ファンタジーと人の想像力
ファンタジーは、ライトノベルにおいて人気のジャンルです。ウェブ小説界でも、異世界転生モノなんかが多くあるように、その人気の高さが窺えます。
現代で人気のあるファンタジーは、あえて言うなら「ライトファンタジー」がほとんどです。つまり、軽めのファンタジーです。難しすぎず、ファンタジー世界を体験できる作品で、小説を読むというより、まるでアニメかゲームをしているような感じです。
ただ、この軽めをファンタジーは最近始まったことではなく、90年代のライトノベルにもありました。『ロードス島戦記』のようなハードなファンタジーもあれば、『フォーチュン・クエスト』や『スレイヤーズ』などのライトめなファンタジーもありました。
私のそのあたりのライトノベルに影響を受け、小説を書き始めたころにはファンタジーを書いた経験があります。
しかし、1作書き通すこともなく、諦めました。
理由は「難しいから」です。
「いやいや、難しいことないだろ」
ってツッコむ人も多いと思います。
もちろん、ファンタジーのお手本になる作品は世の中に多く存在しています。小説だけじゃなく、アニメにもゲームにもマンガにも、いろんなところにファンタジーはあります。だから、ファンタジーを書くだけなら比較的簡単です。
ところが、オリジナリティを追求しようとすると、途端に難しくなります。
物語の時代における科学技術はどれくらいか。その当時使っている武器の素材はなにか。魔法を使うのだとしたら、それはどんなメカニズムで使用しているのか。食事は。建物は。宗教は。通貨は。各国の物価の違いは⋯⋯
とにかく、ファンタジーは考えることが多いのです。
「そんな難しいこと考えなくてもいいんだ。ファンタジーは自由なんだ」って反論する方もいます。
ですが、人間の想像力ほどアテになりません。
例えば、
「誰もが魔法を使え、幼い子供でさえ初級魔法を使える世界で、主人公はただ1人魔法の使えない人物だった」
という設定で小説を作るとします(どこかで見たような設定ですが、あくまで例題なので)。
小説の第1話で、この世界観の説明をするため、どんなシーンを描くでしょうか。
多くの方が、子供が初級魔法で火(もしくは火の玉)を出すシーンを想像したんじゃないでしょうか。主人公は手の平を突き出してウンウン唸って、結局何も出ない、というシーンを考えたんじゃないでしょうか。
想像だけで描こうとすると、結構似た設定が生まれがちです。それでも、本人はそれをオリジナリティの塊だと信じてしまいます。
人間の想像力は、実のところ大したことない、と言えます。
こんなことを言っている私ですが、10〜20代はほとんど資料を調べることなく、思いつくままに小説を書いていました。
その当時から「自分が考えたストーリーなんだから、オリジナリティがある」と信じ込んでいました。
何年か経って過去のプロットや設定などを読み返してみると、読めば読むほど既存の作品に似ているのです。もちろん、まったく同じというわけではありませんが、他人が読めば「○○のパクリだね」なんてキツい評価を下されてもおかしくない作品ばっかりでした。
そんな過去の恥ずかしい経験もあり、資料を調べることも大事だ、と思うようになりました。
思えば、専門学校の講師の方々もそんなことを言っていました。
「現代モノよりファンタジーの方が創るのは大変なんだ」と、たびたび言っていたように思います。
しかし、当時の周りの生徒は「何言ってんだ?」といった感じで、まともに聞いていなかったような気がします。
「資料を調べたら、資料のパクリになる」
「調べ物なんかしなくても、自分はファンタジーを立派に書いている」
「私は私のために書いているんだ」
すでに何作か書いている人たちほど、自信を持っているのか、講師の言うことを聞こうとしません。
そういう人の作品に限って、細かいところでいい加減だったりします。通貨の単位も「金貨○枚」だったり「ゴールド」だったり、場合によっては「ギル」をもじっただけだったりとか。
もちろんフィクションですから、資料以外のことを書いてはいけないわけではありません。
ちょっと前に話題に挙がっていた
「ファンタジー世界にジャガイモやトマトがあるのはおかしい問題」
などはその典型ではないでしょうか。
ジャガイモやトマトは南米原産ですから、大航海時代前の中世ヨーロッパには存在しません。
中世ヨーロッパを舞台にした作品にジャガイモやトマトが出てくるのは、時代考証的にアウトです。
しかし、ファンタジーだったら、別に登場させてもいいんじゃないかな、って思います。作者が「この世界では古くからジャガイモもトマトもあります!」って主張すれば、それでいいわけです。
ただ、普通に登場させるだけではダメです。ジャガイモやトマトと共に歩んできた民族なら、それらの食材を使った料理だっていくつもあるでしょうし、「飢饉のときにはジャガイモのおかげで民衆が助かった」などのエピソードも多く出てくると思います。
そこまで設定できたなら、「ジャガイモとトマトのあるファンタジー」になれると思います。
これはファンタジーに限らず、現代モノやSFにも言えます。
「警察内部でも一部の者しか知らない極秘部署」を取り上げた作品の場合、警察組織の資料を調べたり、主人公たちの人事や警察内での立ち位置なども練っていく必要があります。
「タイムマシンが一般化された未来の話」を書こうとしたら、タイムマシンが実用化されたことでどんな問題が起こるのか、その問題に誰がどう対処していくのかなど、踏み込んで考えていかなければリアリティが出ません。
とはいえ、考えれば考えるほど作品が面白くなるかと言われれば、決してそうではありません。
プラットフォームや読者層にあわせて、適切な設定量があるように思います。
ただ、小説はいい加減な設定でも、それなりに書けてしまいます。ゲームやマンガなど、参考になるものは巷に溢れていますから、それらを参考にすることで、なんとか書けるわけです。
実際に書籍化したり作家デビューを目指すなら、きちんと調べ物をする必要がありますが、趣味で書いたり、習作として書くのなら、自由に書いていいと思います。
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