです。SF単体では売れないため、ミステリーと組み合わせたりして工夫を凝らしています。

 ただ、SFファンとしては、盛り上がってほしいという気持ちもあります。

「SFは衰退した。でも絶滅はしていない」

 これが私から見たSFの現状です。

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