能力を設定するとき

 ラノベなら主人公に特殊能力を持たせる場合が多く見られます。

 主人公だけものすごい知識を持っていたり、超能力のような圧倒的な力を秘めていたり、ファンタジーなら主人公の魔力は段違いに高いとか、キャラクターには何かしらの能力を持っています。

 一般小説でも、特殊能力とはいかないまでも、能力を設定することはあります。スバ抜けた推理力を持った探偵とか、鍵開けが得意な元泥棒とか、射撃がうまい刑事だとか、小説にキャラクターが登場する以上、それがモブキャラでない限りは能力(もしくは特徴や属性)があります。


 この能力というのは、実は案外厄介な存在です。

 ウェブ小説界隈では、主人公の能力を高く設定(もしくは周りを低く設定)するのが多いようです。そうなるといわゆる「無双」はできますが、無双状態は長くは続かないように思います。

 個人的には、主人公が強すぎれば、戦いが盛り上がらないと考えています。


 例えば、「時間を止められる主人公」VS「手で触れた相手の命を奪う敵」と設定したとします。

 この2人が戦ったとしたら、ほとんど全ての人が「主人公が時間を止めて相手を倒す」と考えるはずです。読者は読みながらそうやって想像しているはずです。

 2人の戦いが、特に読者を良い意味で裏切ることもなく、予想通りに決着したとしたら、読者は作品に対してどんな感想を抱くでしょうか。

 もちろん、主人公が圧倒的に強いのを楽しみたいという方もいるかと思いますが、大抵の場合は低い評価を下されると思います。


 強すぎる能力は、作者も扱いに困ります。

 次々に強いライバルが出せなくなるため、戦闘シーンが盛り上がらなくなります。

 そうなると、戦闘以外の部分で物語を進めなくてはならなくなるため、ギャグシーンを多くしたり、ハーレムを作ってみたりするんだと思います。


 これは一般小説でも言えることで、現場を一目見ただけで犯人が分かる、といった超能力みたいにすごい推理能力を持った探偵を設定してしまうと、話が続かなくなってしまいますから、探偵の出番を削るしかなくなります。

 絶対に打たれない魔球を投げられる甲子園球児の話は、よほど工夫しなければストーリーを先読みされてしまいます。


 これらの能力の解決方法は、個人的に3つあると思います。

 1つは「ライバルにもすごい能力を付与する」

 主人公だけが強すぎては面白くありませんが、ライバルも同じくらい強いなら、盛り上がりも期待できます。「絶対に打たれない魔球VSどんな球でも打ち返す打法」といったどっちが勝ってもおかしくない能力同士の対決などが例としてあげられます。

 しかし、大抵の物語は主人公が勝利するわけですから、超絶能力同士の対決は、ある程度しか盛り上がらない場合が多いです。


 2つ目は「能力に制限を付ける」

 強い能力をキャラクターに与えたい場合、制限を付けることでバランスを取ることができます。

「時間を止める能力」を持っているキャラクターも、いつでも何時間でも自由に時を止められるのであれば、ピンチが起こりにくくて盛り上がりに欠けます。

 では、思い切って使用制限やデメリットを付けるとどうでしょう。「2秒しか時間を止められない」「○回しか使えない」「使用上限を超えると死ぬ」などです。こうすると、制限がかけられている中でどう戦うか、という選択をしなければならなくなり、強い能力の押しつけで戦いを切り抜けていく、ということがしにくくなります。

 制限は思い切った方がいいと思います。能力を使ったらくしゃみが出るとか、お腹が空く程度では、大したデメリットにはなりません。代償に命を落としたり、記憶をなくしたりなど、重ければ重いほど能力を使う場所が限られるので、展開が読まれにくくなります。

 既存の作品を例に出せば、『コードギアス 反逆のルルーシュR2』におけるロロ・ランペルージなどが挙げられます。


 3つ目は「味方は弱く、敵を強くする」

 上記2つは、キャラの能力を変更せずに設定を作る場合です。強い能力を持たせたいけど、設定は変えたくないという時に使えます。

 しかし、3つ目は能力の設定段階から考えていく方法です。

 味方の能力よりライバルの能力を強くすれば、2つ目の時以上に展開が読まれにくくなります。

 例えば、「時間を止める敵」と戦うとき、味方が「ティッシュを5センチ浮き上がらせる」といった程度の場合、はっきり言って勝てる気がしません。かなり極端な例ですが、もしこんな戦いがあるのだとしたら、味方側は能力をぶつけるだけでは絶対に勝てません。

 そこで、知恵を使ったり、仲間と協力したりする必要が出てきます。仲間と協力すれば友情が描けますし、戦いの中で命を落とす仲間が出てくれば物語として盛り上がります。

 さすがに「ティッシュを浮き上がらせる」は極端過ぎますが、遠距離で攻撃してくる敵VS近接戦闘のみの主人公などだと、いかに接近するかがポイントになってきます。このように「敵が有利な状況から戦いを始める」と、キャラクターはその状況を打破するための試行錯誤をする必要が出てきます。


 これらの能力バトルをうまく描いているのが『ジョジョの奇妙な冒険』です。特に3部以降のスタンドが出てくるようになるとその傾向は顕著になり、

 不可解な攻撃を受ける

   ↓

 繰り返しの攻撃によって相手の能力が分かる

   ↓

 敵の短所を突く

   ↓

 敵を倒す

 という流れになります。

 この中で「いかに敵の正体を見破るか」「どうすれば敵を倒せるのか」といった思考をし、敵の側も「どうやったら有利な状況で攻撃し続けられるか」と考えることで、一種の心理戦が展開されます。

『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズは、実は能力バトルの盛り上げ方を学ぶにはもっとも適したテキストだと言えます。


 カクヨムで公開している私の作品『ハイペリオン戦記』では、1つ目の「ライバルにもすごい能力を与える」を採用しています。作中では明らかにしていませんが、能力に若干の制限もかけています。

 少し能力設定が強過ぎたかな、と思うこともありますが、あまり複雑な心理バトルなどはプラットフォーム的にウケないだろうと思い、強過ぎる能力者たちの戦い、という物語にしてあります。

 ただ、能力差をつけたから面白くなるわけではありません。小説にはキャラクターの魅力やストーリーなどの要素も必要になります。ですが、能力バトルをメインに置いた作品の場合は、今回の能力設定の仕方が役に立つかもしれません。

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