蛇山の一夜

初月・龍尖

蛇山の一夜



 1人の女が雨の降りしきる山道を歩いていた。

 通り慣れた山道を女が歩いていると道の脇に男が転がっていた。

 その男からは濃い呪詛の香りが立っていた。

 女が男を担ぐと女の髪が持ち上がり蛇に転じ男に威嚇をはじめた。

「はいはい、威嚇しないの。新しい仔が出来るかもしれないでしょう?」

 女は蛇を諌めながら男を棲家へ持って帰った。


 男が激しい頭痛で目を覚ますと見えたのは知らない天井だった。身体は何かで拘束されていて目の前には髪の長い女の顔があった。

 おはよう、と女が言った。

「わしは、逃げられたのか……?」

 男が言うと女は首を横に振った。

「多分まだ繋がっているわよ。調べて欲しいならもっと深く視るけれど」

 男が小さく首を縦に振ると女の髪が一斉に持ち上がり様々な蛇に転じた。男に向けられた眼が全て光り男に繋がった線が浮かび上がる。女の視界は浮かんだ線を辿り男の使役者、その優男の姿が視えた。

 その優男の周りには彼への呪いが渦巻いていた。呪いがどれだけ渦巻こうとも彼には全く響いていなかった。

 女の瞳という瞳に男の顔が写った。

「大丈夫、線はもう切れるわ。あなたが望めば」そう女は言って男の頬に伝った涙をぬぐった。

 男は目を閉じて深く息を吐いた。そして痛みに顔を歪めた。

「少し待ちなさい。癒やすわ」そう言って棚から桶を取り男の斜めに走った紫黒い傷にとろみのある水を垂らした。焼けるような音と焦げる匂いが部屋に充満し男はうめき声をあげた。

 垂らした水は泡立って固まり、男の股にある剣が天に向かって立ち上がった。

 痛いわよ、と言って女は固まったかさぶたを一気にはがした。女は痛いと言ったが男は痛みよりも快楽を感じた。

 傷が癒えたところで女は薄い板状のものを噛み砕き男と唇を合わせ口内に流し込んだ。そして覆いかぶさった。


 半刻ほどで女は男の精をその身に入れた。

 女は煙管に入れた薬草の煙を肺に満たし細く吐いた。それを3回行い部屋を煙で満たした。

 煙の満ちた部屋で男は安堵の表情で永遠の眠りに落ちていた。

 女は腹に手を置きへその辺りから下へ下へと順に押していった。

 声を抑えながら手を下げていき女は卵を産んだ。小さな卵がふたつ。それらを抱き上げ女の顔は笑みに変わった。



 蛇山に立ち入ってはならぬ。

 立ち入れば蛇姫に精気を吸われ二度と外へ戻ることはないであろう。


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蛇山の一夜 初月・龍尖 @uituki

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