第22話 ハヤトの決意
少年は数々の屈託を経験しているはずなのに、その笑顔には屈託がない。いや、そういう屈託を表せるような術がないのだろう。
ハヤトの胸には罪悪感が沸き起こった。
ここにいるのが、僕ではなくエルドーであったなら、ケーネスやリンであったなら、ジャンであったなら……。
「……すまない」
やっと口から出た言葉はそれしかなかった。
「なぜ?」
「いや、理由なんか……。理由なんか、いくらでもある。僕が君にすまないと思う理由なんかいくらでもある。すまない」
少年はハヤトの暗い表情に同調するように暗くなった。
「そうなんだ……。よくわからない。けど、別に……」
何を言っていいか、どうしていいか分からず、言い淀んでいる。
そんな態度にはっと気がついて、またすまないと思い、自己嫌悪を繕うため言葉を継いだ。
「ああ、いや、すまない。気にしなくていい。といっても気にさせておいて、それはないよな」
話題を変えようとして、さっきの少年の質問を思いだした。
そして、一つの決心を固めた。
僕はこの少年のおかげで、今の自分がある。発狂せずに、いやそれどころかこうしてまた会話を楽しむ機会さえ手に入れている。すべては少年の打ち上げたロケットのおかげだ。
オレは火星に降り立つまで、早く死にたいとばかり考えていた。それでいて、その決心をつけられずに孤独に絞め上げら続けていた。耐えがたい苦痛の時間だった。
それを少年が救ってくれたのだ。
系内で最後の人間であることに変わりはないが、僕は少年に出会えたことを、少年が自死せずに、ロケットを打ち上げたことに感謝する。
「君は、地球を見たいって言ったね。どんなところか知りたいって」
「うん」
少年の瞳は輝きだした。
「僕ももう一度、この目で見てみたいんだ。一緒に、見に行くか、地球に行こうか」
「ありがとう」
少年の顔には満面の笑みが溢れていた。
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