小説を書くのに才能は必要か

 小説を書くのに必要なのは、なんでしょう。

 万年筆でしょうか。原稿用紙でしょうか。それともパソコンでしょうか。もしくは時間と答える人もいるかもしれません。


 ですか、もっと根本的な部分で「小説を書くのに才能は必要か否か」についてはどうでしょう。

「あの人は才能がある」

「この作家は天才だ」

 こういう言葉を聞いた人も多いかもしれません。


 そもそも、才能とはなんでしょう。

 例えば、スポーツ選手なら、身長や筋肉量や動体視力など、後天的に鍛えられる部分はあるものの、生まれながらの能力が影響しています。

 もしくは、声優さんであれば、演技力などは鍛えられる部分はありますが、元々の声質などトレーニングでは補えないところはあります。


 小説には、こういった「生まれながらの能力」は関係しているでしょうか。


 育った環境は多少関係してくるかもしれません。本屋もなければネットもない環境では、小説に触れる手段も限られますし、都会の人たちと比べればインプットする情報量に大きな差ができるということは考えられます。

 私の経験から言いますと、まずこれはないかと思います。

 私は田舎の出身で、近所には小さな本屋しかなく、アニメに関しても多くが地元ではテレビ放送されていませんでした。進学のために上京した際、私は「きっとすごい才能の持ち主ばっかりがいるんだろう」と思っていました。ところが実際に学校に通うようになると、私よりも遥かに恵まれた環境で育っていた都心部の人たちは、ほとんど小説を書けない(書かない)人たちばかりでした。

 いろんなアニメやラノベのことは知っていても、オリジナルの小説を書く能力を養えるわけではないようです。


 では、IQが関係しているのでしょうか。

 地頭が良いということは、物語を構成するのにも大変有利に働きそうに思えます。

 ですが、おそらくIQも関係ありません。

 これも私の体験談ですが、自称IQ130を名乗る人物(以下Aさん)が小説を書くのを手伝ったことがあります。

 Aさんは年間で150冊以上本を読み、読書家であることを誇りに思っており、結果として「本が読めるなら書けるだろう」と考えるようになりました。私も物語創作を手助けするように、ネタ探しのコツや物語の組み立て方などを簡単に教えました。

 ところが、Aさんはまったく書けません。そもそものきっかけとなるストーリーさえ思いつけなかったのです。

 そこで、私は実際に原稿用紙50枚くらいのオリジナル短編小説を読ませ、小説を書くために必要な要素を教えていこうと思いました。Aさんはだんだん苛立ってきました。成果が出ないこともそうですが、Aさんよりも圧倒的に読書量が少ない私がいとも簡単に小説を書いたことが気に入らなかったようです。

 しばらくして、Aさんは小説を書き上げました。内容は、私が渡した短編小説を好き放題にアレンジした作品でした。中身はひどいもので、純文学ともエンタメともとれない中途半端なストーリー、80枚ほどのページ数の中に登場人物が10人以上で、そのうち半分がセリフのないキャラでした。

 Aさんは会心の出来だと感じたのか、満足そうに「芥川賞にはどうやって送るんだ?」と聞いてきました。


 私の体験談はかなり極端な一例に過ぎませんが、IQが高いからといってすぐ小説を書けるわけではないようです。


 結局のところ、小説を書くのに必要な能力とはなんでしょう。


 私が思うに、才能はいりません。

 私は学校の勉強はできない方でしたが、小説を書けています。

 詳しいIQは知りませんが、そこまで賢い方だとも思っておらず、当然ながら天才ではありませんが、小説のネタに困ったことはありません。


 唯一、必要だと思う才能は「続ける才能」だと思っています。

 小説を書ける、もしくはストーリーを思いつけるようになるまで、長い時間が必要です。ある人は数年でコツを掴むかもしれませんが、十年二十年かかる人だっています。二十年間も一つのことを続けるのは、かなりの苦痛です。普通はできないと思ったら諦めます。

 それでも続けていった人だけが、得られる能力だと思います。

 初期に描いた作品は、既存の作品の寄せ集めや継ぎ接ぎのような作品かもしれませんが、繰り返していくことでオリジナルの作品を作り出す力を付けることができます。「小説力しょうせつりょく」とでもいうものでしょうか。そういった力を養うには、やはり訓練する時間が必要です。


 小説を書くのに才能は必要ない、というのは、あくまで「小説を書く能力」であって、賞を獲る、売れる作品を書く能力とは別です。

 しかし、天才だけが小説を書けるわけではないと思っています。

 小説を書けるのは天才だけだとしたら、私も天才になってしまいますし、それなら私はとっととデビューしていなければいけないわけです。

 作家デビューできていない私が、これらの考えを証明する一つの証拠になるのではないでしょうか。

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